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【経済】ヘリコプターマネーに関するetc.、そして導入実現の可能性は?

日経平均 <日足> 「株探」多機能チャートより

ヘリコプターマネーに関する議論が足元で急速に高まっている。日銀の金融政策の限界が意識されつつある中、英国のEU離脱決定に伴って足元では急速な円高も進行しており、インフレ目標の達成が一段と遠のく状況となってきている。このため、究極の奇策とも、最後の手段とも位置づけられるヘリコプターマネーの導入に対する期待感が高まっている格好だ。今週には一部報道で、政府がヘリコプターマネーを検討とも伝わっている。

11-12日には米バーナンキ前FRB議長が来日、黒田日銀総裁、安倍首相と相次ぎ会談を行っている。バーナンキ氏は以前、デフレ克服に「ヘリコプターからお金をまく手もある」と話し、「ヘリコプター・ベン」の異名を持っている。また、へリコプターマネーを提唱したフリードマンの弟子でもある。今回、「今がヘリマネーに踏み切るチャンスだ」と首相に進言した本田前内閣官房参与の勧めに応じて、バーナンキ氏との会談が行われたとされていることで、ヘリコプターマネーの是非に関する議論がなされた可能性は高い。なお、バーナンキ氏は2003 年5月にも来日して、物価目標の導入や銀行資本の充実、日銀のバランスシートを利用した政策などを提案してり、実際に日銀などは事実上その提案を受け入れている。

ヘリコプターマネーとは
政府の財政支出を中銀が補填する政策(財政政策のファイナンスを中央銀行のマネーで行うということ)

具体的な手法としては、政府が新規で無利子永久債を発行し中央銀行が引き受ける、日銀がすでに保有している国債の一部を無利子永久債に交換するなどが挙げられている。公共支出拡大による直接的なGDPや雇用、所得の押し上げ、減税による消費支出拡大、実質金利の低下による投資拡大などの効果が期待される。

特徴としては、返済義務のない資金が裏付けとなるため、国民の将来不安は強まらないということ。公債発行による財政拡張は、国民が将来の増税予告と捉えてしまうため、その備えとして消費抑制と貯蓄拡大につながり、財政拡張の効果は減殺されてしまう。

議論の高まりの背景
金融政策の手詰まり感の強まり。
将来不安の解消の必要性。
デフレに苦しんでいる状況下で、将来のインフレを懸念することがおかしい。
現時点でも、日銀は新発国債を大きく上回る国債を購入、実質的なヘリコプターマネー政策ともいえる。
日本の膨張した政府債務の問題の解決にもつながる。

最近では、クリーブランド地区連銀のメスター総裁が、「ヘリコプターマネー」について「FRBがさらに金融緩和をする必要が出たら、採用する手段になり得る」と述べた。現内閣官房参与の浜田氏も、「一度限りという条件ならヘリマネーを検討してもよい」としているもよう。リカルド・カバレロ、ジョルディ・ガリ、マイケル・ウッドフォードといった経済学者、英フィナンシャル・タイムズ紙のマーティン・ウルフらも賛同しているようだ。

問題点・リスク
政治主導で無制限な財政拡張が図られれてしまうなど政治の暴走のリスク。
財政規律がないとの市場の見方から、円や国債への信認が失われる恐れ。
財政法の立法趣旨に反し、法改正などが必要にもなってくる。
そもそも論として、政府から中央銀行の機能が分離されたのは、財政ファイナンスを防ぐことにあった。

対策
中央銀行が厳格な政策発動条件を定めるなど、金融政策の独立性と財政規律の維持を担保する必要がある。また、立法府などが財政政策遂行の是非を判断するメカニズムを確保することなども要件となり得る。
法律に関しては、財政法の第5条で、日銀による国債の直接引き受けは原則として禁止されているが、ただし書きとして、「国会の議決」がある場合は可能ともされている。

その他トピックス
これまで極端な政策手段とみられたマイナス金利だが、現在では多くの中銀が採用している。このため、マイナス金利同様に先入観なく検討をすべきとする意見もある。ちなみに、マイナス金利政策についても、無制限に近い水準が可能となるが、実際には、マイナス効果なども考慮して、多くの国は利用に制限をかけている。

「政府紙幣及び無利子国債の発行を検討する議員連盟」の2009年3月の提言には、危機に対応して大胆な景気刺激策に取り組むために、政府紙幣の発行、あるいは、日銀による国債の直接引き受けを行うべきとの意見が盛り込まれていたもよう。同議連の顧問であった菅氏は現在の官房長官である。

野村證券では、「日銀保有国債の永久債化」などは円の信認低下を通じて、インフレ高進と同時に日本からの資本逃避を喚起すると想定。こうした資本逃避シナリオ下での資産価格想定として、1年後の日経平均株価は6500円、ドル・円は195円としている。

実現の可能性
ヘリコプターマネー導入に向けた環境は構築されつつあり、市場の過度な拒否反応も低下しつつあるように感じる。こうした政策導入は日銀の単独決定事項ではなさそうだが、仮に、日銀政策決定会合でのアナウンスが実施されるのであれば、相場環境にもよるが、年内に実施される可能性は高いとみる(12月の衆院解散・総選挙に向け)。ただ、7月の決定会合では、他の想定される施策も残り、実施に際してのメカニズムなども策定する必要性があることから見送りの公算。足元での世界的なリスクオンの流れも、直近での導入決定には逆風と考えられる。


なお、フィスコでは、ヘリコプターマネーが実施された場合の国内景気や金融商品の動向なども次回シュミレーションしたいと考えている。

《KS》

 提供:フィスコ

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