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【市況】中村潤一の相場スクランブル ― 「LINE狂想曲」と「既望」 ―

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

●十六夜の月は追いかけない

 月の満ち欠けというのは時代を問わず神秘的であり、株式市場でも満月や新月が相場の地合いの変化につながるという見方は根強くあります。満ちれば欠ける時が訪れるのは、何ものも抗うことのできない摂理であり、これは株価の動きにも通じるものがあります。株式投資でいえば、満ちている時は即ち売り場であって、どこまでも上がり続ける銘柄というものは存在しません。

 十五夜の翌日にためらいがちに顔を出す月を十六夜(いざよい)の月といいます。別名「既望」とも呼ばれ、見た目は満月とほとんど差はないけれど、“既に満ちてしまった”後ですから、そこからは日ごとに欠けていく段階に入っていくわけです。どんなに強いと思われる銘柄であってもピークは必ず訪れます。十六夜の月を追いかけることは基本的に避けなければいけません。次の満ちる段階への移行を「待つ」ことも株式投資では重要なストラテジーといえ、個別株戦略としては近視眼的に同じ銘柄を追いかけず、視点を変えて投資対象を絞る、つまり新たに資金を寝かせる場所を探すタイミングについても常に意識を向けておく必要があるのです。

●「セル・イン・メイ」克服後の突風に用心

 「セル・イン・メイ」が懸念された5月相場でしたが、過ぎてみれば日経平均株価は1万7000円台を回復し、3カ月連続で堂々の月足陽線を引きました。ただ、売買代金が指し示すように力強さはありません。伊勢志摩サミットは成功裏に終わったものの、皮肉なことにこの重要な政治イベントが開催された月に海外マネーは引き潮のように東京市場から姿を消してしまったような印象すら受けます。ピアノ線の上を歩くような微妙なバランスのなかで形成された上昇トレンドであり、6月は突風が吹くことも念頭に置いて、慎重なスタンスが求められるところです。

 本来であれば、消費増税の再延期に加え、伊勢志摩サミットで安倍首相が主張した財政出動を伴う景気刺激策の発動も既定路線といってよく、株式市場には上昇相場の糧となる材料が揃っています。足もとの経済指標では、熊本地震の影響を吸収して4月の鉱工業生産速報値が市場予想に反して上昇するなど意外な強さを発揮し、これも投資マインドにはプラスに働きます。しかし、2012年末をスタート地点とするアベノミクス相場は、この半年に限って言えば年初からその上昇エンジンは作動していないことが明らか。繰り返しになりますが日経平均の動向は、安倍政権ではなくドル円相場と一蓮托生なのです。「既望」のアベノミクス相場にどう対応していくかは、投資家それぞれの裁量に委ねられているといえます。

●インパクト欠いたLINE上場報道

 そうしたなか、名実ともに月替わりとなった1日の相場ではLINE関連が火を噴きました。2014年以降、これまで何度も先送りされてきた上場思惑が、満を持して今夏に実現する方向となったことは、テーマ株の循環物色に新たな息吹を与えています。

 もっとも関連銘柄の直近の値動きを見る限り、サプライズを先食いしているような上昇波動を形成しているものが多いことに気づかされます。市場では、「提供するゲームの一部アイテムを事実上の『通貨』と判断した当局の求めに、LINEが応じたとの観測が、そのまま上場カウントダウンの思惑につながったのではないか」(国内ネット証券大手)との見方が示されていましたが、いずれにしても関連最右翼と目されるアドウェイズ <2489> [東証M]やネットイヤーグループ <3622> [東証M]も株価の値幅制限上限には届かず、その後の伸び悩み方をみても、上場報道がややインパクトを欠いていた感は否めません。

 モメンタム相場においてPERを判断材料に掲げるのは方向違いとはいえ、実態面からLINEの成長性自体に鈍化の兆しが出ていることは、このテーマで高PERの関連株を買い続けることの難しさを暗示しています。LINEはIPOの超大型案件で期待の星ではありますが、新陳代謝の激しい業界にあって、やはり企業として「既望」の領域に足を踏み入れている可能性があり、関連銘柄物色も人工知能(AI)自動運転といったテーマとは一線を画すと考えておくのが無難と思われます。

●潮流変化のなかで好業績割安株に照準

 前回にも触れましたが、相場の潮流は明らかに変化してきています。ここは、いったん仕切り直してモメンタム投資から実態評価のバリュー株投資にシフトするタイミングかもしれません。相場のセンチメントは、値動きは地味でも安定を求める地合いに傾き始めた印象があり、チャート的にもこれから天満月を望む銘柄はバリュー面で強みを持つことがひとつのカギを握ることになりそうです。

 アーレスティ <5852> は自動車向け中心のダイカスト大手で北米向け中心に好調な需要を取り込んでおり、業績は16年3月期の高変化に加え、17年3月期も経常利益段階で2ケタ増益を確保する見通し。PER6倍、PBR0.3倍台と極めて低く、配当利回りも2%前後あり、チャートも好形で注目する価値がありそうです。

 また、化粧品向けなど高付加価値の酸化チタンと界面活性剤を収益の主柱とし、ピーク利益更新基調の続くテイカ <4027> もPERは8倍未満で上値余地が意識されるところ。

 このほか低位株では、ファミリー向け分譲マンションを展開し、ここにわかに動意含みのセントラル総合開発 <3238> [東証2]もマークしてみたい銘柄。17年3月期も大幅増収増益基調を継続する見通しで、期末(一括)配当は1円増配の5円を計画、時価は依然としてPBR0.6倍近辺と割安感が漂います。

(6月1日記、隔週水曜日掲載)


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