貸借
証券取引所が指定する制度信用銘柄のうち、買建(信用買い)と売建(信用売り)の両方ができる銘柄
日経平均株価の構成銘柄。同指数に連動するETFなどファンドの売買から影響を受ける側面がある
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6857 アドバンテスト

東証P
8,210円
前日比
-296
-3.48%
PTS
8,212.1円
23:58 11/28
業績
単位
100株
PER PBR 利回り 信用倍率
49.8 12.76 1.02
時価総額 62,900億円
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AIバブルは崩壊!? “落ちていくナイフ”の掴み方<大山季之の米国株マーケット・ビュー>


◆突如、日米株式市場に吹き荒れた「夏の嵐」の正体は?

 先週末から今週初めにかけての日米株式市場の暴落相場を振り返ってみると、日本市場では日銀の植田総裁による想定以上の「タカ派発言」に端を発して、米国景気のリセッション懸念を背景としたFRB(米連邦制度準備理事会)の利下げ幅拡大観測、急速な円高進行といった複合的な要因が重なり、最終的には個人投資家を巻き込んだ「パニック売り」へと繋がった、という流れだ。

 一方、米国市場では、FOMC(米連邦公開市場委員会)の結果は想定の範囲内だったが、8月1日に発表された米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数が市場予想を大幅に下回り、さらに翌日、2日の雇用統計でも失業率、失業者数がともに市場予想より大幅に悪化したことで、リセッションの懸念が急速に高まり、投資マネーがハイテク株を中心とした株式マーケットから資金を引き揚げた、という流れだった。

 とは言え、8月1日から5日にかけての下落率は、S&P500株価指数<^SPX>は約6.0%、ナスダック総合指数 は約7.9%の下落率に過ぎず、約19.5%暴落した日経平均株価と比較すれば小さな下落だ。一時は年初来安値を更新した日本株に対して、S&Pもナスダックも、依然として10%前後の上昇率を維持している。

 この一連の日米両国の暴落劇は、一体何を意味しているのだろうか。まず日本株に関しては、少々乱暴な表現かもしれないが、やはり世界の投資マネーから見れば日本株は「米国株のデリバティブの一種」に過ぎなかったのではないかということだ。この半年間続いた円安の流れに乗り、先物を中心に「円売り日本株買い」のポジションを取っていた海外のヘッジファンドなどの機関投資家が、日米金利差の縮小と米国景気の変調を感じて一斉にポジションを解消したことが、暴落の引き金を引いたことは間違いないだろう。

◆リセッション懸念高まる米国経済、9月の米利下げは0.5%が濃厚に

 では米国株はどう見ればいいのだろうか。先週のFOMC以後、景況感、雇用情勢の悪化が明らかになるとともに、FRBの利下げピッチが速まるのではないかという見方が増えている。実際、シカゴ・マーカンタイル取引所の「フェド・ウォッチ」では、これまで9月の利下げは0.25%とみられていたが、一気に0.5%利下げへと引き上がっている。これまで既定路線となっていた「ソフトランディング」のシナリオが崩れ、「ハードランディング」の恐れがある、と考える市場参加者が増えているのだ。だが果たして米国景気はそれほどまでに深刻な状態なのだろうか。

 確かに雇用に関しては、失業率は想定以上に悪化しているし、失業者数も増加している。先週、インテル<INTC>が全従業員の15%、1万5000人のリストラを発表したこともネガティブなアナウンスだった。さらに7月の失業率が4.3%となったことで、直近3カ月の平均失業率が過去1年間の最低値を0.5%以上上回り、リセッション入りの兆候を示す「サーム・ルール」が発動したことも懸念されている。

 だが、GDPの約70%を占める個人消費を客観的に見てみると、そこまで米国景気が急速に悪化しているとは思えないのだ。アメリカには、リアルタイムに近い形で個人消費の動向を示す統計データがいくつか存在するのだが、その一つ、米運輸保安局(TSA)が発表する日次搭乗客数の数値を見ると、コロナ後、現在まで右肩上がりで乗客数が増加し続けている。さらに全米のレストラン・ディナー予約数、ブロードウェイの観客動員数の週次、月次データも順調に推移している。

