【特集】10年ぶり安値プラチナに“買い戻しが入る時”、反転占う「通商協議」の行方 <コモディティ特集>
minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行
―高まる売られ過ぎの見方、パラジウムには先高感―
プラチナ(白金)の現物相場は8月、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ見通しや貿易戦争に対する懸念に加え、トルコの通貨危機によるリスク回避の動きを受けて一段安となり、8月16日に2008年10月以来の安値756.5ドルをつけた。リスク回避の動きが一服すると、800ドル台を回復したが、トランプ米大統領が2000億ドル規模の中国製品に対する追加関税を発動させる意向を示したことなどで上値を抑えられた。米中の貿易戦争激化で需要が伸び悩むと、高値での買いは見送られる。
一方、8月に13ヵ月ぶりの安値832.8ドルをつけたパラジウムはリースレート(貸出金利)が急騰、供給ひっ迫懸念が高まって急反発し、989ドル台まで戻した。プラチナはこれまでの下落で売られ過ぎとの見方が強く、米国との通商協議で貿易摩擦が解消されると買い戻し主導で上昇する可能性も出てくる。
●米中の貿易戦争激化もNAFTA再交渉で合意なら上昇の可能性も
トランプ米大統領は30日、パブリックコメント期間終了後、2000億ドル規模の中国製品に対する追加関税を発動させる意向を示した。パブリックコメント期間は9月6日に終了する見込み。
米国は7月6日に340億ドル相当の中国製品に対する25%の追加関税を発動し、8月23日には第2弾となる中国製品160億ドル相当に対する追加関税を発動した。8月22~23日に米中の通商協議が再開したが、大きな進展は見られず、貿易戦争は激化している。米大統領は知的財産権を侵害しているとし、最終的には中国からの輸入品全額となる5000億ドル相当の製品に追加関税をかける方針である。
中国はこれまで米国と同規模の500億ドル相当の米国製品に追加関税を課しており、次は600億ドル相当に追加関税を発動する方針である。ただ、中国の米国製品輸入は1300億ドルであり、中国に不利となっている。当面は11月の米中間選挙までに解消される動きが出るかどうかを確認したい。
一方、米国とメキシコが北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉で8月27日、合意に達したことが伝えられた。米国とカナダの協議も再開されたが、期限となる31日までに合意できなかった。ただ、9月5日から再開するとしており、合意できればリスク選好の動きでドル安に振れ、プラチナは買い戻し主導で上昇する可能性が出てくる。
7月の米欧首脳会談は貿易戦争回避で合意したが、先送りされていた自動車に関して、米大統領は自動車関税をゼロにするという欧州連合(EU)の提案を拒否した。欧米の交渉がまとまらなければ先行き懸念が残る。
●プラチナは先物売りもETFに安値拾いの買い
米商品先物取引委員会(CFTC)建玉明細報告によると、ニューヨーク・プラチナでファンド筋の売り越しが続いている。8月28日時点のファンド筋の売り越しは1万0976枚となった。
過去最高となった前週の1万0992枚から売り越しは縮小したが、11週連続の売り越しとなっており、売り圧力が強い。一方、プラチナETF(上場投信)残高は8月31日時点でロンドンで9.97トン(7月末10.96トン)に減少したが、米国で19.20トン(同17.90トン)、南アフリカで23.38トン(同22.87トン)に増加し、安値拾いの買いが入った。引き続き買われると下支え要因になるとみられる。
ただ、南アが発表した4~6月(第2四半期)国内総生産(GDP)が2四半期連続のマイナス成長となり、リセッション(景気後退)入りした。第2四半期は前期比年率0.7%減と事前予想の0.6%増から予想外に悪化した。第1四半期は鉱業、製造業の生産が落ち込み、同2.2%減と9年ぶりの大幅減少となっていた。
南ア通貨ランドはGDP発表を受けて急落し、新興国通貨全体を押し下げた。トルコの通貨危機に加え、アルゼンチンが通貨(アルゼンチン・ペソ)暴落に対して緊急で財政再建策を発表しており、新興国市場に対する懸念が強い。南アのプラチナ生産が減少すると、プラチナ価格の下支え要因になるが、リスク回避で投資資金が流出すると、予想外の安値をつける可能性も出てくる。
●パラジウムはリースレート急騰で供給ひっ迫
パラジウムはトルコの通貨危機によるリスク回避の動きを受けて一段安となったが、リースレート(貸出金利)が急騰したことをきっかけに急反発した。リースレート1ヵ月物は8月15日の6.06%から16日に37.58%に急騰した。
数日で急騰は一服し落ち着いたが、9月3日は10.11%と高水準を維持した。供給ひっ迫が続くと、1000ドルを目指すとみられる。パラジウム堅調が続くと、プラチナの買い戻しにつながる可能性もある。ただプラチナのリースレート1ヵ月物は3日は0.46%と8月15日0.31%から上昇したが、供給ひっ迫感が出るような状況ではない。
米調査会社JDパワーとLMCオートモーティブによると、8月の米自動車販売台数は前年同月比1.3%増の128万台になる見通し。年率換算は1680万台で、前年同月の1650万台から増加すると予想された。通商リスクにもかかわらず今年最大の伸びとされ、販売は好調とみられている。
フォードの新車販売は前年同月比4.1%増の21万8504台、トヨタは同2.0%減の22万3055台となった。ゼネラル・モーターズ(GM)は月次の販売台数の発表を行っていない。米国の消費者の需要は乗用車からより大きく快適なスポーツタイプ多目的車(SUV)やピックアップ・トラックにシフトしている。
(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)
株探ニュース