トレードワークス Research Memo(8):アライアンス戦略により金融ソリューション事業の成長ポテンシャル高まる
■トレードワークス<3997>の今後の見通し
2. 中期経営計画の進捗状況
(1) 中期経営計画の概要
同社は、2026年12月期を最終年度とする5ヶ年の中期経営計画を2021年12月に発表し、方針として「次世代金融、新デジタル時代を見据えたテクノロジー・ファースト型の企業成長」を掲げた。この方針の下、培ってきたコア技術・資産である証券・FX・情報セキュリティ領域におけるソリューションをベースに、テクノロジーを基盤に創生される新たな市場へと事業展開している。基本戦略として、「事業領域の拡大」に加えて「ビジネスモデル転換(利用型・ストック型ビジネスモデルの売上高比率の向上)」に取り組み、事業規模拡大と収益力向上並びに持続的成長を可能とする収益構造を構築する考えだ。
(2) 業績目標
業績目標値は、最終年度となる2026年12月期に売上高6,000百万円、営業利益795百万円を掲げている。進捗状況は、M&Aにより2社を子会社化したことで成長の源泉となる人的リソースの増強が想定を上回るペースで進んだことで(2024年6月末で220名と目標の210名を上回る)、売上高はおおむね計画どおりに進捗している。一方、利益面ではM&Aや本社移転なども含めた先行投資費用がかさんだことで一旦後退した格好だ。業績目標を達成するためには、今後3年間で売上高を年率16.9%成長、営業利益率を前期の0.8%から13.3%に引き上げる必要がある。目標達成に向けては、PM強化やグループシナジーによる生産性向上に加えて、注力事業であるデジタルコマース事業で収益拡大を図り、成長軌道に乗せられるかがカギを握ると弊社では見ていた。しかし、既述のとおり金融ソリューション事業においてSCSKとの資本業務提携やミンカブソリューションサービシーズとの業務提携を発表したことで、同事業の成長ポテンシャルが一段と高まり、新規事業育成の遅れをカバーする可能性が出てきた。
収益構造の転換については、既存事業のストック型売上高を2022年12月期の1,606百万円から、2026年12月期に3,074百万円に拡大し、売上高比率で同期間に51.2%から62.7%に引き上げることを目標としている。ストック型売上高比率は新規開発案件の売上計上時期によって変動するが、トレンドは上昇傾向にあり収益の安定性向上につながると予想される。エンジニア数については目標となる210人を超過したことから、今後は質の向上を図り優秀な人材の採用や育成に注力する。また、働く環境の改善、エンゲージメントの向上にも取り組み、離職率の低減を図る。
(3) 事業別売上計画
a) 金融ソリューション事業
売上高を2023年12月期の2,805百万円から2026年12月期には1.6倍の4,500百万円、年平均成長率17.1%を目指す。Web3.0※の本格到来を見据え、暗号資産・デジタル証券・DeFi・NFT等の新たなテクノロジーへ積極投資し、次世代金融領域のフロンティア・カンパニーを目指す。2024年3月にはコネクティビティと拡張性を兼ね備えた次世代金融ソリューション「TradeAgent NanoCask」を発表しており、今後は同製品を基に次世代金融に取り組む金融事業者やFintech企業、スタートアップ企業への導入・拡販を進める。
※ Web3.0とは、パブリック型のブロックチェーン技術を基盤とするインターネットの概念。
また、インターネット証券取引システムのシェア拡大に向けては、今後、資本業務提携先のSCSKや業務提携先のミンカブソリューションサービシーズとタッグを組んで進める。SCSKは証券会社のバックオフィスシステムで業界第2位のポジションにあり、BPOサービスなども含めた証券会社向け売上高は2024年3月期で112億円の規模である。インターネット証券会社向けでは、顧客接点となるフロントシステム(インターネット取引システム、スマートフォンアプリなど)が競合との差別化ポイントとなる。SCSKは証券会社向けシェアを拡大すべく、フロントシステムで独立系トップの同社製品と組み合わせ、証券業務システムプラットフォーム事業として共同展開する戦略だ。ターゲット顧客はインターネット証券や総合証券会社だけでなく、投資信託商品を販売する投信会社や銀行なども含まれ、2030年までに両社合計で100億円規模の売上を目指す。このうち、同社製品の比率は3割程度になると想定される。
また、ミンカブソリューションサービシーズとの業務提携では、同社製品とミンカブソリューションサービシーズの金融メディア・金融情報サービスとの融合を推進し、競争力強化を図る。具体的には、金融機関DXをさらに加速させるサービスの提供と、利用者(投資家)の利便性向上に向けた共同事業を創出する。従来から同社受注案件の金融情報サービスにおいて、ミンカブソリューションサービシーズのサービスを提供するなど取引関係はあったが、今後は新サービスの共同開発や開発リソースの活用、システム運用体制やインフラ(サーバ、ネットワーク機器、回線等)の共有化によるコスト効率化を推進する。また、両社のサービスの共同営業及びクロスセルなども行うべく、合同営業推進部門も設置する。
b) FXシステム事業
2026年12月期の売上高は320百万円と、2023年12月期の184百万円から1.7倍、年平均成長率で20.2%を目指しており、現状は順調な進捗だ。モデルユーザーに提供したプロトタイプを製品化し他社に横展開することでライセンス・保守収入を獲得、高利益率を維持しながら売上成長を目指す。また、モデルユーザーの対象企業数を増やし、様々なニーズを収集しブラッシュアップすることで、製品の高付加価値化を図り競争力を高める。営業方針としては、顧客満足度の向上を図るとともに、新規顧客の開拓にも注力する。
c) 新規事業
新規事業(セキュリティ診断サービス事業、子会社事業含む)のうち、デジタルコマース事業の黒字化については、中期経営計画3年目となる2024年12月期を目標としていたが、事業の見直しなどにより2025年12月期にずれ込む見通しだ。2026年12月期の売上目標1,100百万円については、あじょやペガサス・システムを子会社化したことにより、2024年12月期にほぼ同水準まで到達する見込みだ。ただ、成長ドライバーとなるデジタルコマース事業については、多くの小型案件で立ち上げに苦戦する時期が続き、2024年に入って不採算案件の整理を進めるなど必ずしも順調に進んでいるわけではない。
このため、今後は特定の強力なパートナーと組むことで成長を加速させる方針だ。同社ミッションである「次世代のデジタルコマースを創生する」に立ち返り、金融システム開発で培ったコア技術をベースに、プラットフォーム/ソリューション展開を推進する考えだ。クラウドECプラットフォーム「Emerald Blue」を基盤としたシステム利用料に加えて、流通額に応じたレベニューシェアを獲得するステージに移行すれば、高成長軌道に乗ると思われ、今後のパートナー戦略が注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《HN》
提供:フィスコ