タクマ Research Memo(8):受注高は過去最高の2,300億円を目指す(2)
■タクマ<6013>の今後の見通し
(3) 基本方針
環境・エネルギー事業(国内)でのEPC受注の増加と運転管理やメンテナンスの連携による好循環の実現を基本方針としている。EPC事業の市場ポジションの維持・拡大と、ストックを最大限活用した収益モデルの確立が重要となる。また、民生熱エネルギー事業や設備・システム事業において着実に収益を拡大し、国際事業では将来を見据えた実績づくりを推進する。
a) 経営基盤の強化
人材の確保と育成、ナレッジマネジメントを経営基盤の強化における主要な柱としている。多様な人材の確保と育成基盤の強化によってストック型ビジネスやEPC事業のリソースを拡充するため、具体的な施策及びKPIとして、事業戦略に適した人材の採用、女性総合職・基幹職の増員(35名以上)、育児支援制度の利用促進(利用率25%以上)、従業員エンゲージメントの向上(50%以上)を設定している。
また、「攻めのDX」と「守りのDX」の推進によりナレッジマネジメントを強化する。「攻めのDX」ではプラントの自動運転(AI開発)などで既に成果を上げており、さらなる競争力強化に向け新たな価値創造の取り組みを継続する。一方、「守りのDX」では限られたリソースのなかで生産性向上や技術承継を図るため、グループ全体でのデジタル化を推進する。技術資料やプラントデータ、トラブル情報といったデータ資産の体系化・見える化によってナレッジマネジメントを推進し、事業分野の各プロセスにおけるシステム間連携によるデータ資産の活用と業務効率化を進める。
b) セグメント別の進捗状況
環境・エネルギー事業(国内)では、一般廃棄物処理プラント(EPC)において、ごみ処理施設の老朽化に伴う更新・長寿命化の需要が続いている。DBO方式による発注が増加傾向にあり、多様化するニーズに応える総合的な提案により、継続的な受注を目指している。EPC・O&Mを着実に受注しており、一般廃棄物処理プラントの受注残高における長期O&M比率は約60%に達している。技術力を強みに非価格面での差別化を図り、リソース拡充と業務効率化により案件対応力を強化し、年間3件以上の更新案件の継続的な受注を目指す。
一般廃棄物処理プラント(アフターサービス)では、O&M提案や定期整備工事の提案強化を通じて、ストック型ビジネスの持続的成長を目指している。2024年3月期末時点で27施設の長期O&Mを受注し、2025年3月期末までに20施設が運営中となる予定である。O&M非受託施設でも提案型営業を強化し、受注の増加を図る。また、データ活用によるコスト低減の取り組みを通じて、ストック型ビジネスの成長を目指す。エネルギープラント分野では、工場向けの電力・熱供給プラントやバイオマス発電所を通じて、顧客の事業安定化と収益最大化に貢献している。中小型バイオマス発電の需要が継続しており、既存プラントの更新や発電所新設案件の受注を狙う。アフターサービスでは、省エネ・機能改善・延命化などのソリューション提案により、ストック型ビジネスの成長を目指している。水処理プラントでは、温室効果ガス削減効果や省エネ性能の高い製品を提供し、下水処理施設のエネルギー有効活用と脱炭素化に貢献している。主力製品である「階段炉下水汚泥焼却発電システム」などを軸に継続的な受注獲得を目指し、DBO事業案件の受注に向けた体制整備も進めている。新電力事業では、再エネ・非化石電力の調達と供給を通じて、顧客の電力料金の安定化と温室効果ガス排出量の削減に貢献している。電力価格の高騰を受け、地産地消のニーズも拡大しており、電源周辺地域や環境意識の高い顧客への電力供給を推進している。需給管理サービスや環境価値取引など関連サービスのラインナップ拡充にも取り組む。
環境・エネルギー事業(海外)において、東南アジアでは人口増加と経済成長、脱炭素化の進展によりバイオマス発電や廃棄物発電プラントの需要が増加している。特にタイでは再エネ推進政策により廃棄物発電需要が拡大し、台湾では老朽化した廃棄物発電プラントの更新ニーズが高まっている。台湾やベトナムでも産業廃棄物処理プラントの需要が増加しているため、現地法人との連携など性能・品質面での差別化を図り、継続的な受注と体制整備に注力する。安定稼働と高効率化技術など性能・品質面での差別化を図り、年間1~2件以上の新設受注を継続する。民生熱エネルギー事業では、国内市場は成熟しているものの、更新需要が続くと見込まれる。新たな熱源事業や東南アジアでの事業拡大により、受注規模の拡大を目指す。設備・システム事業においては、建築設備事業での都市圏再開発や医療・福祉施設の新設・更新需要が堅調に推移しており、人材の確保と育成により営業力と施工能力を強化する。半導体産業用設備事業では、デジタル化の進展に伴い市場の中長期的な拡大が見込まれ、高度にクリーンな環境を提供する商品で規模の維持と拡大を目指す。
C) 資本政策
同社は株主資本コストを6%程度と認識し、ROEが8%以上で推移するなかで一定のエクイティスプレッドを確保しているが、自己資本の増加と財務レバレッジの低下に伴い、エクイティスプレッドは低下傾向にあり、成長戦略の実現性が十分に理解されていないことや、キャッシュアロケーションの開示不足もその要因と認識している。これに対し、中期経営計画の着実な実行を通じて「Vision2030」達成を目指し、特にストック型ビジネスの源泉となるEPC事業での市場ポジションを維持・拡大するという成長戦略と資本効率を両立させるべく、最適なキャッシュアロケーションを実施し、株主還元の定量的な方針を明示する。さらに、投資家との対話や開示情報の充実を通じたIR活動の強化も重要視している。
資本政策においては、資本コストや株価に関する現状分析を踏まえ、ROE目標値を2027年3月期に9%以上、2031年3月期に12%以上と定めている。また、運転資本や事業上のリスクバッファとして月商2~3ヶ月分(300~400億円程度)を確保し、それ以上の現預金については成長投資と株主還元に適切に振り分けながらも、自己資本比率は50%台を維持し、強固な財務基盤を維持する。これらの取り組みを通じて、市場の期待に応える事業成長と株主還元を両立させ、企業価値の向上を図る。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中山博詞)
《SI》
提供:フィスコ