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【特集】乱世か治世か―誕生“トランプ大統領”揺れる世界、日本株の行方 <株探トップ特集>

日経平均 <日足> 「株探」多機能チャートより

―アメリカよ、お前もか! 米国発ショック直撃、漂流する東京市場―

 共和党候補の不動産王ドナルド・トランプ氏と民主党候補で前国務長官ヒラリー・クリントン氏が雌雄を決する米大統領選は現地8日に行われ、接戦の末、大方の予想を覆しトランプ氏が勝利した。取引時間中にトランプ氏優勢の報道が流れると、東京株式市場はリスクオフの潮流に飲みこまれ日経平均株価が急落、一時下げ幅は1000円を超えるなど、大波乱の様相を呈した。外国為替市場では海外ヘッジファンドの投機が加速し急激な円高ドル安が進行、4円近い円高で一時1ドル=101円台前半まで円が買われるなど、パニック的な乱高下。新興市場にも売りが殺到し、午後2時過ぎにマザーズ先物12月物はサーキットブレーカーが発動、マザーズ指数は9%近い下げで一気に800を割り込む場面があった。

 今回は勝敗を分けるとされた激戦州の中で、フロリダをトランプ氏が制したことが大波乱相場の入り口となった。以下、ペンシルべニア、オハイオ、アイオワなどでトランプ氏が勝利した。とりわけ、オハイオ州は“同州で負けて大統領になった候補はいない”といわれる最重要州であり、ここでトランプ氏が勝ちを引き寄せたことが、後場にリスクオフ相場が加速する背景となった格好だ。

●意図せぬ“ねじれ解消”で警戒警報発令

 また、議会選も3分の1の34議席が改選された上院、全435議席改選の下院ともに共和党が勝利。“クリントン大統領”であれば、“ねじれ”継続が見込まれた議会との関係については、皮肉にも共和党から大統領が選出されたことで、ねじれは結果的に解消、“トランプ大統領”が打ち出す政策がそのまま通りやすくなる。反グローバリズムの流れを引き継いで「アメリカ・ファースト」を表明するトランプ氏は、彼を選出したアメリカ国民にとってはヒーローに映るかもしれないが、超大国が自国第一主義を貫くことで、その他の国々、とりわけ米国との関係密接な日本にとって由々しき事態であることは間違いがない。

●日銀ETF買いに不良債権化リスク

 松井証券シニアマーケットアナリストの窪田朋一郎氏は「なんとも表現し難いが、ブレグジットの比ではない。日本は経済・産業面でも非常に厳しい状況に陥ったということはいえる。トランプ氏はTPPにとどまらずNAFTA離脱も主張している。メキシコに工場を持っている自動車メーカーなどはその影響は甚大だ。また日米安保についても日本を“タダ乗り”呼ばわりしていることで、この先どうなるか予想がつきにくい」とする。

 また、デフレ脱却を第一義とするアベノミクスを脇で支えてきた、日銀の金融政策も水泡に帰す可能性がある。「トランプ氏は大規模減税を柱とする経済政策を主張しており、長期金利の急上昇が必至。こうなると、日米金利差と為替動向が切り離せないだけに日本も緩和的政策を日本の都合だけで継続することは難しくなる」(窪田氏)と指摘する。また、中央銀行としては世界でも異例といえる巨額の「ETF買い」を日銀は実施しており、これが不良債権化することを問題視する動きが出るのではないかと窪田氏は危惧している。

●恐るべき無党派層と米国格差社会

 それにしても、今回の結果は可能性としては意識されたが、実際に退役軍人批判や女性蔑視発言で資質に疑問符が付くトランプ氏を自国の大統領とすることに米国民に抵抗はなかったのか。

 これについて、株式評論家の植木靖男氏は「米国民は我々が考える以上に格差社会に対する不満が広がっていたということ。表向きはともかく、隠れトランプ派が思った以上に多かったようだ」という意見だ。今回の大統領選を主導したのは従来の共和党ではなく、トランプ候補を熱烈支持した無党派層である。「経験値ゼロのトランプ氏をトップに選ぶことは政治的にも相当に不安定さが増し、彼らの暮らしにとってもいいことはない。浅はかだと言ってしまえばそれまでだが、これはアメリカ人と日本人との価値観の違いとしかいいようがない」と植木氏はいう。

 今後の株式市場の見通しについて「下値はショートカバー(空売りの買い戻し)が入ることから、いったんは戻る局面があるが、中期的に見て上昇トレンドに向かう理屈は現状では見当たらない。1万6000円割れで買い、というような安易なメドはつけにくい。とりあえず、目先の売買でなければ、どこが底値になるかを見極めてから対応するのが賢明と思う」(植木氏)としている。

●それでも前を見ればチャンスは拓かれる

 一方、「大統領が代わっただけで、直接ファンダメンタルズが毀損されるわけではないのだから、慌てすぎないことが肝要」と主張するのは東洋証券ストラテジストの大塚竜太氏だ。下値を模索するのは仕方ないが、そこは絶好の仕込み場になるという考え方である。

 今回の結果について「米国の政策として製造業をしっかり育成して、分厚い中間層を作ってこなかったことが今回の雪崩的な現象につながった。とはいえ、トランプ氏の主張する政策が額面通りに現実化するとは考えにくい。こういうイベント的なショックがあるとすぐに最悪のシナリオが描かれやすいが、株価は底無しで下げることはない。行き過ぎた下げはチャンスと捉えるのが投資のイロハだ」と前向きな見解を示す。「短期的には日経平均1万5800円どころが買い戻しのポイント。また、中期的に下値を切り下げる展開となった場合でも、PBR1倍の1万4400円近辺は岩盤でここを下回ることはないだろう」(大塚氏)としている。

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