【特集】進化するOPEC、原油生産コントロールの新たな枠組み「JMMC」 <コモディティ特集>
minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
―形骸化した協調減産、来年以降の需給バランス維持を産油国模索―
石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国による共同閣僚監視委員会(JMMC)に注目が集まりつつある。JMMCは今月23日にアルジェリアで行われる。
2017年、サウジアラビアを中心としたOPEC加盟国とロシアなどの非加盟国は、世界的な石油の過剰在庫解消と原油価格の回復のため、日量180万バレル規模の協調減産を開始した。減産が奏功し2018年前半で過剰在庫が払拭された後は、需給バランスを維持するため増産に舵が切られている。
●増産幅は各国裁量任せ
今年6月、OPEC加盟国とロシアなどの非加盟国は、日量180万バレル規模の協調減産を維持しつつ、過剰な減産を補填するために増産することで合意した。イランやベネズエラ、アンゴラの減産を補うようにサウジアラビアやロシア、イラクなどが増産し、全体的に過剰だった減産は解消に向かっている。5月に147%だった減産遵守率は、7月には109%まで低下した。ただ、2017年から始まった協調減産において各国に課された生産枠は形骸化しており、増産余力のある国が増産し、減産が避けられない産油国のシェアを奪っている。
例えば、OPEC月報におけるサウジの7月の生産量は日量1038万7000バレルと、協調減産の枠組みにおける生産枠である同1006万バレルをはっきりと上回っている。イラクやアラブ首長国連邦(UAE)もサウジと同様に生産枠を超過している。増産余力のある産油国は減産遵守率を下げるように増産を行っており、各国に新たな生産枠が設定されているわけではない。OPECとロシアを中心とした非OPEC加盟国は、来年以降も協調体制を維持する見通しであり、各国の判断に増産幅が委ねられている状態は早急に是正しなければならない。
●年末のOPEC総会に向けて各国の動向に注目
日量180万バレル規模の協調減産を維持しつつ、減産遵守率を100%に是正するという現行の合意期限は年末までである。次回のOPEC総会は12月であり、少なくとも年内は各国が好き勝手に増産する曖昧な生産体制が維持されそうだ。イランやベネズエラ、アンゴラの減産は続く見通しであり、米国の制裁によってイランの供給量が急速に減少することを踏まえると、減産遵守率を維持するためにも増産できる産油国は増産しなければならない。
ただ、イランの減産幅はイランを敵視し、制裁再開を決定したトランプ米大統領のさじ加減次第であり、未知数である。イランのタンカーを利用してイランからの原油輸入を継続し、米国による制裁回避を狙っている中国やインドの動きにも依存する。したがって、サウジやロシアなど主要な産油国にとって需給バランスを維持するのに必要な増産幅は不明であり、各国に生産枠を課すことはできない。全体的な生産水準も定めることはできない。
主要な産油国が来年以降も協調的な生産体制や需給バランスを維持しようとする際、従来の生産枠では供給量の変化に対応することが難しい。先月、クウェートのラシディ石油相兼電力水相は「アルジェリアの会合で生産数値を見直し、年末までに来年の生産を監視するメカニズムで合意するだろう」と述べており、今月のJMMCも含めて議論が行われる見通しである。
バルキンドOPEC事務局長は、ロシアなどの非加盟国を含めた長期的な協調体制を年末の会合で完成させることを望んでおり、枠組み合意を目指すと語った。2017年から始まった一時的な協調体制を土台に、価格統制能力のある枠組みが新たに作り出されようとしている。
米国の制裁によって崩壊に向かっているイラン経済や、米中貿易戦争の行方を眺めつつ、主要な産油国は歴史的に新たな一歩を踏み出そうとしている。OPEC総会に向けて、各国の発言に耳を傾けたい。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
株探ニュース