貸借
証券取引所が指定する制度信用銘柄のうち、買建(信用買い)と売建(信用売り)の両方ができる銘柄
日経平均株価の構成銘柄。同指数に連動するETFなどファンドの売買から影響を受ける側面がある
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7974 任天堂

東証P
9,139円
前日比
+36
+0.40%
PTS
9,110円
23:09 12/12
業績
単位
100株
PER PBR 利回り 信用倍率
35.5 4.19 1.41 2.95
時価総額 118,687億円
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安田秀樹【リニア問題と聖地巡礼、そして任天堂決算速報】<名物アナリストの“無忖度”銘柄診断>

●静岡県民の立場でリニア中央新幹線を見る

 静岡県の川勝平太知事が辞職願を提出し、5月26日の投開票に向け、知事選がスタートしている。政治的な動きはここでは取り上げないが、投資家目線では東海旅客鉄道(JR東海) <9022>に対する影響は気になるところであろう。

 そもそも今回の問題は、国家プロジェクトともいえるリニア新幹線が、一知事の判断で進捗を阻止できるという制度上の欠陥が露呈したことである。それでも川勝知事は、約15年にもわたる大きな実績を県政に残してきたわけで、この支持の背景も理解しておく必要はあろう。

 今回、静岡県側が問題視しているのは大井川の水問題である。大井川は、江戸期には軍事戦略上の観点から橋が掛けられておらず、水量も豊富なことから長雨時には「越すに越されぬ大井川」と詠まれた難所であった。しかし明治以降、治水や発電に大量の水が利用され大井川の水量が大きく減った。その結果、静岡県民の生活に大きな影響が出たのである。

 JR東海は、リニアは移動需要の大半を占める品川と名古屋・大阪をでき得る限り直線で結び、速達したいと考えている。しかし、この計画ではリニアが大井川の水源地域を通ることになり、トンネルの掘削によって大井川の水量に影響が及ぶ可能性が生じた(過去には上越新幹線の大清水トンネルで湧水が発生し、源泉枯渇や湯量減少などの影響が出たことがある)。これでは静岡県にはリニアからのメリットは何もないのである。

 だがもう一つ、地政学的とも言える観点からもリニアについて指摘したい。それは、静岡県は首都圏と近畿・中部圏という三大都市圏の間に位置するために、通過されるだけになってしまっているということだ。静岡県は観光でも魅力的なところがあるのだが、それ以上に東京と近畿・中部圏との交通需要が大きすぎ、静岡県は素通りするだけの場所になってしまっている。

 この観点で考えると、静岡県にとっては、リニアは損失リスクしかなく、なんのメリットもないということが、今回の騒動の根底にあることが分かろう。人間は利益よりも損失に敏感なことは行動経済学でもよく知られた事実である。デメリットの2倍以上メリットがないと、良かったと思わない。通過されるだけで、何の恩恵もないものに簡単には賛成できないのである。

 一方で静岡県以外は、これまでより早く目的地に着けるのでメリットは大きく、損失としては東海道新幹線より運賃が少し高くなるぐらいしかないので、早期に完成してほしいと考えている。この齟齬が、問題が長期化した一因だと考えている。

 投資家目線では、知事の辞職は即、リニア着工と考えたいところだが、このような背景を考えるとすぐ解決とはいかないように思う。しかし今後、インバウンド需要で東海道新幹線のキャパシティが再びひっ迫する可能性が出てくるので、JR東海としてはリニアを早く完成させる必要がある。全員が納得できる落としどころを見出せるかが同社に対する株式投資のポイントとなろう。

●ROE低下に対する解決策を考える
 
 東海道新幹線の利用者は右肩上がりだったが、コロナ禍で稼働率が大幅に低下。コロナ禍後は、ビジネス客よりもインバウンドや観光目的の定期外旅客が大幅に増え、JR東海から見れば定期券利用者のような安定顧客ではなく、変動しやすい顧客が増えた。

 JR東海は旅客の回復で現在、収益は改善傾向にあるが、リニア建設に伴う巨額投資の影響もあり、ROE(自己資本利益率)は15年ほど前に比べて半減している。東証は資本コストを意識した経営を要請しているが、鉄道は巨大な資産から収益を産み出すビジネスモデルなので、リニア開業までは既存の新幹線や在来鉄道だけで大幅なROE改善は難しかろう。

●アセットライトなコンテンツビジネスでの成功事例

 JR東海というと、どうしても新幹線・リニアに目が行ってしまうが、今「推し旅」という施策に力を入れている。「推し旅」自体はVチューバーやアニメ、ゲーム、地元の味覚などを紹介する企画だが、コンテンツを展開する各社の話を聞いた限りでは、「推し旅」コンテンツには、「何故、JR東海からコラボ企画の依頼が来たのか?」という意図が伝わりづらく、今一つ一貫性がないように見えるとの指摘もある。

