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【特集】連鎖した危機――日経平均「下値メド」と「復活の条件」 <株探トップ特集>

暴落の引き金を引いたのものは何か、そして下値メドは。日経平均が一時1000円超安となる暴落に見舞われた11日東京株式市場の行方を追った。

―総力検証・大波乱相場の行方、誰が暴落スイッチを押したのか―

 株式市場は大勢上昇トレンドにあるときは、時価総額の拡大が実体経済にも資産効果をもたらす、いわば黄金の泉といってよい。しかし、晴天にいきなり稲妻が走るがごとく、その風景はあっという間に趣を変え、一瞬にして投資マインドを魔の淵へと引きずり込む怖い側面も併せ持っている。投資家は常にそうしたリスクと向かい合っているということを、改めて思い知らされたのが今回の米国を震源地とする波乱相場だ。

●暴落スイッチ入り、下値のフシをことごとく突破

 11日の東京株式市場は日経平均株価が前日比915円18銭安の2万2590円86銭と急落。一時1000円を超える暴落をみせ、2万3000円台を一気に下抜け2万2000円台半ばまで水準を切り下げた。前日まで下値のサポートラインとして意識されていた25日移動平均線(2万3360円近辺)を大きく下回っただけではなく、75日移動平均線が位置する2万2720円ラインも完全に突き抜ける強烈な下げとなった。

 このリスクオフ相場を先導したのは米国。前日にNYダウ は800ドル強下落し、ハイテク株比率の高いナスダック総合指数は300ポイント以上水準を切り下げており、この大波が東京市場にも押し寄せる格好となった。引き金を引いたのは米長期金利の上昇だ。米労働省が発表した9月のPPI(卸売物価指数)は市場コンセンサスと合致したが、エネルギーと食品、仲介サービスを除く部分では市場の予想を上回った。このわずかな見通しのズレが物価上昇圧力の高まりを意識させ、債券売りの流れを助長した。

●米長期金利上昇・VIXショックの再来

 米財務省が実施した3年債入札が不調に終わったこともあって、米10年債利回りは一時3.24%まで急上昇、その後は株安が加速したことで、安全資産である債券へのシフトを促し利回りを低下させたが、株式市場におけるリスク回避の流れはいかんともしがたく、NYダウ、ナスダック指数ともにこの日の安値圏で着地した。“恐怖指数”とも呼ばれる米VIX指数は前の日から44%上昇し22.96に達した。2月にも米長期金利の急上昇を背景にVIX指数は終値ベースで37.3まで急騰し、“VIXショック”と称された経緯がある。その時の再来を思わせる動きだ。

 こうなると、一段と先鋭化する米中貿易摩擦の問題も買いを手控えさせるネガティブ材料として相場の重石になり、投資家マインドを萎えさせる。トランプ米政権の中間選挙に向けたラストスパートが、米経済や株式市場にポジティブに働くとは限らない。長期金利上昇だけならまだしも、これ見よがしな対中圧力は米株市場にとっても売りの火種となっている。売りが売りを呼ぶ負のスパイラルに陥る懸念も否定しきれない状況だが、果たしてこの波乱相場の“終着点”はどこなのか、にわかに市場関係者も固唾を呑む局面に遭遇している。

●上海株安だけではない、資金流出懸念が新興国襲う

 海外株市場の動向を改めて俯瞰(ふかん)すると、株安が懸念されていた中国・上海株市場が1月の高値水準から前日時点で23%強の下落となっているが、8月末以降はむしろインド株市場の下げの厳しさが目を引く。インドのSENSEX指数は8月29日を境に下降トレンドに突入し、10月9日時点で12%下落。1ヵ月あまりで1割以上も時価総額を減らしている。米中貿易摩擦懸念の裏側で、インドは“漁夫の利”を得る相対的優位な立ち位置とみられ、今年春先から株価は上昇一途、新興国マーケットからの資金流出懸念を緩和する拠りどころともなっていた。しかし、その構図も崩壊しつつある。

 米長期金利上昇に伴う本国への資金回帰(レパトリエーション)が、新興国経済へ悪影響を与える流れが強く意識されれば、今の世界株安のムードを増幅させる可能性もある。株式評論家の植木靖男氏は「まだ、日本株の先高観が霧消したわけではないと考えている。しかし、インドの強気相場は、ここにきての急落で終わった感がある。投資家は上海株安に目を奪われがちだが、それ以外の新興国株安が火種となる可能性は否定できない」としている。また、日経平均についても「2万4000円、2万3000円と2つの大台ラインを一気にまたいで下げてきた現状は、スピード調整の域を超えている。今後、戻りに転じても10月2日の年初来高値は抜けず2番天井をつけにいく展開にとどまるのではないか」という見解を示している。

●VIXアルゴ作動、深まる秋相場に危険な香り

 また、ブーケ・ド・フルーレット代表の馬渕治好氏は「今回の米株急落はVIXにリンクさせたアルゴリズム売買が作動した影響もありそうだ」としながらも、「下げ過ぎの反動でいったんリバウンドするとみているが、日経平均2万4448円(10月2日の高値)が今年の高値になった可能性は否定できない」とする。なお、馬渕氏は、今回の波乱以前に11月頃までは米中間選挙を控えたトランプ大統領のリップサービスや日米ともに好調な企業業績が株価を支えるものの、それ以降はそうしたプラス材料も剥落して株高トレンドもピークアウトするという持論を展開していた。「(米国株は)2月急落時と比較してバリュエーション面で割高感に乏しく、このまま下値模索を続ける公算は小さいが、日米株価はいずれにせよ11月に入れば、次第に調整色を強める」(馬渕氏)という主張は変わっていない。

 ただし、全体相場は今年の2番天井をつけに行くにしても早晩切り返し、このまま崩落相場に突入するとみている市場関係者は少ない。となれば、問題は下値メドだ。

●下値「2万2450円」をめぐるせめぎ合い

 証券ジャパン調査情報部長の大谷正之氏は「日経平均は、今月下旬から発表が本格化する4-9月期決算の内容を織り込みながら、徐々に修復されていく展開となりそうだ」とファンダメンタルズ面からの見直し余地に言及するとともに「日経平均は週足ベースでみれば、3月安値を起点とした下値切り上げ型の上昇波動を依然として堅持しており、その前提でいけば2万2450円がその下値メドとなる」と、この日の前場、比較的下げの浅い段階で指摘していた。そして、日経平均は後場に下げ幅を広げたが、くしくもこの日の取引時間中の安値は2万2459円02銭であった。言わずもがな、大谷氏が示した下値ポイントに首の皮一枚残している。春先からの下値切り上げ波動を維持できるか否か、まさに水面下でのせめぎ合いの跡をうかがわせる動きとなった。

 米株市場を横にらみに日本株の試練は続くが、株価形成の源流をたどればそれは企業のファンダメンタルズであることを忘れてはならない。ここから日経平均は頑強に売り物をこなして切り返すのか、それとも力尽き中期トレンド下降転換を余儀なくされるのか、文字通り正念場を迎えている。

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