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【特集】脚光「介護テック」、長寿大国ニッポンの切り札テーマへ <株探トップ特集>

介護問題においても課題先進国である日本。深刻な人手不足問題の解決に向けた切り札として期待されているのが「介護テック」だ。

―介護人材の不足深刻、2025年問題もテクノロジー導入後押し―

 長寿大国ニッポンは、介護に関しても課題先進国だ。特に人手不足は深刻で、介護職の有効求人倍率は、2017年度は3.6倍と全体の1.4倍を大きく上回った。政府は介護をはじめ、建設や農業など人手不足が深刻な業種を対象に新たな在留資格を創設し、25年までに単純労働者を含む50万人超の受け入れを目指す方針だが、対策としては不十分だ。

 こうした人手不足への対策として、介護業界では ロボット人工知能(AI)IoTなどのテクノロジーの導入が活発化している。「介護」と「テクノロジー」を合わせた「介護テック」という言葉も誕生しており、株式市場でも注目を集めそうだ。

●介護分野にロボット・センサー・AIを導入へ

 6月15日に閣議決定された「未来投資戦略2018」では、介護業界はITやAIなどの開発・導入を進め、生産性を高めるべき重点分野として位置づけられている。特に、「自立支援・重度化防止に向けた科学的介護データベースの実装」として、高齢者の状態やケアの内容などのデータを収集・分析するデータベースの運用を20年度に本格的に開始する。また、「ロボット・センサー、AI技術などの開発・導入」として、事業者による継続的な効果検証とイノベーションの循環を促す環境を整備し、得られた内容を次期以降の介護報酬改定などにおける評価につなげるとしている。さらにロボット・センサーについては、現場ニーズを捉えた開発支援や介護現場への導入・活用支援を進めるという。

●「2025年」迫り対応は急務

 介護分野へのITやAIなどの開発・導入を加速させる背景には、約800万人といわれる団塊の世代全てが75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」がある。要介護者の急増が見込まれるなか、今でさえギリギリの状態で事業を展開する介護事業者にとっては、事業破綻を防ぐためにもテクノロジーを導入することで生産性を高める必要がある。

 介護の現場では、介護作業が人の手で行われるのはもちろんだが、周辺業務ではITの導入が遅れているのが現状だ。人材の募集・定着のためにも、職員の負担軽減に役立つテクノロジーを導入する必要があり、今後さまざまな介護の現場で「介護テック」の普及が進みそうだ。

●「HAL腰タイプ介護支援用」は介護福祉機器助成の対象

 介護テックと耳にして、多くの投資家が思い浮かべる企業は、CYBERDYNE <7779> [東証M]の「HAL」だろう。

 同社では、脚力が弱くなった人の下肢機能向上の促進を目的に「HAL福祉用」(下肢タイプ)を展開しており、今年4月には最新版の「HAL自立支援用下肢タイプPro」の販売活動を開始した。HAL福祉用などの下肢タイプは、国内の福祉施設などで387台が稼働(18年6月末時点)。また、足腰などが弱った人の体幹・下肢機能の向上促進を目的とした「HAL腰タイプ自立支援用」も57台(同)が稼働している。

 一方で同社は、介護する側の負担軽減に向けて、「HAL腰タイプ介護支援用」も展開している。同製品は今年4月から厚生労働省の人材確保等支援助成金(介護福祉機器助成コース)で助成対象となったこともあり、現在798台(同)が稼働中だ。

●モーターを使用しないのが特徴の「マッスルスーツ」

 菊池製作所 <3444> [JQ]のモーターを使用しない装着型作業支援ロボット「マッスルスーツ」は、今年4月までの累計出荷台数が3500台を数えた。同製品は圧縮空気を用いた人工筋肉を採用したのが特徴で、介護現場では入浴介助のベッド・浴槽間の移乗作業などで用いられている。同社ではこのほか、高齢者の歩行促進向けに歩行支援ロボットを開発し実証実験を実施しており、医療用としては20年以降の販売開始を目指している。

 また、ニコン <7731> では北海道大学と共同で、腰の負担に応じて腰を締め付け、腰を守るアシストウェアを開発した。計測される負担に応じて、腰に負担がかかることを事前に予測。骨盤ベルトの締め付け力を適切に制御して、前屈時や荷物の持ち上げ時に腰にかかる負担を軽減するアクティブ型のコルセットで、介護作業者の負担軽減につながると期待されている。

●転倒・転落防止にセンサーを活用

 センサーを活用した製品も増えつつある。フランスベッドホールディングス <7840> の「見守りケアシステムM2」は、センサーがベッド利用者の体動や動作を検知し、ナースステーションに通知するシステムだ。これにより、ベッドからの転倒や転落の危険性を軽減するほか、認知症の人の徘徊による事故の予防につながるという。

 リコー <7752> とミネベアミツミ <6479> が開発し7月30日に発売した「みまもりベッドセンサーシステム」は、ベッドのキャスター下に設置したセンサーにより、利用者の在離床、在床位置、体動などの活動状態をリモートで把握できるシステムで、転倒・転落の予防に貢献する。既存ベッドへの後付けが可能な点が特徴だという。

●見守りセンサー設置で夜間職配置加算条件緩和へ

 ワイエイシイホールディングス <6298> 子会社ワイエイシイエレックスの施設型見守り支援システム「Mi-Ru(ミール)」は、利用者がベッドから離れようとした時に素早く検知、通知、モニタリング、声掛けするシステムを手掛けている。

 また、都築電気 <8157> [東証2]の「Neos+Care(ネオスケア)/A.I.B.」は、経済産業省ロボット介護機器開発導入促進事業における「見守り支援機器」の「優秀機器認定」第1号製品として認められた見守り機器。センサーが危険動作の予兆を検知して、通知された画像から介護者が危険度を判断することにより、適切な訪室を実現できる。

 これらのセンサーを用いたシステムは、介護老人福祉施設などにおける夜間職配置加算条件の緩和につながるだけに、今後導入する施設が増えそうだ。


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