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【市況】武者陵司 「トランプ政権下の日本株投資戦略、壮大な上昇相場の始まりに(1)」

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

以下では丸三証券様のご厚意により、丸三レポート2017年2月号に掲載された、丸三証券 小祝 寿彦 社長との対談をご紹介します(一部加筆しています)。

【1】米国大統領選後の株価上昇は、壮大な上昇相場の始まりに過ぎない

小祝:米国大統領選後、日米とも株式市場が大幅な上昇に転じています。しかし、日本株の投資家別売買動向を見ますと、外国人買いが活発な一方で、国内の投資家は大幅に売り越していて相場の先行きに疑心暗鬼のようです。そこでまず、先生はこの上昇相場についてどのようにご覧になられているのかお話いただけますか。

武者:米国大統領選後に日米とも株式市場が大幅な上昇に転じた直接的な理由は、これまでのマーケットのコンセンサスが、全く現実離れした根拠のない悲観論に支配されていたことの反動だと思います。したがって、大統領選挙はひとつのきっかけで、仮にクリントン氏が勝利していても、大幅なリバウンドが起こる局面だったと思っています。今の相場は、誤った悲観論の是正が起こっているということです。

 ただし、もう少し深い背景を考えると、世界のメインエンジンである米国経済はこれまでも健全でしたし、日本経済も着実にファンダメンタルズが改善しつつありました。非常に良い方向への変化の胎動はあったのです。しかしマーケットは、そのポジティブな胎動を、昨年の英国のブレグジットや中国経済の混乱といったネガティブな要因を理由にして一切無視してきました。投資家心理を示す「裁定買い残/東証一部時価総額」の推移をみると、それは2016年9月時点で過去最低まで低下しており、いかに投資家心理が冷え込んでいたかがわかります。

 悲観論の是正による株式相場の上昇まだまだ続くと思います。2016年末の上げ相場の中で売り越している日本の個人投資家は、相場の上昇を見ながら押し目で買いたいと思っているのでしょうが、そういうときに押し目は来ないものです。この上昇相場は誤った悲観論の是正ですから、まだ、マーケットに悲観論が残っている間は上昇が続く可能性が高いと思います。悲観論が間違いだったといち早く認めることが重要です。

 さらに、もう少し長期の視点で展望すると、後で詳しくお話しますが、大きな時代の変化が、特に米国と日本において始まっている可能性が濃厚だと考えています。そうであれば、今の上昇相場は、過剰な悲観論の是正、反動の動きに留まらず、非常にスケールの大きなものになる可能性があります。

 私は米国の株式市場が新高値を更新し続けるのは当然の流れだと思っていますし、また、相当なドル高がこれから起こってくると思っています。そして日本株は、アベノミクス相場の第2弾の大幅な上昇が始まった可能性が濃厚だと考えています。

 第1弾のアベノミクス相場は2012年の11月15日から始まり、日経平均株価は約2年半で2.4倍上昇しました。もし、今回も同じようなスケールの上昇が日本の株式市場で起こるとすれば、1年間で5割の上昇、つまり2017年末の日経平均株価が3万円を超えることも十分にあり得るのではないでしょうか。

【2】米国経済のファンダメンタルズはかつてないほどに良好

小祝:日米株式の壮大な上昇相場が始まったということですね。それでは、今後の米国経済や株式市場について具体的にお聞きしたいと思います。トランプ新大統領が米国大統領選挙で勝利したこともサプライズでしたが、その後の米国市場における金利上昇、ドル高、株高の勢いも大方の予想を超えていると思います。トランプ新大統領が掲げている経済政策が少なからず評価されての動きだと思いますが、先生はトランプ新大統領の大型減税、インフラ投資や規制緩和の実現性やその効果についてどのようにお考えですか。

武者:トランプ新大統領が掲げている経済政策のうち大幅な減税やインフラ投資は、普通の経済政策ですから、相当程度は実現していくと思います。それが米国の経済成長率を大きく押し上げることになるでしょう。

 1990年からリーマンショックまでの米国のGDP成長率は年平均3%でした。それがリーマンショック以降は大きく低下して2.3%まで下がっていました。しかし、これから米国のGDP成長率は、長期トレンドの3%か、それ以上の水準になる可能性が高いと思います。

