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【特集】加速する「電線地中化」、“小池関連”で活躍必至の材料株に電撃アプローチ <株探トップ特集>

電線地中化に再びマーケットの注目が集まっている。防災対策として待ったなし。小池百合子都知事も言及した「無電柱化の加速」でクローズアップされる銘柄群を追った。

―台風被害でテーマ性再燃、3500万本の電柱撤去に本気の取り組みが始まる―

 電線地中化(無電柱化)関連株に注目が集まっている。9月9日早朝、関東に上陸した台風15号は甚大な被害を及ぼし、千葉県や神奈川県を中心とする大規模停電が発生した。電気や水道の供給がストップしたことで社会生活に大混乱を及ぼすことになったが、広範囲に及ぶ倒木が電線や電柱を壊滅的な状態に追いやり、復旧を遅らせることになった。また、強風で電柱の倒壊も相次いだことから、防災対策としての電線地中化に改めて関心が高まっている。関連銘柄の動向を追った。

●「まさしく防災そのもの」

 電線地中化の推進は、いまに始まったことではない。東京都は来年に控える五輪に向けて、地中化を急速に進めてはいるが、それでも主要道路が中心であり、都全体で見ればいまだ微々たるものに過ぎない。また、日本全国では3500万本を超える電柱があることに加え、依然として本数が増え続けているとのデータもあり、まさに“いたちごっこ”の様相のなか、電線地中化の完遂に長い年月がかかることは明白だ。そういった意味では、国家的プロジェクトなしに全国規模の電線地中化は成し遂げられないといえ、長期にわたり、この分野におけるニーズは続くものと予想される。ただ、地中化推進のネックのひとつに設置費用の高さが挙げられており、コスト低減が大きな課題となっている。

 台風15号の被害からの復旧が遅れるなか、小池百合子都知事は、9月13日の会見で「無電柱化の加速」について言及、更に「これはまさしく防災そのもの」としたことで、これもまた関連銘柄の一角を刺激することになった。そもそも、株式市場においては電線地中化関連株を“小池関連”として捉える風潮がある。2016年の夏、熾烈な東京都知事選挙の末に小池都知事が誕生。この選挙戦において、小池候補(当時)が減災などの観点から電線地中化の推進を掲げたことで、株式市場では電線株や共同溝などを手がける関連銘柄に注目が集まったことが、小池関連と言われるゆえんだ。そういった意味において、小池都知事の任期満了が来年の7月30日に迫るなか、仮に再選出馬となれば、知事選に向かって電線地中化関連株への注目度が急速に高まる可能性がある。特に、今回の台風15号での被害を踏まえ、防災・減災の観点から電線地中化推進は大きな選挙テーマのひとつとなることも考えられる。

●“感応度”の高さでイトーヨーギョー、ベルテクス

 こうした一連の動きに、いち早く株価が反応したのが、共同溝などコンクリート2次製品を手掛けるイトーヨーギョー <5287> [東証2]だった。9月初旬には700円近辺だった株価が急動意、同月24日には1027円まで買われ年初来高値を更新。その後若干調整したものの、現在は900円台後半で高値奪回も視野に入れている。同社は狭小空間でも無電柱化を実現する「S.D.BOX」、上部を側溝に下部を電線類収納スペースとして利用し道路空間を有効活用できる小型ボックス「D.D.BOX Neo」など数多くの製品を扱っていることから投資家の視線も熱く、株価は“電線地中化感応度”の高さを見せつけた格好だ。

 また、ベルテクスコーポレーション <5290> [東証2]の動向からも目が離せない。同社は昨年10月、ゼニス羽田ホールディングスとホクコンの共同株式移転によって、完全親会社となる「ベルテクスコーポレーション」として設立。ゼニス羽田HDといえば、イトーヨーギョーと双璧をなす電線地中化関連の中核的存在だったことを忘れてはならない。株価は8月中旬につけた直近安値1236円を底に反騰局面入りとなっており注目は怠れない。

●「これに文句を言う人はいない」

 ある国内準大手証券ストラテジストは「電線地中化はかなり以前から株式市場のテーマとしてあったが、現実問題としてこれまで整備があまり進捗していなかった。東京五輪を前に景観の問題が言われていたが、それでは電線地中化を加速させる動機としては弱い。しかし、今回の神奈川や千葉を襲った台風15号による被害を目の当たりに、電柱撤去が喫緊の課題となった。小池都知事がいよいよ本気になったという印象を投資家に与えたことは大きい。今秋に景気対策として補正予算が組まれるとして、公共投資拡大が分かりやすい重点分野。その際に災害対応、つまり電線地中化などは最優先されてしかるべきで、これに文句を言う人はいない」と期待感を寄せる。