 もちろん、マクドナルド<MCD>やアマゾン・ドット・コム<AMZN>の決算が示す通り、個人消費がすべて好調だとは言い難く、消費者が一時期に比べてシビアになっている傾向はある。だが、決して人々が消費をしなくなったわけではない。消費動向のリアルなデータを見る限り、米国景気は堅調を維持していて、これから米国景気が一気に悪化すると考えるのは早計だと感じるのだ。

 米国株市場ではトランプ前大統領銃撃事件直後の7月16日にS&P500指数が高値を付けたのを境に調整局面入りした。これまで相場をけん引してきたASMLホールディング<ASML>、台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>、エヌビディア<NVDA>といった半導体企業が、両大統領候補の発言によって大きく下げたことがきっかけとなっている。フィラデルフィア半導体株価指数(SOX)も7月11日に付けた高値から20%超の下落となっていて、株価の面では「AI相場」の勢いに陰りが生じていることも確かだろう。

 とは言え、今回の24年4-6月期の各社決算を見てみると、半導体主力各社の業績は、インテルを除けば決して悪くない。TSMCの業績は市場予想以上だったし、ASMLも受注状況が良く、来期以降に期待が持てる内容だった。7月30日に発表されたアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)<AMD>は営業利益が2億6900万ドルと市場予想を上回り、翌日の株価は大きく上昇した。各社の決算で見えることは、目先の株価はともかくとして、AI半導体への投資は引き続き旺盛だということだ。

◆「AIで本当に儲かるのか」、市場が"答え合わせ"を始めた

 一方、半導体メーカーの顧客であるビッグ・テック各社はどうだろうか。アルファベット<GOOG>はYouTube広告の売り上げが伸び悩むなど微妙な決算内容で株価は下落、注目されたマイクロソフト<MSFT>の決算も、生成AI導入を進めている同社のクラウドサービス「アジュール」の伸びが鈍化しているということで、発表翌日の株価は軟調だった。さらに8月2日に発表されたアップル<AAPL>とアマゾンの決算では、アップルはiPadの売り上げ好調が好感されたが、アマゾンは本業のEC(電子商取引)部門の業績が市場予測を下回ったため、株価が大きく下落した。

 これらの決算結果と株価の反応を見て思うのは、マーケットがハイテク各社に対して"答え合わせ"を始めたのではないかということだ。この半年間、各社はAIブームに乗り遅れまいと巨額の投資を発表した。24年上半期で、マイクロソフトは330億ドル、アルファベットは250億ドル、アマゾンは305億ドル、さらにメタ・プラットフォームズ<META>も今年1年間で最大400億ドル以上をAIに投資をするという。果たしてこの、莫大な投資額を回収することができるのか。マーケットはこうした疑念とともに、各社を見るようになっているのではないだろうか。

 巨額のAI投資をしても、それによって本業が伸びなければ全く意味がない。グーグルやマイクロソフト、アマゾンに対するマーケットの評価が低かったのはこの懸念が原因で、半面、メタは本業の広告事業がAI導入で伸びたことが評価されたわけだ。だが、アマゾンに関しては決算内容をよく見ると、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)は前年同期の53.6億ドルが93.3億ドルへと営業利益が70以上も伸びている。AIへの投資がレバレッジを効かせながら、着実に同社のクラウド事業の収益増に結び付いているのが読み取れるのだ。株価の反応は、想定外のECの伸び悩みと慎重なガイダンスが足を引っ張っただけだ。

◆ここから先、掴むべき「ナイフ」はどんな銘柄なのか?

