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【特集】“働き方改革”陰の立役者、風雲に乗る「SaaS精鋭株」セレクション <株探トップ特集>

非生産部門で業務効率化のためのサービスを導入する動きが活発化している。主流は顧客がクラウドなどを経由してソフトを活用するSaaSに形式で、関連銘柄は要注目だ。

―企業の業務効率化を請け負うニューフェース、Sansan、フリーなどに脚光―

 人手不足への対応や「働き方改革」などのニーズを背景に、業務効率化のためのサービスを導入する企業が増えている。非生産部門では、こうしたサービスの多くは、ソフトウェアをクラウド上で利用するSaaS(サース:ソフトウェア・アズ・ア・サービス)が利用され、関連する企業にとって追い風となっている。新型コロナウイルスによる肺炎が経済に与える影響が懸念されるなか、影響を受けにくく、比較的需要が堅調な内需関連でもあることから、これら業務効率化につながるSaaS関連銘柄には要注目だろう。

●日本の労働生産性は先進国最下位

 日本は、他の先進国に比べて、いわゆるホワイトカラーの労働生産性の低さが指摘されている。日本生産性本部(東京都千代田区)によると、2018年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は46.8ドルで、OECD(経済協力開発機構)加盟36ヵ国中21位だった。日本の労働生産性は、トップのアイルランド(102.3ドル)の半分に満たず、6位の米国(74.7ドル)と比べても6割強の水準に過ぎない。主要先進7ヵ国では最下位の状況が続いている。

 労働生産性を決める要素は、付加価値額と労働者数、労働時間の3つであるため、こうした状況を改善するためにも、労働時間の短縮につながる仕組みの導入が必要となっている。これが生産現場だけではなく、非生産部門にも求められていることが、業務効率化サービスの導入につながっている。

●クラウド普及も高度な利用は低水準

 非生産部門で、事務作業などの効率を向上させるサービスは、従来はパッケージ製品による提供が中心だったが、近年ではサーバーに用意したソフトウェアを顧客がクラウドを経由して利用するSaaS形式が主流となっている。提供する企業側にとっては安定収入が見込めるなどのメリットがある一方、利用する側にとっても初期投資を抑えられることや、複数の端末から同じアカウントでいつでも利用することができることなどもメリットだ。また、更新などシステムの保守をする必要がないのも魅力とされる。

 政府もクラウドやSaaSの普及促進を図るため、11年に利用者保護やコンプライアンスに関するガイドを策定、それ以降も取り組みを続けている。この効果もあって、総務省が19年5月にまとめた「平成30年通信利用動向調査」によると、 クラウドサービスを利用する企業の割合は上昇傾向が続き、18年では調査対象の約58.7%と17年の56.9%から増加した。

 ただ、利用目的をみると「ファイル保管やデータ共有」「電子メール」「サーバ利用」は50%を超える一方、事務効率化に直接貢献する「給与・財務会計・人事」「営業支援」などの利用は低水準にとどまっている。今後は、これらの高度利用も増加するとみられ、クラウドの活用領域にはまだ拡大余地があるといえる。

●SaaS企業のIPOも相次ぐ

 更なる拡大が期待できるSaaSだが、株式市場でも19年のIPOで、6月に上場したSansan <4443> [東証M]や、12月に上場したフリー <4478> [東証M]など業務効率化につながるソフトをSaaSで提供する企業の大型上場が相次ぎ、存在感を増している。関連銘柄には成長ステージで先行投資による赤字企業もあるものの、成長性に注目したい。

 ラクス <3923> [東証M]は、交通費・経費精算システム「楽楽精算」やWEB帳票発行システム「楽楽明細」を手掛けている。成長を牽引する「楽楽精算」は、15年12月の上場時に掲げた早期目標の導入企業5000社を20年3月期第2四半期に達成。中期目標とする2万社の達成に向けて、テレビCMなどで更なる認知度向上を図っている。その効果もあって、足もとで「楽楽精算」は前年比5割増ペースで売上高を伸ばし業績を牽引しており、上期は前年同期比32%の大幅増収を達成した。第3四半期決算は2月13日に発表予定だが、現時点で累計営業利益8億3300万円(前期比32.7%減)を見込んでいる。また、クラウド型勤怠管理サービスの開発に着手したことにも注目だ。

 マネーフォワード <3994> [東証M]は、法人向け業務効率化クラウド「マネーフォワード クラウド」シリーズや個人向け家計簿アプリ「マネーフォワード ME」などを展開。足もとでは法人向けサービスが売上高の増加を牽引しており、19年11月期は55.8%増収となった。19年11月にはSaaSマーケティングプラットフォームを提供するスマートキャンプを子会社化し、SaaSマーケティング領域へ参入しており、中期的な成長力強化が期待できる。20年11月期は営業損益で34億1100万円の赤字~25億1100万円の赤字(前期24億4600万円の赤字)と赤字幅拡大の見通しだが、売上高は前期比55.0~60.0%増の110億9300万円~114億5100万円を見込んでいる。

 カオナビ <4435> [東証M]は、人材管理システム「カオナビ」を展開している。社員のスキルや評価履歴、また性格やモチベーションを一元管理することで適材適所の人材配置を実現できることや、特定の条件で検索すると社員の顔写真が並ぶシンプルな操作画面が特徴だ。人手不足が深刻化するなか、企業では社内人材を有効利用する動きが強まっており、利用企業数は19年9月末で1535社と、1年間で460社増加した。テレビCMをはじめとしたマス広告の開始などマーケティング活動にも注力し、先行投資を実施するため20年3月期は2億5000万円の赤字~3億5000万円の赤字(前期7300万円の赤字)見通しだが、売上高は26億円(前期比53.8%増)を見込む。トップラインの拡大に注目する投資家も多く、2月14日に発表予定の第3四半期決算への注目度も高い。

 Chatwork <4448> [東証M]は、メールや電話、会議に代わるビジネスコミュニケーションツールとして普及が進むビジネスチャットの大手。累計登録ID数は19年9月末291万IDで、19年12月期末時点では300万IDの突破も視野に入るとみられており、2月14日に発表予定の決算への関心も高い。11月に発表した第3四半期累計(19年1-9月)単独決算では、営業利益が6100万円となり、通期計画に対する進捗率が91%だったことも、関心を高める要因となっているようだ。

 このほか、業務効率化につながるSaaSサービスの拡大に伴い、さまざまなクラウドサービスに対して横断的に、セキュアなアクセスとシングルサインオン機能などを提供するSaaS認証基盤「HENNGE One」を手掛けるHENNGE <4475> [東証M]も注目されている。同社は1月17日、導入企業社数が1500社を突破したと発表した。SaaSの普及が進めば顧客基盤の強化につながるため成長余地が大きく、2月12日に予定されている第1四半期決算で足もとの進捗状況などを見極めたい。

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