 では、実際に電線地中化の現状を企業側としてどう受け止めているのだろうか。匿名を条件に答えた業界関係者は「国道など幹線道路への設置については一巡感がある。また無数にある狭隘(きょうあい)な道路については、あくまでメーカーの立場としてだが、正直なところあまり“うまみ”が多いとは言えない。ただ、今後も需要は着実に続くとみている」と話す。コンクリート事業者の一部では一巡感も出ているようだが、今回の台風による被害からも分かるように、地方のとりわけ市街から離れた地域への広がりはまだまだ。防災・減災の観点からみた日本全国無電柱化の動きは、まだ緒に就いたばかりだ。

●日本ヒュームにも注目

 コンクリート2次製品の分野では日本ヒューム <5262> にも注目したい。同社が扱うヒューム管は、上下水道、農業用水や工業用水、更に雨水を流すための管、そして地中に電線などケーブルを通すための管など、あらゆる分野で利用されており、電線地中化関連の一角としても投資家の注目度は高い。8月8日に発表した19年4-6月期営業利益は、前年同期比41%増の4億3500万円、経常利益も同31.5%増の9億5900万円と大幅な伸びを見せており、電線地中化思惑だけでなく業績面でも期待感が高まっている。株価は、8月6日に608円まで売られ年初来安値を更新、そこを起点に切り返し、きょうは18円高の787円まで買われ上値指向を強めている。PER10倍台、PBRは0.6倍前後と株価指標面での割安さも買い手掛かりとなっている。そのほかでは、日本コンクリート工業 <5269> 、旭コンクリート工業 <5268> [東証2]などの動きにも注意を払っておきたい。

●建設コンサルでオオバ、長大

 電線地中化の動きが加速するなか、建設コンサルにも需要拡大のステージが広がっている。オオバ <9765> は昨年2月、東電タウンプランニングと「無電柱化推進事業等を中心とする建設コンサルタント業務の共同事業展開」について、業務提携基本合意書を締結。オオバが強みとする区画整理や再開発などと、東電タウンプランニングの得意分野である電線共同溝など配電設備の地中化技術を提案することで差別化を図るというもの。

 同社では「東電タウンプラニングとの提携効果は出てきている。既に東京都、静岡県の調査設計の案件などについて受託し協働して仕事を進めており、東京都などからは今後もさまざまな形での受注を期待している。また民間からも具体的な案件が成約しており、今後は更に案件が増加するとみている」(企画本部)と話す。両社は、昨年の意見交換のなかで「東京都における都道の狭隘道路などの無電柱化事業において、両社の技術を生かして、防災上の観点から安全・安心なまちづくりを展開していく」としており、今後は電線地中化が幹線道路以外に広がりをみせると予想されるなか活躍期待が高まりそうだ。前述した“メーカー”の一部では、狭い道路などへの設置については「うまみが少ない」との声もあるが、コンサルにとって無数にある狭隘な道路は宝の山になる可能性が高いといえそうだ。株価はきょう動意づき前日比17円高の650円で取引を終了している。

 同じく建設コンサル大手では、長大 <9624> が9月17日に10連騰、更に同日には14年9月以来となる5年ぶりの4ケタ大台乗せを達成し投資家の熱い視線を集めている。道路や橋梁など公共投資向けのウエートが高い建設コンサルタント会社で、国土強靱化の政策テーマを背景にビジネスチャンスが膨らんでいる。また、電線共同溝の配置計画から施工管理までの広範囲な取り組みも行う。業績も好調で、19年9月期業績は営業利益が前期比29%増の22億円見通しだ。現在の株価は1000円大台割れの900円台半ばにあるが、社会的ニーズを追い風に再び上昇波動に乗る可能性もある。

 また、地中埋設用ケーブル保護管「エフレックス」シリーズで攻勢を掛ける古河電気工業 <5801> 、フジクラ <5803> など、いわゆる“電線御三家”の一角にも期待感が漂っている。地中化に伴い、膨大な新規需要の拡大が予想され収益への貢献が期待されるからだ。加えて、来春から順次スタートする5G(第5世代移動通信システム)関連株の一角でもあり、その切り口の多彩さは魅力だ。更に、通信工事大手のコムシスホールディングス <1721> 、協和エクシオ <1951> からも目が離せない。

 徐々に加速する電線地中化の動きだが、今秋の補正予算に加え、来年に控える都知事選など、今後注目のスケジュールが続くことになる。

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