【特集】堅調・原油価格の“違和感” 見え始めた「米経済の陰り」と貿易戦争 <コモディティ特集>
minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
―楽観続く米株市場と弱含みつつある景気指標、原油市場の消化これから―
先週22~23日に行われた次官級の米中通商協議で前進はなかった。米ホワイトハウスは「公平でバランスが取れ、相互主義的な経済関係の実現方法」について意見交換したと発表しただけだった。中国商務省は協議終了後の声明で、貿易問題について建設的で率直な意見交換をしたとの認識を示したが、ハイレベル協議に向けた具体的な日程は示されなかった。
11月にアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催される20ヵ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議において、トランプ米大統領と習近平・中国国家主席の首脳会談が行われ、年末にかけて米中貿易戦争が収束に向かうという淡い思惑はほぼ消えたと思われる。先週23日に米中双方は160億ドルの輸入品に対する25%の追加関税を発動しており、対立は深まっている。米国の敵対的な第3弾の関税を警戒しなければならない。
●景気見通し弱含みで石油需要にも影響
米国は2000億ドルの中国製品に追加関税を発動する準備段階にある。すでに追加関税が課されている500億ドルに2000億ドルが加わると、中国からの輸入品の約半分に敵対的な関税が上乗せされることになる。対立の拡大によって中国の景気減速懸念が強まることは確実であり、世界的な景気見通しは一段と弱含む。
国際エネルギー機関(IEA)や石油輸出国機構(OPEC)は石油の需要拡大見通しを修正せざるを得ないと思われる。IEAは2018年の石油需要を前年比・日量140万バレル増、2019年は同150万バレル増と見通している。中国と米国の石油需要の合計は世界全体の約3割を占めることから、両国の景気見通しは石油の需要見通しを大きく左右する。
●米国も安泰ではない
主要国で景気が最も堅調な米国も安泰とはいえない。8月の米ミシガン大学消費者信頼感指数は95.3まで低下し、2017年9月以来11カ月ぶりの低水準となった。ミシガン大学によると、住宅や自動車を高いと感じる消費者が増えるなかで、指数全体も弱含みつつある。米連邦準備理事会(FRB)が利上げを続けていることから、住宅や自動車ローンの負担が拡大している。消費拡大が腰折れする兆候はみられないものの、住宅価格や家賃の上昇率は賃金の伸びを上回っており、消費者心理にのしかかっている。
米国が中国からの輸入品の約半分に対して追加関税を課し、落ち着いている米国の物価上昇率が加速するようだと、消費者は新たな逆風にさらされる。中国に対する攻勢を緩めないためには、国内経済に対する重しを軽減する必要があり、利上げ停止は一つの選択肢である。
米国の生産金利は中立的な水準に接近しており、利上げ停止時期はそう遠くないのではないか。FRBの独立性は維持されなければならないとしても、米国が貿易戦争に勝利するうえで、トランプ米大統領の利上げに対する牽制はある意味では正しい。中央銀行も含めた総力戦である。
●敵対的関税第3弾の影響はまだ織り込まれていない
米国が中国からの輸入品の約半分に対して敵対的な関税を発動させることについて、金融市場ではまだあまり織り込まれていない。今週の米株式市場でS&P500やナスダック指数は最高値を更新したものの、楽観的すぎるのではないか。堅調に推移している原油市場でも消化はこれからだと思われる。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
株探ニュース