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【特集】原油プレミアムは縮小、サウジ報復回避で中東の地政学リスクが後退 <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 正式な発表はなく報道は錯綜しているが、中東の緊迫感は後退に向かっている。先月14日にサウジアラビアの石油生産施設が攻撃され、親イラン武装組織フーシ派(アンサール・アッラー)が犯行声明を出し、サウジや米国はイランが関与したと断定しているにも関わらず、米国とイランは対話開始に向けて接近した。サウジとフーシ派はイエメンの一部停戦で合意したと伝わっている。

●驚きの停戦合意

 先週、ダウ・ジョーンズが関係筋の話として伝えたところによると、サウジアラビアはイエメンでの一部停戦に合意した。事実ならば2015年から始まったイエメン内戦が終結する兆しが出てきた。イエメンの首都サナアなど4地域でまずは停戦し、合意が守られる場合には停戦地域を広げていく。先月28日の大規模な戦闘の結果、フーシ派によってサウジ兵が拘束されたとの報道があり、サウジとフーシ派の停戦が正式に合意するのか、今後の報道を見守らなければならないが、フーシ派のなかには戦闘を続けることに消極的な一派があるようだ。

 停戦が実現するならば、犬猿の仲であるサウジとイランの確執が和らぐことを示唆する。イエメンはサウジとイランの代理戦争の場である。サウジの石油施設にあれだけ大規模な軍事攻撃が仕掛けられたにも関わらず、サウジがイランの関与を指摘しつつ反撃せず、イエメン内戦が停戦に近づいていることは理解が全く追いつかない。これまでにイエメン情勢の沈静化を連想させる出来事はあったが、中東戦争勃発かと思われていたなかでの停戦報道は驚き以外のなにものでもない。サウジの次期国王であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子はイランへの軍事報復を否定し、イエメン内戦について「政治的解決に向けあらゆるイニシアチブの用意がある」と述べている。

●米国とイランは対話実現に向け接近か

 先週、イランのロウハニ大統領は、英独仏の首脳から米政府がイランに対する制裁を解除する意向であると聞かされたほか、米政府が協議の見返りに制裁解除を提案してきたが応じなかったと述べた。一方で、トランプ米大統領は、イランの協議開始を引き換えとした制裁解除要求を拒否したと語るなど、各国首脳の発言は相反している。ただ、米国はイランが核開発停止など要求を飲まない限り制裁を解除しないと繰り返しており、トランプ米大統領の発言内容に目を向ける部分はないが、ロウハニ大統領の発言は興味深い。

 先月14日のサウジ石油施設攻撃によって、国連総会で米国とイランの首脳会談が行われるという観測は実らなかった。ただ、イラン攻撃の機運が一時的に高まったにも関わらず、米国とイランは対話実現に向けて接近を続けている印象が強い。イランは従来のように制限なく原油を売りたがっており、米国が制裁を解除あるいは緩和すればイランの要求は叶う。イランはこの要求が受け入れられるなら、協議に応じる可能性が高く、協議開始はトランプ米大統領のさじ加減次第である。

●中東で何が起こっているのか知る由もないが……

 米国やサウジがイランに対する報復攻撃を見送るだけでなく、関係性を修復しようとしている。一連の報道を見る限り、思い違いではなさそうだ。サウジの石油施設攻撃はイラン製の巡航ミサイルや無人機が使われ、イランが強く非難されたが、ただそれだけの出来事として蓋をされそうな気配である。

 米国製のミサイル防衛システムの隙を突いた軍事攻撃がサウジやイスラエルに再び仕掛けられることはないのだろうか。石油輸出の要所であるホルムズ海峡の危機は去ったのか。わからないことだらけである。

 イランを巡る緊張が緩和すると、原油市場に織り込まれているプレミアムは縮小する。プレミアムとは中東で有事が発生した場合の割増価格であり、相場を揺り動かす要因でもある。このプレミアムは先月14日のサウジ攻撃で一気に高まったが、現在は攻撃が行われる前よりもしぼんだのではないか。米国やサウジはイランに対する敵視政策を修正しつつあり、中東で何が起こっているのか知る由もないが、原油相場はさらに軟化しようとしていると思われる。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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