【市況】中村潤一の相場スクランブル 「バイオ関連で“10倍”銘柄を探す旅」
株式経済新聞 副編集長 中村潤一
株式経済新聞 副編集長 中村潤一
●過剰流動性が世界を覆いつくす
デフレモードにある日本や欧州との対比で、米国経済の強さがよく引き合いに出されますが、基本的に最高値圏を走る米国株の本質は業績相場ではなく金融相場です。そして、これは現在の世界のマネーフローを象徴しているともいえます。
米国企業の4-6月期決算発表では、例えばソフトバンクグループ <9984> 子会社のスプリントの場合、赤字幅拡大もトップラインが市場予測をわずかに上回ったことを理由に株価が急伸した経緯があります。また、直近ではiPhoneの販売不振で注目が集まったアップルの決算(26日)についても、3割近い最終減益を発表してもEPSがコンセンサスを若干上回ったことから時間外で大きく買われました。並みの地合いであれば売りに凌駕されて全く不思議のない場面で当然のように上値を指向する。これはマーケットに溢れた資金が行きどころを探す典型的な金融相場の兆候を表しています。
英国EU離脱決定で世界株市場が暗いトンネルに入るかとみられた矢先、「不確実性の高まり」を一瞬にして昇華させたのは、先進各国の中央銀行が供給する過剰流動性の仕業、いわゆる広義のヘリコプターマネーが世界を覆っているからに他ならないのです。
●決定会合はヘリマネの解釈がポイントに
足もとの株式市場は29日に判明する日銀の金融政策決定会合の結果を前に、思惑が錯綜、為替相場とリンクして乱高下を繰り返しています。今回ゼロ回答はあり得ないと思いますが、要はその方策が問題。マネタリーベースの増加ペース拡大(国債購入額の増額)は財政ファイナンスの領域に踏み込まなくても、実質的に“出口なし”のヘリコプターマネーに等しいとの認識がマーケットに浸透するかどうか、これがひとつのカギを握ると考えています。
また、量的緩和を実施するにあたってETFの購入枠拡大は株式市場への浮揚効果も考慮すれば外せないところ。さらに、マイナス金利の深掘りは銀行収益へのデメリットを勘案した場合、マーケットに負の連鎖を及ぼす可能性が高く本来避けるべきですが、日本版TLTRO(テルトロ)の発動で銀行貸し出しにマイナス金利を適用することとセットで打ち出されるのであれば、マーケットにも受け入れられる可能性がありそうです。
●日銀の切るカードを見てからでも遅くない
もっとも、むやみに短期売買に参戦してもHFTなどの高速自動売買に振り回され、結果として着地点を見失うパターンに陥りがちです。至近距離で相場と対峙すればするほど方向感がつかめない。こういう地合いでは、距離に少し余裕を持って大局的な目線でみるのが勝利をつかむコツとなります。
今は強気が一夜にして弱気に変わることもあり得る相場です。しかし、一朝一夕では世界的なマネーフローに変化の余地は乏しく、今後も過剰流動性の波高が小さくなるということはないでしょう。これは株式市場にとって強力な援軍です。突風にバランスを崩せば元に戻ろうとする力が働くというのが、今年の相場の最大の特徴といえます。
したがって、投資家のとるべき作戦としては、イレギュラーバウンドしたボールが止まった場面を狙うのが得策。金融政策決定会合後のボラティリティが高まる場面を待って、上下どちらに振れても振り切った振り子に反対売買を仕掛ける、というのが実践的かつ有効な選択肢であると思われます。仮にマーケットが日銀の回答を評価せず売りに傾いたとしたら、三井不動産 <8801> をはじめとする緩和トレード筆頭の不動産でも、トヨタ自動車 <7203> など為替に連動しやすい自動車株でも、売り物が希薄化してもみ合いに入ったのを見計らってから、安値を拾っていくスタンスで報われそうです。
●ポスト・アベノミクス相場に照準
ただし、主力株は長く保有する対象ではありません。中長期視野に立って相場を俯瞰した場合、日経225採用銘柄とは離れ個別材料株もしくはテーマを背景とした成長期待の大きい銘柄に活躍余地があると考えています。今は日経平均株価を追いかけるメリットが見いだしにくくなっているからです。
どんなに強い相場でも必ずターニングポイントは存在します。到底崩れそうもない千丈の堤(つつみ)であっても時の流れは必ずそれを穿(うが)つのです。「大回り3年小回り3ヵ月」という有名な相場格言があります。民主党政権から現在の安倍政権にバトンが渡されたのが2012年の年末であり、そこからアベノミクスは為替の長期トレンド大転換と歩調を合わせ、まさに円安と二人三脚で金融相場の道程を歩み続けてきました。しかし、年初からの崩れ足でちょうど大回り3年を経ての波動転換を確認、すなわち15年末にアベノミクス相場の終焉が訪れたというのが、個人的な見立てです。それについては今年1月27日付の「アベノミクス相場終焉で狙うべき株」で触れています。
●テンバガー銘柄の夢を追いかける
そのなか、大勢トレンドと個別銘柄の物色は別の次元で考えておく必要があるでしょう。例えば日経平均は1989年の年末に最高値3万8915円で大天井をつけていますが、その後は99年~2000年にITバブルがあったように、大局とは関係なく局地的なビッグウェーブに乗ることが十分に可能です。今は多方面で技術革新の波が押し寄せており、その“局地バブル”の有力候補となるのが、バイオであり人工知能(AI)であると考えています。2000年当時のITバブルを後ろで支えたシナリオが10数年の時を経て現実買いのステージに上がるように、今は理想買いであっても、そうでなくなる時が必ず訪れる。過去の相場が証明するように株価に反映される先見性は人智を超えているのです。
相場の時間軸に関係なくテンバガー(10倍化)銘柄は常にマーケットに転がっており、玉石混交の玉を見つけ出すのが投資家としての夢であると同時に、誰にでもそれに挑戦する権利があります。
●休養十分のバイオ関連は“玉”の宝庫
バイオ関連では世界的な新薬不足のなかで創薬ベンチャーの存在感が高まっており、メガファーマ主導の連携で業績面でも黒字化して収益成長を遂げる銘柄が増えている。これがバイオ関連セクターに波状的に資金が向かうベースとなっています。また、銘柄も十把一絡げではなく、iPS細胞を軸とした再生医療、遺伝子に直接作用する核酸医薬 、がん免疫療法分野など物色テーマも徐々に色分けされてきています。
バイオ関連は調整一巡感が出ており、「売り物が枯れた場面が買い場」という相場のメカニズムを考えた場合、今は再度チャンスが巡っています。黒字バイオベンチャーのツートップ銘柄ペプチドリーム <4587> 、そーせいグループ <4565> [東証M]のほか、がん治療関連では世界初の免疫活用型治療薬で収益を飛躍させている小野薬品工業 <4528> 。さすがにこの3銘柄についてはここからの10倍化は難しそうですが、キナーゼ阻害薬のカルナバイオサイエンス <4572> [JQG]や新薬「HF10」に期待が高まるタカラバイオ <4974> 、細胞医薬品の開発で先駆し脳神経系疾患の治療薬を手掛けるサンバイオ <4592> [東証M]などは株価大変貌の可能性を内包していると思われます。また、 核酸医薬では大底圏にあるナノキャリア <4571> [東証M]もマークしておきたい銘柄です。
(7月27日記、隔週水曜日掲載)
株探ニュース