 米国の失業率は足もとで4.7%とほぼ完全雇用の状態にあります。そのようななかでの景気拡大ですから、当然インフレ圧力は高まります。FRBは最低でも2回、あるいは3回と政策金利を引き上げることになり、市中金利も上昇するでしょう。そうなると、ドルも相当強くなります。当面は景気ブーム、株高、金利上昇、ドル高、こういったうねりが起こると思います。

 しかし、もっと重要な点は、米国経済のファンダメンタルズが、大統領選挙の前から歴史的に例を見ないほど良い状態にあったということです。それは、(1)企業収益が過去最高の水準にあること、(2)グーグルやアップルのようにイノベーションに基づくグローバルな競争力をもっている企業が多数存在すること、(3)貯蓄が潤沢で投資余力が高まっていること、(4)財政が健全化していること、(5)インフレ率が抑制されていること、です。

 したがって、今の米国経済はものすごく馬力の強い機関車のようになっているといえます。だからこそ、新政権が打ち出す政策が燃料になって非常に大きな効果を発揮することが期待できるのです。この点を、まずは強調しておきたいと思います。

小祝:米大手ファンドKKRのヘンリー・クラビス会長はトランプ新大統領には、経済の閉塞感を打破し、時代遅れになったルールや政治体制を刷新してくれるのではないか、という期待感があると述べていますが、先生はこの点についてどのようにお考えでしょうか。

武者:米国経済の強さ、一番の活力は、新しいビジネスがどんどん興ってきたことだと思います。しかし、米国の開業率を見ると過去ずっと高水準だったものが、リーマンショック後に廃業率と同じところまで急落し、その後も上昇していません。

 今の米国経済の問題点を挙げるならば、このように、若々しさが消えてしまったところではないでしょうか。それが、閉塞感につながっていると思います。そしてトランプ新大統領は、この原因を規制によるものだと考えているのだと思います。全てとは申しませんが、基本的に私もそう思います。

 企業に対する規制の中でも、今後緩和が期待されるのは金融規制です。ドッド・フランク法といった非常に厳しい金融規制によって銀行が金を貸せなくなっていることは非常に大きな問題です。現状は、FRBが超金融緩和をしてエンジンをふかしているにもかかわらず、信用創造が十分とは言えない状況です。

 これを見て資本主義が終わりに向かっているといった極論を言う人がいますが、これは間違っています。確かに、これだけエンジンをふかして車(資本主義)が走ってないのですから、車が壊れているという見方は大衆受けしそうです。しかし、よく見れば、アクセルと同時に、金融規制という強烈なブレーキをかけているのです。日本でも、ヨーロッパでも、バーゼル規制を中心とした過剰な統制は行われていて、経済を損なっている要素は大きいと思います。

小祝:トランプ新大統領は、選挙期間中に移民の制限や保護主義的な主張を繰り返していました。そういった政策が実行されると、労働力不足やインフレ率の上昇といった問題を起こし米国経済の足を引っ張る可能性があると思うのですが、これについてはどのようにお考えでしょうか。

武者:私はその点について、基本的に心配していません。そんな政策は到底できないし、誰も得をしないので、合理的に考えればやるわけがないのです。トランプ新大統領が選挙期間中に主張してきた保護主義的・孤立主義的な発言は、選挙用のレトリックという側面が強いでしょう。

 トランプ新大統領のそういう発言の意味を考えると、虐げられている貧しい白人の肉体労働者に寄り添う姿勢を示したということだと思います。「君たちを苦しめている奴らを懲らしめてやる」ということですね。ウォール街を強く非難していたことも同じで、新政権移行チームの顔ぶれや新任財務長官を見れば、結局、ウォール街の人達を重用していることがわかります。

 世界最大の覇権国である米国の指導者が、誰の得にもならない、バカげたことをやるわけがありません。トランプ新大統領が過去に何を言ったかということにこだわりすぎると、本質が全く見えなくなってしまします。

「トランプ政権下の日本株投資戦略、壮大な上昇相場の始まりに (2) 」へ続く。

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