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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―大きな潮流が始動し始めたのか

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第24回 「大きな潮流が始動し始めたのか」

●大統領選に向けての逆算

 トランプ大統領の最重要目標は2020年11月3日の大統領選での再選です。前回大統領選直前の2016年10月末の NYダウ安値は1万7833ドルでした。これがこの12月12日に2万8224ドルの高値を記録しました。NYダウは3年余りで1万0391ドル、58.2%も上昇しました。普通に考えればトランプ大統領の再選は揺るぎのないものです。

 ところが、現実は違います。トランプ大統領の支持率は44%で不支持率53%を9%ポイントも下回っています。トランプ大統領支持率が不支持率を上回ったのは大統領就任直後の一瞬のみで、その後の3年間近くは8~20%ポイントも不支持率が支持率を上回る状態が続いています。大統領再選の道筋は依然として険しいと言わざるを得ません。

 トランプ大統領は昨年11月の中間選挙にも全精力を注ぎました。その結果、上院における過半数を維持しましたが、議席が全改選になる下院選では共和党199議席対民主党234議席の結果に終わり、共和党大敗北を喫したのです。当時から懸念されていたのは大統領弾劾の可能性でした。当時の弾劾要因はロシア疑惑で、この問題での訴追はなくなりましたが、新たにウクライナ疑惑が浮上し、トランプ大統領を苦しめています。

 大統領弾劾には上院での3分の2以上の賛成が必要になるため、トランプ大統領弾劾が可決される可能性は限定的ですが、議会における弾劾裁判進行は大統領選にも少なからぬ影響を与えることになるでしょう。

●米中貿易戦争とFRB金融政策

 下院民主党は12月10日、ウクライナ疑惑に関して権力乱用と議会妨害の弾劾条項2項目を発表しました。トランプ大統領弾劾決議案は下院司法委員会で審議され、下院本会議で可決されれば上院で弾劾裁判が開かれることになります。トランプ大統領は民主党による「魔女狩り」だとの批判を強めており、熱烈なトランプ支持者の支持をさらに強固にするために弾劾手続きを活用しようとしているようにも見えます。

 しかし、民主党からの攻勢を受けているばかりでは大統領再選を確実にすることができません。金融市場が最重視している米中交渉について、これを前に進める判断を下した可能性が高まりつつあります。昨年の10月以来、米中貿易戦争は株価変動の最重要ファクターのひとつになってきました。もうひとつの最重要ファクターは米国金融政策です。昨年10月から12月にかけては米中貿易戦争激化とFRB利上げ政策が重なってNYダウが急落しました。この流れを断ち切ったのが1月のパウエルFRB議長による政策転換示唆発言でした。

 1月から4月まで株価は順調に回復しましたが、5月5日にトランプ大統領が対中国強硬策をツイートして株価下落がもたらされました。このときも、6月にパウエル議長が利下げ示唆発言を示して株価下落を食い止めました。ところが、8月1日にトランプ大統領は再び対中国強硬策を示し、株価下落を発生させたのです。

●米中交渉再開公表が分水嶺になったか

 この株価下落の流れを変えたのが9月5日の米中交渉日程公表でした。これ以降、紆余曲折を経ながらも、トランプ大統領が提示した追加の関税率引き上げが実施されずに、米中合意形成に向けての交渉が進められてきました。

 12月15日に制裁関税発動第4弾の未実施部分が実施される予定になっていて、米中交渉でこれが先送りされることになるのかどうか、金融市場が注視してきました。まだ確報ではありませんが、米中両国が農業分野などで一部妥結に近づき、12月13日にも制裁関税緩和で合意するとの見通しがホワイトハウス関係者からの情報として伝えられています。

 全面的な合意形成には、なお時間を要すると見られますが、トランプ大統領としては大統領再選に向けて、何らかの目に見える成果が必要になったのだと考えられます。中国政府は本年5月の交渉時点から、米国の要求に対する毅然とした姿勢を示し始めました。その結果としてトランプ大統領の追加政策提示が生じたのですが、結局のところ、米国側が、挙げたこぶしを降ろさざるを得ない状況に追い込まれたと言えます。

 米国に対しても、絶対に譲れぬ一線は守り抜くことを明示した中国の外交交渉技量は卓越していると言えるでしょう。トランプ大統領の要求を丸呑みしてしまう日本外交には中国から学ぶ点が多いと言えます。

●「消費税効果」対「米中交渉効果」

 その中国の代表的な経済指標である製造業PMI(Caixin)の11月数値が51.8ポイントに上昇しました。50を超えれば景気回復とされる指標で、中国経済が粘り腰を発揮していることが読み取れます。

 日本株価はNYダウとの連動性が高いのですが、昨年10月以降は上値切り下げ型のチャート変動を示してきました。本年10月からの消費税増税実施に伴う経済への下方圧力が警戒されてきたのだと考えられます。

 しかしながら、9月以降は、この上値抵抗線を突破して株価堅調が観察されています。9月5日が米中交渉の悪化から緩和への転換点になったことと整合的な動きであると言えるでしょう。米中間の第1弾合意内容を精査する必要はありますが、大きな流れとして米中対立が緩やかに緩和される流れが強まりつつあるように感じ取られます。

 トランプ大統領の言動は一朝一夕で激変するところに特徴があり、常に予断を持つことは許されないのですが、日々の紆余曲折のなかからでも読み取ることのできる潮流、トレンドを見極めることが投資戦略構築のためには重要になります。

 米中対立の緩やかな緩和と日本増税政策に伴う実体経済悪化の綱引きをどう読み解くのかが重要なポイントに差し掛かります。

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(2019年12月13日 記/次回は12月28日配信予定)

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