戸田工業 Research Memo(9):中期経営計画「Vision2026」を策定(3)
■戸田工業<4100>の中長期の成長戦略
3. 機能性顔料事業
機能性顔料については市場が成熟化している状況にあり、「Vision2026」においては事業の合理化と収益を伴う事業の継続、加えて環境関連中心に産学官連携による次世代事業の早期実現化を目指す。このため、同事業での収益目標は2024年3月期の共通費控除後の営業損失7億円に対し、2027年3月期には営業利益で収支均衡を図る予想としている。
具体的に2024年3月期には減損2,184百万円を特別損失として計上、減価償却費、原価高在庫などの対策が打たれており、売上高の緩やかな回復とともに損失の縮小が段階的に進んでいくだろう。
(1) 顔料事業
2024年3月期は、売上規模で最も多い複写機・プリンター用途は、中国不振の影響もあり32億円となっているが、基本的にペーパーレス化の波は避けられず、売上はボトムを確認しているものの大きな拡大は期待できないため、収益性の高いカラー製品などで収益性を確保すると見られる。塗料用途については戸田聯合の譲渡もあり2024年3月期31億円はこの影響を除くと微減収と見られる。同部門についても、自動車用透明塗料、化粧品向け(開発品)など、収益性重視で対応すると見られる。
(2) 環境関連材料
同社はこれまで循環型社会の形成に対し、製品として燃焼時に有害物質の発生を抑制する触媒活性を持つ酸化鉄や土壌・地下水を浄化する機能を持った酸化鉄などを提供してきた。現在の環境関連市場向け2024年3月期の売上高は22億円となっているが中心は電子素材事業に含まれるハイドロタルサイト(Hydrotalcite)事業だ。ハイドロタルサイトは一般的にMg/Al系炭酸型層状複水酸化物(LDH:Layered Double Hydroxide)に代表され、層間の炭酸イオン(CO32-)とのイオン交換により塩化物イオン(Cl-)などの陰イオンを吸着、また含有する炭酸イオン(CO32-)が赤外線を吸収し、蓄熱・保温効果を発現する。このため鉛フリー塩化ビニル安定剤用材料、農業用ポリオレフィンフィルム保温材料などとして利用され、同社は湿式合成技術で様々な用途に合わせた形状で提供してきた。ただし同事業は新型コロナウイルス感染症拡大、昨今の中国不動産不況などで需要が伸びず、加えて中国でのメーカー乱立で価格下落もあり、2024年5月に協業先の堺化学工業(株)との協業提携解消を決定した。ただし、同事業は潜在的に従来とは異なる需要で復活の芽がある。具体的には高い塩素捕捉性能、配線微細化に対応した微粒子設計などで、半導体封止材用塩素捕捉剤としての需要が見込める。特に半導体での微細化で断線リスクに対し高いニーズがある。
さらなる取り組みでは産学官連携による次世代事業の事業化を推進している。具体的にはカーボンニュートラル実現のため、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)の委託事業を通じてエア・ウォーター<4088>と共同でメタン直接改質法(DMR法)によるCO2フリー水素の製造プロセス及びシステム開発を推進している。2023年8月に「DMR法」による商用規模の水素製造プラントを北海道豊富町内に設置し、メタンを主成分とする温泉付随天然ガスから、CO2を直接排出させることなく高純度水素の製造を行っている。同時に製造した水素を近隣需要家へ供給し、地産地消型の水素サプライチェーンの構築を進める。また副生成物の炭素は、高導電性を有する多層カーボンナノチューブ(CNT)として市場展開する。2025年度を目途に豊富町で自噴する未利用天然ガスを用い、DMR法を用いた商用規模の水素及びCNTの製造技術を確立し、併せて、エア・ウォーターが水素の貯蔵・輸送・供給システムを確立させ、域内の水素サプライチェーンを構築、同社がCNT粉体の高付加価値化を進め、CNTの用途探索と顧客での性能評価を実施し、システム全体で早期の社会実装化を目指す。
またカーボンリサイクル実現を目指し、埼玉大学の柳瀬郁夫准教授とナトリウムフェライトをCO2固体回収材として活用する研究も進めている。固体回収材は燃焼排ガス中に含まれるCO2を吸収し、100℃程度の加熱でCO2を放出する。固体で繰り返し利用でき、カーボンニュートラルに貢献する素材として注目される。2022年7月には、NEDOが公募した「グリーンイノベーション基金事業/CO2の分離回収等技術開発プロジェクト」において、「Na-Fe系酸化物による革新的CO2分離回収技術の開発」を同社、エア・ウォーター、埼玉大学が共同提案し、採択された。分離回収されたCO2の用途についてはH2とCO2を使った基幹物質、燃料、コンクリート配合剤などが考えられている。
全体として産学官関連は「Vision2026」では量産までには至らず収益に寄与するには時間を要すると見られるが、2030年度には売上高10億円、営業利益1億円を目標としており、同社の脱炭素社会、循環型社会の実現に向けた取り組みにも期待がかかる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
《AS》
提供:フィスコ