【特集】“AIスピーカー相場”が始まる―全米「大ヒット」テーマ上陸を買う <株探トップ特集>
LINE <週足> 「株探」多機能チャートより
―アマゾン・エコー年間1000万台の衝撃、“普及前夜”日本で恩恵受けるのは―
●AIを最も身近に感じさせる“超ヒット商品”の片鱗
人工知能(AI)が世界の株式市場で一大テーマとして大きく頭角を現したのは、今から遡ること1年数ヵ月前、昨年3月に米グーグル傘下のディープマインドが開発した「アルファ碁」が韓国棋院所属で世界屈指のプロ棋士、李世ドル(イ・セドル)氏に圧勝したことに始まる。その後、マーケットではIoT、自動運転、バイオテクノロジー、フィンテック、VR(仮想現実)、ドローンなど、次代を担う成長分野の産業革命の源泉として、投資家の視線の先には常にAIの存在があった。最近は物色の流れも総花的に買われるのではなく、局地化・多層化する傾向が見受けられる。
ここにきて、このAIを最も身近に感じさせる大ヒット商品として脚光を浴びているのが会話型AIに対応した「スマートスピーカー」だ。人間が話しかけるだけで音楽再生やニュースの視聴、情報の検索などさまざまな操作を可能とし、先駆して市場開拓が進む米国に追随して、早晩日本でも大きな話題を集める可能性が高まっている。
●米アップルが満を持してお披露目した「ホームポッド」
米アップルが現地時間6月5日、カリフォルニア州で年次開発者会議「WWDC 2017」の基調講演を開催、多くの新製品に関する情報が開示されたが、そのなか噂となっていたAI「シリ」搭載のスマートスピーカー「ホームポッド(HomePod)」も披露され、耳目を驚かせた。価格は349ドル(約3万8000円)と少々値が張るが、ティム・クックCEOは消費者の需要を捉えることに強い自信を示したことが伝わっている。
このAI搭載のスマートスピーカー(以下、AIスピーカー)は、アマゾン・ドット・コムが2014年に先鞭をつけた商品分野で、AI「アレクサ」を搭載した「アマゾン・エコー」は昨年末までに既に累計1000万台超を販売している。利用者ベースの市場シェアに引き直せば7割強に達するなど現時点では一頭地を抜いた存在であり、今年は価格引き下げ効果もあって、年間で1000万台以上の出荷が濃厚とみられている。これに続く企業がグーグルであり、昨年から「グーグルアシスタント」を搭載した「グーグルホーム」を展開、市場シェアは2割強を占め、アマゾン・グーグルの2社で同商品のマーケット全体の約95%を押さえている勘定となる。
ただし、マーケットは今後も加速的に拡大していく可能性が高く、それに伴い業界地図も変化する余地は十分で、群雄割拠の様相を呈すことが予想される。AIスピーカーは近い将来、家庭内の機器をIoT化させる「スマートホーム」のハブ・デバイスとしても注目を集める公算が大きいだけに、先行する2社を追う形でマイクロソフトやアップルが猛追の構えをみせるのも当然といえる。今回、アップルは「音質」にこだわりをみせ、自らの土俵である音楽再生市場のニーズを取り込み、消費者需要を開拓する計画だ。会話型AIという分野に限れば、アップルは既に「シリ」で月間3億7500万人の利用者を擁しているだけに、決してアマゾンにも引けをとらないという自信が見え隠れする。
●ソフトバンクが導火線に火をつける可能性も
当然日本においても、このAIスピーカーの市場の立ち上がりに期待が高まるところだ。
グーグルはグーグルホームを年内に日本で発売する計画を発表しており、これに続いてアマゾン、マイクロソフト、そしてアップルと、具体的な時期こそ明示していないものの早期の日本での展開を視野に置いていることは間違いがない。
直近では、日本経済新聞など一部メディアで、ソフトバンクグループ <9984> がロボット開発ベンチャーのプレンゴアロボティクス(大阪市)と提携、プレンゴアが開発したAIスピーカー(商品名プレンキューブ)とのサービス連携が報じられており、マーケットの関心を集めた。
