【市況】終息近づく“米中貿易摩擦”、織り込み進み買いどころへ <東条麻衣子の株式注意情報>
TOPIX <日足> 「株探」多機能チャートより
前週末22日、トランプ大統領が欧州車に20%の関税を課すと警告したことや、25日にWSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)がトランプ大統領が中国企業による米IT企業への投資を禁ずる計画だと報じた。同日、ムニューシン米財務長官は米IT企業への投資制限は中国のみに限定したものではないとツイッター上でコメント。米国の通商交渉の行方を睨んでマーケットでは神経質な展開が続いている。
しかし、筆者はそろそろ米中貿易摩擦の懸念については株式市場は織り込む準備が整ってきているのではないかと考えている。
■中国の報復関税はそろそろ限界
米国の対中国輸出額は約1300億ドルである。これに対し中国の対米輸出額は約5000億ドルに達する(2017年ベース)。つまり、差し引きで米国は約3700億ドルの赤字を被っている。
先週、トランプ大統領が新たに2000億ドル分の輸入品に10%の制裁関税を検討するよう、米通商代表部(USTR)に指示したことを受け、中国商務省は直ちに『対抗措置』を言明した。だが、そもそも米国からの輸入金額は1300億ドルにとどまっており、米国と同等の報復関税を課すことはしょせん無理なのだ。
つまり、中国側からするとはなから勝てない試合で深刻なダメージを負う前に、折り合いをつけるのが懸命な判断となる。米中間の通商交渉は中国側が妥協する形で終息する日は近いのではないだろうか。
■注目すべき中国共産党の政策転換の早さ
24日、中国人民銀行は7月5日より金融機関の預金準備率を0.5%引き下げると発表した。中国企業の債務不履行は増加傾向にあるが、今回の引き下げにより「債務の株式化」や中小企業への貸し出しを促し、企業の債務返済を支援する狙いがある。これにより約12兆円の資金が市場に供給されるとみられる。
ここで注目すべきは、世界一といってよい中国の意思決定スピードの速さだ。米国の制裁関税により中国経済が影響を受ける可能性は高いものの、状況に応じて果断に政策変更や対策を打ち出すことが可能であり、成長スピードは鈍ったとしても中国経済は底堅く推移すると考えている。
■歴史的高水準にあるNT倍率
6月21日、NT倍率が12.962と歴史的高水準を付けた。 TOPIXとの比較で日経平均株価の上昇ぶりが際立つ。225銘柄で構成される日経平均は値がさ株の影響を受けやすい一方、東証1部の全銘柄で構成されるTOPIXは銀行など時価総額の大きい銘柄の影響を受けやすい。NT倍率の歴史的高水準は値がさ株主導の上昇を映したものといえる。
しかし、筆者の経験上、行き過ぎた指数は是正の方向に向かう。そうなると、米中貿易摩擦の懸念が薄れるのと同じくして、TOPIXへの影響が大きい銘柄を中心に出遅れていた個別株の上昇が見込めるのではないだろうか。
一方、貿易摩擦の震源地である米国でも、減税効果が企業業績に表れてきており、懸念材料が浮上する度に売られることはあっても、決算発表に向けて買いが入る傾向が顕著となっている。決算が近づくにつれ売り圧力は弱まってくるのではないか。
加えて、米国で減税効果が本格的に出てくるのはこれからだ。これまで米国の法人税率は世界的にも高水準だったため、米国から資金が流出していた。だが、トランプ政権の行った減税により、今後、米国への資金環流が拡大し、潤沢な手元資金の活用によるM&Aの加速などを通じて期待成長率の上昇に繋がる。これを米国の株価が織り込まないはずはない。米国の経済は順調であり、それに追随する形で日本も恩恵を受けるはずだ。
懸念される対米投資制限を巡る一連の動きだが、冒頭のムニューシン米財務長官のコメントに対し、ナバロ大統領補佐官(通商製造政策局長)は広範な投資制限の計画はなく中国以外の国とは全く関係ないと述べている。政権幹部の発言は対中国の交渉戦術の文脈でとらえるべきだろう。
マイナス材料の浮上に踊らされることなく、7月の第1四半期決算の集中期間に向けて下げたところは買いのチャンスと捉えたい。懸念材料ばかりに気を配り売り目線で臨むのはそろそろリスクが高いといえるのではないか。
◆東条麻衣子
株式注意情報.jpを主宰。投資家に対し、株式投資に関する注意すべき情報や懸念材料を発信します。
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