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【市況】武者陵司 「日本株・ドルの買い場到来」<後編>

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

<前編>から続く

3.なぜトランプ政権の円高ドル安志向が挫折するのか

新関:日本株を考えるうえでやはり為替レートの見方は決定的に重要なのですね。そこで為替見通しに関して、今投資家が最も注意をするべき点は何ですか?

武者:現在ドル円レートを考えるうえでのポイントは、唯一のドル安要因であるトランプ政権のドル安志向がほぼ挫折しつつある、ということであろう。強いファンダメンタルズを誇りたいのならドル高が整合的である、さらに貿易赤字を政治的手段(税制と非関税通商手段)によって減らそうとするなら、それもドル高要因である。トランプ政権がドル安を望むのは勝手だが、完全なフロート制が貫徹しているドル円レートにおいて、トランプ政権が円高・ドル安圧力をかけようにも手段がなくなっている、ということが本質である。市場がそのことを織り込み始めると、予想外の円安が起きる可能性がある。

新関:ではまず初めに、武者リサーチが確信を持っているファンダメンタルズ面でのドル高要点について説明してください。

武者:ファンダメンタルズ面では、より成長率が高く利上げトレンドにある米ドルが、究極の金融緩和にある日本円より強いのは明白である。米ファンダメンタルズから考えて、これ以上の米国長期金利の低下は考えにくく、長期トレンドは直近2.1%をボトムとした上昇軌道であろう。CPIは中期的にもほぼ2%強で推移するとみられるので、実質金利は直近の0%をボトムに1%程度まで高まっていくとみられる。

 他方、日本の物価は原油安と円高効果の一巡、国内賃金の高まりで上昇趨勢にある。日本経済研究センターのESPフォーキャストによると、エコノミストの物価見通し(生鮮食品を除くコア指数)平均値は、2016年度-0.24%に対して2017年度は+0.83%と、1%強の上昇が見込まれている。日本の長期金利は日銀により0%に固定されているので実質金利は昨年のプラス領域から-1%を超える大幅なマイナスまで低下していくと考えられる。日米金利差は実質においても名目においても大きく開いていく局面にある。

新関:ファンダメンタルズはよいとして、トランプ政権の円高圧力に対する懸念が市場では強いのですが、それは心配ないのでしょうか?

武者:基本的に心配する必要はない。ロス商務長官は5月4日、3月の米貿易赤字発表に際して「メキシコと日本に対する米国貿易赤字は持続不能のペースで拡大している。米国は膨張した貿易赤字にもはや耐えられない」との声明を発表した。最大の赤字国である中国に対する批判は、北朝鮮問題で協力を求めていることへの配慮から控え、メキシコと日本を名指しするという、これ見よがしの発表であったが、為替市場は全く反応せず、むしろその後、円安が強まった。ロス氏の声明が、(1)ランダムな変動の大きい月次統計を問題にしていること、(2)米国優位のサービス貿易を含まない財のみの統計にのみ言及していること、(3)最大赤字国中国を素通りしていること、など恣意性が強く、二国間交渉に入っている2国との取引(deal)を有利に運ぶための脅しであることを市場は見透かしているとみられる。

 すでに国際為替市場、特にドル円レート市場は当局離れ、つまり米国政府、日本政府の意向を無視し始めているのではないだろうか。6年以上為替介入がなく完全フロート制に移行しているドル円市場においては、価格を決定するものは市場諸力(market forces)である。政府が為替に影響力を与えたいとすれば、(1)金融政策、(2)税制(関税、リパトリ減税等)、(3)非関税的通商障壁の創設しかないが、(1)は先に見たように完全なるドル高環境、(2)でドル安を図るためには関税引き下げやリパトリ減税の棚上げが必要だが、それはトランプ政権の政策とは背反する、(3)で米国が米国の対日赤字を減らす圧力をかければそれはドル高要因になること、が論理的帰結である。つまり、トランプ政権の政策体系は完全にドル高円安をもたらす政策であることを、市場が理解し始めた可能性がある。

新関:為替市場が米国当局から発せられる論理に合わないメッセージをノイズとして無視し始めたとすれば、今後のドル円レートを決めるのは何になるのでしょうか?

武者:そうなるとドル円レート決定の主役はミセスワタナベ、つまり日本の対外投資家ということになる。日米金利差は名目においても実質においても大きく拡大する方向は明確である。昨年後半の対外投資の制約要因となったドル調達コスト(ベーシススワップ取引におけるドルプレミアム)は大きく低下している。さらに貯蓄が増加している日本国内では(株式・不動産を除いて)まともな投資リターンはなくなっている。ミセスワタナベが満を持して、対外投資活動を活発化させる時が刻一刻、迫っているのではないか。

(2017年5月8日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン181号」を転載)

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