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【市況】S&P500 月例レポート ― “対立”に屈せず、未踏の領域に力強くまい進 (4) ―


●配当総額で世界最大となったアップル

 個別銘柄では、Apple(AAPL)が最高値を複数回更新しました。同社の決算発表は予想を上回りましたが、iPhoneの需要が振るわなかったことから、年内に発売が予定されているiPhone8に対する期待感のプレッシャーが高まっています。Appleは10.5%の増配を発表し(年間の配当総額は132億ドル)、石油メジャーのExxon Mobil(XOM)に代わって配当総額で世界最大となりました。Appleは保有現金も増加し続けており、今では2,570億ドルに積み上がっています(AT&Tの時価総額は2,330億ドル)。また自社株買いも継続しており、同社の発行済株式数は過去4年間で21%減少し、それによりEPSは21%増加しています。

 S&PレーティングスはExxon Mobilの見通しを「安定」から「ネガティブ」に引き下げ、格付けが現在のAAプラスから引き下げられる可能性を示唆しています。

 米司法省は自動車メーカーのFiat Chrysler(FCAU)に対し、ディーゼル車の排ガス量の測定に用いられるソフトウエアをめぐる民事訴訟を起こしました。Fiat側は不正行為を認めておらず、ソフトウエアの修正で問題に対処するとしています。これとは別に、General Motors(GM)では、同社のトラックに欠陥のある排ガス量測定装置が搭載されたとする集団訴訟が起こされました。関連はありませんが、Ford(F)はマーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)の退任を発表しました。同社は利益が落ち込んでおり、外部からの圧力が高まっていました。

 配車サービス大手のUberはAlphabetとの訴訟が続く中、Googleの元エンジニアで自動運転技術の開発責任者である幹部の解雇を決めました。

 Amazon(AMZN)の株価は取引時間中に一時、初めて1,000ドルの大台に乗りました。現在、S&P500指数構成企業で株価が1,000ドルを上回っているのはオンライン旅行サイトを運営するPriceline Group(PCLN)のみとなっています。

 S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは5月にS&P500指数構成銘柄の入れ替えを発表しました。2017年6月1日の取引時間終了後に金融・経済情報サービス企業のIHS Markit(INFO)を組み入れ、放送・デジタルメディア企業のTEGNA(TGNA)が除外されます。

●S&P500は過去最高値を7回更新

 5月のS&P500指数は、市場が引き続き好調な値動きとなる中で終値での過去最高値を7回更新し、2,400の大台で推移して、5月の終値でも初めて2,400の水準を上回りました(日々の終値で初めて2,300を上回ったのは2017年2月9日、2,000を上回ったのは2014年8月26日)。メディアの報道はトランプ大統領、政治(既存の政治に変わる代替勢力)、テロのニュースでもちきりだったものの、企業決算が市場を落ち着かせる材料となりました。

 市場の取引では、他の材料が話題になったとはいえ、企業の利益、ガイダンス、そして経済に注目が集まりました。所得税改革や海外資金の還流に対する投資家の期待は継続し、同様にリサーチを基に恩恵を受ける銘柄を探し出す動きも続きましたが、現実には、こうした思惑に基づいて取引を行う投資家はほとんどいなかったようです。いずれ、法案の詳細な内容や、政府、議会関係者の見解が明らかになるとしても(これは変わる可能性があります)、今のところは余分な枝葉が多すぎて「合理的な」ポジションを取ることはできない状況です。それでも市場参加者の大半は税制改革と海外資金の還流が行われると予想していますが、その時期と内容に関しては憶測の域を脱していません。

 S&P500指数は上昇が一服した3月(0.04%の下落)から4月は0.91%上昇したのち、5月は1.16%の上昇となりました。市場の取引は落ち着いていましたが、例外的に5月17日はトランプ大統領がコミー前FBI長官にマイケル・フリン前大統領補佐官に対する捜査の中止を要請していたとの報道を受けて、S&P500指数は1.82%下落しました。

 ただし、この下落幅もそれまでの大幅な上昇に比べれば「穏やかな程度」と受け止められました。5月17日を除けば、S&P500指数が0.5%以上変動したのは1日にとどまり(5月19日の0.68%上昇)、VIX恐怖指数は2006年12月以来の低水準で推移しました。市場に恐怖心はほとんどありませんでした。