 いま、この1週間の大荒れ相場を受け、「AIバブルが崩壊した」という見方も目立つようになってきた。確かに、AIと名が付けばなんでもかんでも上昇していた"旬"の局面が終わったことは事実だろう。AIへの投資が評価された局面から、AIの具体的な収益化を求められる局面に移っているのだ。業績がまずまずだったとしても、少しでも市場の期待値を下回ると売られてしまうのはこのためだ。

 ではこれからAI銘柄に投資するのは避けるべきなのかというと、決してそんなことはない。何と言っても、AIが世界を変えていくのはこれからのことで、いまはまだ前夜の段階だからだ。実際、各社の業績を精査し、中長期的な視点で見てみると、AMDやメタ、アマゾン以外にもAI投資がこれから実を結ぶだろうと思える企業は少なくない。例えば、7月9日に188.75ドルの高値を付けながら、8月5日に100ドルを切る水準まで急落した半導体設計のアーム・ホールディングス<ARM>などはその代表例だろう。

 8月1日に発表された同社の決算では、データセンターやスマホ向けなど、ハイエンドの半導体設計では順調に業績を拡大しているが、それ以外の部門が低調で、2025年3月期の通期ガイダンスを据え置き、これが期待はずれということで株価は下落した。同社は詳細を発表していないが、苦戦している要因はおおむね、容易に推測ができる。アドバンテスト <6857>、村田製作所 <6981> 、TDK<6762> などの決算がヒントになるのだが、車載向けや工業向けの半導体の市況が悪化しているからだ。半面、AI半導体のライセンス売り上げは前年同期比70%増と好調だ。同社のビジネスモデルでは、ライセンスを売り上げれば、その後はロイヤリティ収入が継続して入ってくる。足もとの株価はともかく、AIによる将来の収益貢献のストーリーが見えているのだ。

 「落ちてくるナイフは掴むな」……。相場急落時のセオリーだが、同社のように将来の成長への道筋が明確に見えている企業であるなら、敢えてナイフを掴んでもいいのではないかと思う。もちろん、ナイフをやみくもに掴みにいけば大けがをするかもしれない。相場の状況を見ながら、時間分散を心掛け、慎重に投資をしていくべきだろうことは言うまでもない。

◆「AIで何を実現するのか」が問われる、本命回帰のハイテク・セクター投資

 ところでいま、新NISA(少額投資非課税制度)で株式投資を始めた投資家の中には、今回の暴落で株式投資からの撤退を考えている人が増えているという。私たち証券業界の責任でもあるのだが、これは非常にもったいないことだ。今後の投資に対しては決して悲観をするべきではないからだ。

 AI相場は半年間続いた第一幕が終わり、次のステージに突入した。このステージでは、言葉だけのAIではなく、AIの可視化が求められるようになるだろう。AIで社会を変えていくことができる企業なのかどうかをマーケットが選別する段階になっていく。前回記したテスラ<TSLA>はその典型例で、足もとの株価は低迷しているが、AI活用の具体的な姿が他社以上に見えている。AIで実現する"夢"と言ってもいいかもしれない。

 例えば、同社がいま、力を入れている工場作業用の精巧なアンドロイドを、グループ会社のスペースXが手がける宇宙事業と組み合わせたらどうなるだろう。SF映画の名作「2001年宇宙の旅」で描かれた「HAL」のような知能を持つアンドロイドが宇宙船を操縦し、人間では不可能な宇宙探索を行うといった世界も実現するかもしれない。人々がAIに期待するのは、本来、こうした未来像ではないだろうか。

 いずれにせよ、これまで相場をリードしてきたマグニフィセント・セブンなどのハイテク株については、「本命回帰」がキーワードになるだろう。AIで何を実現するのか。まだ簡単に結論は出ないと思うが、それを具体的に示すことができる企業は、業績も株価もさらに伸ばすことができるはずだ。例えばアップルなら「iPhone」はもちろん、「iPad」や「アップルウォッチ」など、同社ならではのデバイスがAIでどのように進化していくのか。マイクロソフトならやはり「Microsoft Office」の使い勝手が劇的に変化することかもしれない。アマゾンはEC環境の革新だろうか。グーグルなら……。

 いまは大きく調整しているAI銘柄だが、目先の株価動向にとらわれ過ぎずに、こうした将来へ向けた視点で各社の事業を見れば、まだまだ魅力的な投資対象を探すことができるはずだ。ひょっとしたらいまは絶好の押し目なのかもしれないし、買い場も近いかもしれないのだから。

【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト 

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。


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