これについてソフトバンクは、「当社は(プレンゴアの)プレンキューブに自然言語処理ができる対話型AI FAQソリューションの『アプトウェア』や音声合成ソリューションの『リズベル』を、クラウドを通じて提供するという形で連携する」(会社側・広報)と説明している。プレンキューブは自由に持ち運び可能でオフィスや店舗など法人向けのほか、一般家庭向けもターゲットに置いている。「メディアで取り上げられた『プレンキューブ』について(プレンゴアは)パーソナル・アシスタント・ロボットと位置づけており、報道されたAIスピーカーのイメージとはニュアンスがやや異なる部分もある」(同)とするが、一般的な認識としては、AIスピーカーの範疇で日本における市場開拓の先陣を切ることになりそうだ。
●日本でも急速普及期に向けカウントダウン
いうまでもなく、株式市場でも強力な物色テーマとしてスポットが当たる公算が大きい。市場関係者によると「AIスピーカーは音声認識装置の日本語版がまだ立ち上がっていない関係で、国内ではまだ半信半疑的なムードもあるが、米国では既にフィーバー的な人気となっている。今後、グーグルのAIスピーカーの日本発売を皮切りに、アマゾンやアップル製品などの日本上陸が相次いで予想されるだけに、日本での大ブームも時間の問題だろう。関連銘柄は今が仕込み場ではないか」(国内ネット証券アナリスト)という。
また、「このAIスピーカーがヒットするのは子供と高齢者との親和性が高い点が挙げられる。子供は日常の会話の延長線上にAIの存在があっても、ごく普通に受け入れられるし、高齢者にしてもキーボードに不慣れな人の割合が多く、言葉でコンピューターを操作できるのであれば、この上ない利便性を感じるはず。幅広い世代のニーズと合致することは、大ヒット商品につながる重要な要素」(同)と指摘する。
●LINE、オンキョー、チェンジなど注目場面に
個別企業の動向を探ると、LINE <3938> が3月にAIプラットフォーム「クローバ」を発表、今夏にはこれを搭載したAIスピーカー「ウェーブ」を日本と韓国で発売する計画にある。同様に、AIスピーカー「エージェント」を開発するソニー <6758> からも目が離せない。NTTドコモ <9437> はNTTグループの粋を集めて開発したAI技術を搭載したコミュニケーションデバイス「ペトコ」を近く発売する見通しだ。また、人工知能を活用したスマートホーム実現に向け、家電の操作を音声でできる「ホームアシスタント」を開発しているシャープ <6753> [東証2]も同商品分野のダークホースだ。
AI活用の次世代家電に積極的に取り組むオンキヨー <6628> [JQ]の株価は既に動意含みにある。同社はアマゾンなどの音声認識技術を活用して、マイクやカメラ搭載のAIスピーカー開発に意欲をみせている。今年1月に米SoundHound社とAIスピーカー販売のグローバルパートナーシップを発表。また、米ラスベガスの家電見本市「CES」にも出品するなど布石を着々と進めている。
また、モバイル端末やクラウドなどの最新技術を駆使したITトランスフォーメーションを展開するチェンジ <3962> [東証M]も要注目。5月にはアマゾンのアレクサと日本語で接続・連携する各種業界向け自社オリジナルSkill(アマゾンのアレクサに対応したプラットフォーム)の開発完了を発表している。
●音声認識装置や無線通信関連に商機拡大思惑も
音声認識装置を展開するフュートレック <2468> [東証2]やアドバンスト・メディア <3773> [東証M]なども外せない銘柄だ。将来的には遠隔地の相手との映像を絡めたコミュニケーションサービスを展開するブイキューブ <3681> などに人気化素地がある。また、AIスピーカーを玩具の延長として考えるのは妥当とはいえないが、商品特性はタカラトミー <7867> などが展開する分野と近い。実際、LINEはタカラトミーとのパートナーシップを発表しており、今後思惑を呼びそうだ。
このほか、AIスピーカーの環境と切り離せないのが宅内の無線通信。無線LAN関連としてワイヤレスゲート <9419> 、アイ・オー・データ機器 <6916> 、コンテック <6639> [東証2]、アライドテレシスホールディングス <6835> [東証2]、シンクレイヤ <1724> [JQ]なども注目される可能性がありそうだ。
株探ニュース