 S&P500指数は年初来では7.73%上昇し(配当込みのトータルリターンは8.66%)、2016年11月8日以降では12.72%(配当込みのトータルリターンは14.08%)と二桁台の堅調な上昇をみせています。調整局面入りや利益確定売りの懸念はありましたが、一部の投資家がオプションで下落リスクをカバーする動きが見られただけで、実際には売りはほとんど生じませんでした。

●情報技術セクターのパフォーマンス際立つ

 セクター別ではリターンにばらつきが生じ、5月は4月と同様に、11セクターのうち7セクターで月間騰落率がプラスとなりました。パフォーマンスが際立ったのは情報技術セクターで、昨年の大統領選以降年末にかけての市場平均を下回るパフォーマンスを取り戻す中、5月は4.15%上昇し、年初来では19.67%の上昇(11セクター中最高)、大統領選以降でも20.92%の上昇となっています。市場ではセクターの一部銘柄に上昇が集中していることが懸念されましたが、75.6%の銘柄が値上がりし、上昇は広範に及びました。

 公益事業セクターも好調となり、5月は3.63%上昇し、年初来の上昇率は10.07%まで拡大しています。消費関連セクターも騰落率はプラスとなりましたが、パフォーマンスはまちまちで、一般消費財セクターが5月は0.98%上昇し、年初来では11.72%の上昇となった一方、生活必需品セクターは、5月は2.65%上昇し、年初来では9.36%の上昇となっています。

 エネルギーセクターは、原油価格が前月から下落して月を終える中、3.96%と再び大きく下落しました。年初来では13.58%の下落と、パフォーマンスは11セクターの中で最低となっており、過去1年間でも3.49%下落しています。金融セクターも金利の低下に合わせて下落し、2017年第2四半期のトレーディング事業の利益をめぐる懸念が浮上する中、5月は1.41%の下落となりました。同セクターは現在、年初来でも0.33%下落していますが、大統領選以降ではなお16.13%の上昇となっています。

●ボラティリティは上昇も相場急変なく推移

 銘柄の変動を見ると、上昇の裾野の広がりに大きな変化は見られず、5月は値上がりが283銘柄(平均上昇率は4.62%)と4月の280銘柄(3月は239銘柄)から若干増加した一方、値下がりは221銘柄(平均下落率は5.39%)と4月の225銘柄(3月は239銘柄)から減少しました。5月は4月の12銘柄を上回る26銘柄(平均上昇率は14.61%)が10%以上上昇した一方、4月の12銘柄を上回る32銘柄(平均下落率も上昇率と同じ14.61%)が10%以上下落しました。1銘柄(4月はゼロ)が25%以上上昇し、1銘柄(4月はゼロ)が25%以上下落しました。

 年初来では引き続き、値上がりした銘柄数が値下がりした銘柄数を大幅に上回っているものの、その差は再び縮小しています。年初来での値上がりは330銘柄と4月の345銘柄(3月は350銘柄)から減少し、そのうち211銘柄(4月は176銘柄)が10%以上上昇、64銘柄(4月は36銘柄)が25%以上上昇した一方、値下がりは173銘柄と4月の159銘柄から増加し(3月は154銘柄)、そのうち、84銘柄(4月は49銘柄)が10%以上の下落、4銘柄(4月も4銘柄)が25%以上の下落となっています。

 市場のボラティリティは上昇したとはいえ、比較的落ち着いた水準にとどまり、相場の急激な動きや乱高下はほとんど見られませんでした。出来高は前月比20%減となった4月(3月は18%増)から5月は22%増加し、過去1年間の平均を5%、過去5年間の平均を7%上回りました。月中の高値と安値の差で見た変動率は低水準にとどまり、4月の2.97%から2.80%に低下しました。これは1年平均の3.82%を下回り、5年平均の5.33%よりも大幅に低い水準です。

 昨年11月8日の大統領選以降では、値上がりした銘柄数が390銘柄(4月は402銘柄)、値下がりした銘柄が115銘柄(4月は103銘柄)で、11セクターのうち10セクターが上昇しています(情報技術セクターは20.92%上昇、エネルギーセクターは6.13%下落)。


[執筆者]
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス
シニア・インデックス・アナリスト


※本翻訳は、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。
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