【特集】電動化の風、空にも――離陸する「航空機電動化」関連株 <株探トップ特集>
自動車産業で進む“電動化”の風が航空機の分野にも吹き始めた。日本企業の取り組みを追う。
―旅客需要増大で航空機排出CO2に削減要請、新市場の航路を読む―
電動化の波が航空機の分野にも広がってきた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1日、電動化技術を搭載した 航空機の実現を目指す産官学の共同事業体「航空機電動化コンソーシアム」を発足。航空機産業と電機産業の連携を促進することで、二酸化炭素(CO2)排出などの環境負荷を抜本的に低減する狙いがある。海外で電動航空機の実用化に向けた開発が進むなか、国内でも研究開発が活発化するとみられ、関連銘柄からは目が離せない。
●実用化はこれからで参入チャンス
JAXAは9日、「航空機電動化コンソーシアム」発足に関する会見を開き、航空機産業が置かれている状況と、航空機電動化を推進する目的などについて説明した。それによると、旅客需要の拡大を背景に、今後20年間で航空機の数は現在の約2倍に増加し、技術の改善がなければCO2排出量も倍増すると予測。国際民間航空機関(ICAO)や国際航空運送協会(IATA)が掲げる“2050年までに05年比でCO2排出量の50%削減”目標を達成するには、バイオ燃料の導入や推進系の電動化が必要不可欠だと述べた。
航空機電動化の国際動向については、リチウムイオン電池など電池性能が飛躍的に向上したことで、小型機であればエンジン電動化が可能になっているほか、小型機を対象とした米国連邦航空規則(FAR)が17年に改定され、電動航空機にも適用ができるようになったことで、数社が認証を目指して機体開発を開始していることに言及。欧州航空機大手のエアバスが100席クラスの旅客機「E-Thrust」を30~40年代に開発する構想を打ち出していることなどが紹介された。国内動向に関しては、航空機電動化に適用可能な個別技術のポテンシャルは高いが、協業や機体開発・飛行実証は海外に比べて遅れていると指摘する一方、実用化がされていない分野で、業界地図はまだ固定していないため、国内企業にも参入チャンスがあるとした。
こうしたなか発足したのが同コンソーシアムで、今後は社会実装に向けた将来ビジョンとロードマップの策定、革新的技術を生み出すための挑戦的研究開発、国内産業界のイニシアチブを醸成するための枠組み作りを推進していく計画。具体的には、日立製作所 <6501> 、三菱電機 <6503> 、三菱重工業 <7011> 傘下の三菱重工航空エンジン、川崎重工業 <7012> 、IHI <7013> 、SUBARU <7270> 、及び経済産業省と連携し、CO2排出量の削減につながる「エミッションフリー航空機」の実現と新規産業の創出に向けた活動を行うとしている。
●住友精密、島津製はNEDOプロジェクトに参画
自動車の分野では、電動モーターとエンジンを組み合わせたハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)が一定の市場を形成しており、この流れが航空機に波及するのは必然といえる。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が行っている「航空機用先進システム実用化プロジェクト」では、次世代エンジン電動化システム研究開発がテーマのひとつとして取り上げられ、IHIが委託を受け、それを再委託されるかたちで住友精化 <4008> 、住友精密工業 <6355> 、島津製作所 <7701> が高耐熱電動機や効率の良い排熱システムの研究開発に取り組んでいる。
また、EV向け製品を手掛ける企業にも注目しておきたい。リチウムイオン2次電池用セパレータ―専業メーカーのダブル・スコープ <6619> 、2次電池用温度センサーを製造する大泉製作所 <6618> [東証M]、モーター用巻線機大手の小田原エンジニアリング <6149> [JQ]、モーターコアを販売する三井ハイテック <6966> 、駆動モーターを製造するミツバ <7280> などに商機が訪れる可能性があり、EV向け配線用材料などを手掛けるサンコール <5985> は既にIHIの航空機エンジン電動化プログラムに参画している。
●宇部興、日カーボンの炭化ケイ素系素材に注目
現在、EVは航続距離の短さが大きな課題となっているが、航空機の電動化を進めるうえで欠かせないのが機体の軽量化となる。そこで熱い視線が注がれているのが、宇部興産 <4208> と日本カーボン <5302> が手掛ける炭化ケイ素系の素材だ。この素材は耐熱性や耐酸化性に優れるうえ、軽量といった特徴を持ち、宇宙航空分野などで利用されている。例えば、日本カーボンの「ニカロン」は航空機用次世代エンジンのセラミック・マトリックス複合材部品に採用された実績などがあり、今後は他の航空機部材への適用拡大が期待されている。
このほかの軽量化素材関連では、電気絶縁性能や強度に優れる繊維強化プラスチック(FRP)を供給しているシキボウ <3109> 、FRPの一種である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)大手の東レ <3402> 、航空機用アルミニウム鍛造品を製造するUACJ <5741> 、主翼向け複合材を手掛ける昭和飛行機工業 <7404> [東証2]に注目。カネカ <4118> も航空機分野に注力している1社で、今年2月には米ヘンケル社から難燃性・高耐熱性に優れたベンゾオキサジン樹脂を用いた高機能複合材事業を買収している。
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