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【特集】1000円安・1000円高を演出した「アルゴ売買」の真実 <うわさの株チャンネル>

日経平均 <5分足>(2016年11月9・10日) 「株探」多機能チャートより

―米大統領選の歴史的波乱相場、AIを手玉に取った個人投資家たち―

 米大統領選では大方の予想を覆し共和党候補のトランプ氏が勝利、この結果を受けて、前日(11月9日)の東京株式市場は怒涛の下げ相場に見舞われ、1ドル=101円台前半への急激な円高進行を横目に日経平均株価は一時1000円を超える暴落、大引けも919円安と波乱を絵に描いたような相場展開となった。ところが、前日の米国株市場ではNYダウが256ドル高で3連騰と意表の上値追いを継続し、リスクオフの象徴として加速した円高も1ドル=105円台まで巻き戻し急となった。その流れを継ぐ形できょう(10日)の日経平均は前日来た道をそのまま折り返すような急反騰モードに突入、1000円高超の大出直り相場を演じた。

●1000円幅のV字リバウンド、長期資金は動かず

 大統領候補としてのトランプ氏への世界の評価は決して高くはなかったし、米国内でもその暴言は批判の的となった。しかし、“正直なイメージ”がライアーと言われたクリントン氏との対比で見えないアピールポイントとなったほか、白人のブルーカラーの無党派層や合法的なヒスパニック系移民からの強力な支持がトランプ大統領を作り上げる格好となった。掲げる政策についてはその実現性に疑問符の付くものが多いが、勝てば官軍というべきか、マーケットが順回転すれば“いいとこ取り”でトランプ政策が織りなす将来への期待を株価が反映したという解釈が闊歩する。米国株が上がるならば、日本株も前日の下げは行き過ぎで実は買いが正しかった、という結論となる。しかし、ここをチャンスとみて機関投資家などの長期資金が動いたか、といえばそれは残念ながら見当違いといえそうだ。

●体温なき相場と無人の高速エレベーター

 9日の急落も、10日の急反騰劇も「体温の感じられない相場だった」(国内中堅証券アナリスト)という声が市場では聞かれる。まるで無人の高速エレベーターが地上と高層階を行き来するような無機質の乱高下で、マーケット関係者や多くの投資家はその傍観者と化したような状態だったともいえる。

 「2日間で片道1000円幅のV字リバウンド相場を主導したのは、人間ではなく人工知能(AI)だ。機械売買が実質売買代金の半分くらいを占めている」と指摘するのは東洋証券ストラテジストの大塚竜太氏。9日の東証1部の売買代金は3兆9000億円と急増したが、全体波乱相場に際し「待ってました」と参戦する“人間”は個人、法人を含めてそうはいない。11月に入ってから直近までの1日平均売買代金は2兆円強に過ぎない。差し引き1兆9000億円分の商い増は、イベントドリブン型のアルゴリズム売買(自動売買)によって膨らんだものであるという見解は相応の説得力を持っている。

●米大統領選アルゴは過去に見た光景

 「前日(9日)の大統領選では前半のポイントであったフロリダ州の開票過程で株価が下げ基調を強めたが、これは先物に秒単位で売り注文を重ねる“フロリダ・アルゴ”の存在があった。重要州といわれた“オハイオ・アルゴ”もあったはずだ。しかし、これは今に始まったことではない。これまでにも動きあるところにリンクする、“日銀アルゴ”とか“上海アルゴ”とか、似たような光景はあった」(大塚氏)という。

 9日に下落した銘柄数は1934、一方で10日に上昇した銘柄数は1935。約2000銘柄に及ぶ東証1部上場の97~98%の銘柄が値上がりもしくは値下がりするという現実は、バイアスのかかった投資家心理だけでなせる業ではない。その正体は先物とオプションに特化し、金融工学に基づきトレンドフォローで高速自動売買するCTAや、コンピューターを駆使した超高速取引を行うHFTであり、いうまでもなく司令塔にはAIが絡んでいる。振り返れば、英国民投票でのEU離脱決定を受けた6月24日の日経平均1200円超の急落相場も記憶に新しいが、この時もイベントドリブン型の高速自動売買が“暴落エンジン”となった。

●AI搭載の高速売買に「賢さ」で勝つ

 では、株式市場で人間の出番はなくなるのか。必ずしもそうではないようだ。

 一部の個人投資家はこの波乱局面で狼狽売りを出すわけでも、指をくわえて見ているわけでもなく、したたかに利益を上げているという実態がある。松井証券シニアマーケットアナリストの窪田朋一郎氏は「店内では(暴落のあった)9日に個人投資家は買い越しだった。しかも、きょう(10日)は、前場段階できっちり売り切っている。この2日間で見る限りアルゴを手玉にとっている格好」という。同じような事実はSBI証券などでも当てはまるようだ。

 ディープラーニングの普及でAIは飛躍的な進化を掌中に収めた。完全情報ゲーム分野では囲碁の世界トップが既に太刀打ちできない実力を身につけたが、開発元である米グーグルはこれを汎用化させて他分野にも応用していく構えをみせている。ただし、この進化したAIでも人間が備えている一般常識や人間心理や機微を読むという部分にはまだ当分届かないといわれる。

 この2日間にネット証券経由で個人投資家が上げた利益は「オーバーシュートするアルゴの特徴を理解した個人が、人間の感性でイレギュラーの安値を拾う動きが反映された結果」(窪田氏)といってよさそうだ。1000円高も1000円安も98%の銘柄が高下するのも、そこに明確な理由はなく、少し離れたところで機械の仕業として鑑賞する。戦い終えて日が暮れたところで、おもむろに反対売買で出動する。“人間の賢さ”がAI搭載の高速売買に勝利できるひとつの証左といえるかもしれない。

(中村潤一)

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