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【経済】【フィスコ・コラム】ポンドより深刻なユーロの問題

ドル円 <日足> 「株探」多機能チャートより

英国民による欧州連合(EU)離脱という選択は、金融市場を一変させました。短期的な混乱は収束したものの、日を追うごとに不透明感が増しているように思えます。英国を含む欧州の実体経済や金融政策への懸念は、足元ではポンドへの影響がクローズアップされていますが、今後の政治情勢を考えればユーロへの影響の方がより深刻なのではないでしょうか。


6月23日に行われた英国民投票の結果を受けてポンドは暴落し、対円では160円19銭から133円31銭まで、実に20%も値を下げました。その後は株高などに支えられ、ポンドは短期的に138円台まで値を戻す場面もありました。しかし、7月4日に発表された英・6月建設業購買担当者景気指数(PMI)や同5日の6月サービス業PMIには英国のEU離脱の影響はまだ反映されていないものの、低調な内容となったことに反応し、ポンドは6日の取引で128円台まで下落。過去数年間のサポートラインとなっている120円付近への下落が予想されるなど、下げ余地は大いにあります。


こうしたポンド安は市場心理を悪化させ、他の主要通貨に影響を及ぼしています。ドル・円は一時、節目の100円に接近しました。足元ではこうした円買いに歯止めをかける手がかりは見当たらず、リスクの少ない円に資金が流入しやすい地合いとなっています。英中銀のカーニー総裁は6月30日の記者会見で金融緩和の必要性に言及しており、7月14日か8月4日開催の金融政策委員会(MPC)で現行0.5%の政策金利を引き下げる方針のようですが、市場では「協調介入でポンド安に歯止めをかけないと、リスク回避的な動きはなお続く」(邦銀関係者)との声が聞かれます。


ただ、英国のEU離脱の問題は、実はポンドよりもユーロへの影響の方がより深刻と思われます。英国が離脱してもポンドという通貨は残りますが、今後の欧州圏の政治情勢次第でユーロは消滅しないとも限らないからです。来年のフランス大統領選とドイツの議会選というEUの両コア国による選挙の行方が注目されます。フランスでは国民の45%がEU離脱の是非を問う国民投票の実施に賛成、と地元メディアが伝えています。フランスの離脱となればEUの存続にかかわってくるため、今後の懸念材料に発展する可能性はあるでしょう。


2015年以降に欧州で行われた選挙は、ポーランドなどは右傾化、ギリシャやポルトガルなどは左傾化といったようにどちらかに傾いているように思えます。各国の政治や経済の情勢が一様でないので、「欧州」としての方向性は読み取れませんが、既存勢力から脱却しようとの動きが見られることは確かなようです。EUの人々の心理に多大な影響を与えているのはテロ、難民の問題でしょう。この2つの問題がEUに帰属するメリットを削ってしまうとの考え方が今後も広がるなら、フランスやドイツでの選挙もそれを如実に反映する結果となるでしょう。つまり、EUからの遠心力がより強まるということです。


ユーロは現在、まとまったマネーの受け皿という主要な役割を担っており、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げが遠のくほどユーロ選好の地合いになります。しかし、ビジネス以外で将来的に消滅する可能性のある通貨への投資は当然減少していくでしょう。ユーロはドルとの価値が1対1になる「パリティ」のウワサが広がると浮揚する、とのアノマリーも通用しなくなります。EU離脱に伴う英国の混乱は、今年9月の新政権発足によりEUとの交渉が本格化すれば大底を打つ可能性はありますが、EU側の危機は、実はこれから本番を迎えるのかもしれません。

吉池 威

《MT》

 提供:フィスコ

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