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次世代漁業の切り札、参入企業相次ぐ「陸上養殖」関連に迫る株高の波 <株探トップ特集>


―丸紅が陸上養殖サーモン販売開始、低環境負荷・安定供給強みに本格的な普及期到来へ―

 丸紅 <8002> [東証P]は25日、国内で陸上養殖したアトランティックサーモンの本格販売を始めたと発表した。背景には人口増加や健康志向の高まりで世界的にサーモンの需要増加が見込まれているほか、生態系保護や海面養殖に適した地域が限られていることが挙げられる。水質汚染や養殖魚の流出といった環境への負荷が低い陸上養殖は、水産物をサステナブル(持続可能)かつ安定的に供給するひとつの解決策として期待されており、関連銘柄に注目してみたい。

●減少傾向続く漁獲量

 国内の漁獲量は減少傾向が続いている。水産庁が6月に公表した水産白書によると、2022年の生産額(漁業・養殖業の生産量に産地市場卸売価格などを乗じて推計したものに種苗の生産額を加算したもの)は1兆6001億円とピーク(1982年の2兆9772億円)の半分近くになっている。海洋環境の変化などから漁業による安定的な漁獲量の確保が難しくなっており、計画的に生産できる養殖ビジネスの注目度は高い。

 なかでも特に関心を集めているのが、自然環境など外的な要因の影響を受けにくい陸上養殖だ。生産性を上げやすく、場所を選ばずに多様な魚種の養殖ができ、環境負荷も小さく、トレーサビリティー(生産履歴の追跡)も容易なことから世界的に注目されており、7月にはJR四国(香川県高松市)がサーモンの陸上養殖に新規参入することを発表した。国際連合食糧農業機関(FAO)が6月に公表した「世界漁業・養殖業白書」では、水生動物生産において養殖業が捕獲漁業を初めて上回ったことが報告されており、新興国を中心とした人口増加と経済発展によって世界的なタンパク質需要の増加が見込まれることを考えれば市場は更に拡大しそうだ。

●供給不足を補う銘柄群

 産業機械・機器のメーカー商社であるリックス <7525> [東証P]は、水を再利用することで排水を出さない閉鎖循環式の陸上養殖設備を手掛けている。特徴としては「水替え期間を大幅に延長(アンモニアを微生物分解し、脱窒を行うことで無害化)」「糞や餌の食べ残しを除去し、コンポスト処理を行うため廃棄物が出ない」「ファインバブルを採用し、魚の成長を早めることが可能」「閉鎖循環式なのでアニサキスや病気のリスクが減少」「水温コントロールや給餌装置の設置により、人手がほとんど掛からない」ことなど。同社は中期経営計画で新領域への進出や独自製品の拡大を掲げており、事業分野を広げる構えだ。

 荏原実業 <6328> [東証P]は、このほど完成した宮城県水産技術総合センターの閉鎖循環式陸上養殖研究棟で飼育設備工事を担当した。飼育水槽、生物ろ過槽、脱窒装置、泡沫分離装置、紫外線殺菌装置、調温装置などで構成されたシステム一式を整備。同社は養殖設備に関する長年の経験をもとに、種苗生産設備や更なる普及が見込まれる陸上養殖システムの提供を通じて、水産業の発展に引き続き貢献するとしている。

 日本軽金属ホールディングス <5703> [東証P]傘下の日軽形材は8月、ARK(東京都渋谷区)と陸上養殖及び蓄養向け業務用水槽プラットフォーム「ARK ZERO」を共同開発したことを明らかにした。これは高気密・高断熱な業務用水槽で、環境負荷を抑えつつ、水産物の生育環境を最適化するとともに事業者の導入・運用コストを大幅に削減することが可能。設置環境やニーズに応じて自由に連結・水槽数を増減し、水量・水温・魚種を可変的に運用することができるという。

 日本特殊陶業 <5334> [東証P]は7月に陸上養殖事業に関する新会社「Niterra AQUA」を設立した。Niterra AQUAは、陸上養殖の課題である水質管理に着目し、水質をセンシングすることで水質の状態を把握し、その状態にあわせた養殖作業指示を行うことで、陸上養殖未経験の顧客でも「えび陸上養殖」を開始できるトータルソリューションシステムを提供する予定。このシステムは、工場や倉庫などの空きスペースを有効活用したい顧客に設置できる大きさであることが特徴で、協力企業と事業内容のPoC(概念実証:Proof of Concept)を開始する計画で準備を進めている。

 日本システム技術 <4323> [東証P]は7月、陸上養殖設備とICT標準化のパッケージ化の開発や沖縄県内への陸上養殖設備の販売などを手掛けるLand Aqua Culture Innovation(沖縄県浦添市)に出資したことを明らかにした。同社は出資を通して、海洋資源の持続可能な管理と活用を進めるとともに、陸上養殖技術の更なる革新を目指すとしており、他地域への技術拡散を推進していく考えだ。

●フィードワンなどにも注目

 これ以外の関連銘柄としては、水産飼料を扱うフィード・ワン <2060> [東証P]、小~大流量までLEDで水をキレイにする日機装 <6376> [東証P]、養殖業者向けアプリ「Aqua Scope」を提供する古野電気 <6814> [東証P]、養殖飼育水の水質管理をサポートする東亜ディーケーケー <6848> [東証S]、陸上養殖関連機器・システムを展開する岩谷産業 <8088> [東証P]、陸上養殖保険引受けスキームを構築しているSOMPOホールディングス <8630> [東証P]、小型・分散型閉鎖循環式のシステムを用いた陸上養殖のトライアルを行っている静岡ガス <9543> [東証P]など。

 大日本印刷 <7912> [東証P]は9月、愛媛大学と新菱冷熱工業(東京都新宿区)と共同で養殖魚の飼料(エサ)となる昆虫の飼育を自動化する原理試作機を開発したと発表。今後は研究を更に進めて自動化技術を向上し、25年度に年間10トンの養殖魚用飼料粉末の生産を目指すとしている。

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