 そこで本稿では、「推し旅」に関連した成功事例を紹介したい。最近で、一番有名なのは志摩スペイン村の事例だろう。2023年2月に近鉄グループホールディングス <9041>傘下の志摩スペイン村が、Vチューバー・グループの運営会社、エニーカラー <5032>の周央サンゴさんとのコラボ企画を実施した。きっかけは周央サンゴさんが、志摩スペイン村がガラガラだという紹介動画をYouTubeにアップしたためである。ガラガラで人気がないというのはネガティブな情報で、そうした情報を流した人とコラボをすれば、さらにお客が寄り付かなくなると思うかもしれない。

 しかし、実際には先ほども述べたように、人間は本質的に損失に敏感なので、ネガティブなニュースを好むのである。ほとんどのマーケティング、広報、経営陣はネガティブなニュースから発生する効用を理解していないため見逃していたのだが、「志摩スペイン村はガラガラです」というVチューバーのネガティブ動画がかえってX(旧Twitter)で人気となり、結果、近鉄と周央サンゴさんのコラボが実現したのである。日本経済新聞の報道によると、期間中の動員は前年の倍、20万人を超えたという。たった一本の動画が、志摩スペイン村の価値を覚醒させたのである。

 近鉄から見ると、このコラボはメリットが大きい。志摩スペイン村の最寄り駅である鵜方駅は大阪、名古屋の都市圏から遠く、時間もかかる地域で長距離乗客の増加は鉄道の収益に直結する。コラボに合わせて行った物販も効果的だ。キャラクターの絵は付加価値が非常に高く、利益率も高い。エニーカラーの営業利益率が40%近くと高い数字になっているのも、版権を持つ可愛い絵のキャラクターグッズが買われているためなのである。

 さらに2024年は、エニーカラーの人気Vチューバー、壱百満天原サロメさんも加え、期間も延長してイベントを実施している。この2年連続で行われたイベントは、近鉄が在庫リスクを取る形でグッズ販売を行っているが、ヒアリングしたところによると、非常に販売が好調だという。さらにイベントの動員数が大きく増えることでガラガラの遊園地が活性化したこと、しかもそれがたった一人のVチューバーによって成し遂げられたという事実は話題を呼び、地上波でも繰り返し取り上げられるなど、より一層、人気が拡散する状況になっている。

 志摩スペイン村にとって、知名度向上の成果はすでに出ている。今度は任天堂 <7974>の関連会社である株式会社ポケモンとのコラボが決まったのだ。「Switch」で発売された『ポケットモンスター スカーレット/バイオレット』はスペインがモチーフになっているので、もっと早くコラボしても良かったと思うが、発売時点では志摩スペイン村の知名度が低かったことが影響したのだろう。

 これらのイベントから分かることは、既存のアセットを活用するため資本投下が少ないこと、版権を持つ絵を使ったグッズ販売は利益率が高いこと、なにより若い世代を動員することで地方の活性化が図れるというメリットである。陸運セクターは資産規模が大きく、不動産評価的な株価形成が行われているが、資産の回転率が決して高くないため、これまでは投資妙味が薄かった。ぜひ、いち早く「推し旅」を実施したJR東海には志摩スペイン村の事例を参考にしてもらいたいものである。また、任天堂の『スプラトゥーン』とコラボした九州旅客鉄道 (JR九州)<9142>が、コンテンツやキャラクターの価値に気付けば、これまでとは別の軸での評価も高まろう。

●Switch後継機が発表
 
 最後に任天堂を見ていきたいが、その前にスクウェア・エニックス・ホールディングス <9684>が発表したコンテンツ廃棄損についても触れておきたい。ゲームタイトルの開発方針の見直しに伴い、開発中だったパイプラインを精査した結果、コンテンツ廃棄損として221億円という巨額の特別損失を発表したのだが、株価は翌日以降、堅調に推移した。これは、コンテンツ制作勘定に計上されている資産に本当に資産価値があるのか、機関投資家が懸念しており、早く処理してほしいと潜在的に期待していたことが大きい。

 そういう懸念があったところに会社側が損失計上を発表したため、一時的に株価が上昇したと考えている。同社はこれまで、褒められることで伸びてきた会社なので、おそらくこのことは驚きをもって迎えられているはずである。起こったことの良し悪しに対する受け止めは、経営陣と投資家、そして一般層では違うのである。同社の桐生隆司社長の経営手腕は投資家に評価されているので、しばらく堅調に推移すると考えている。

 そして任天堂である。決算動向を説明するより、次世代機に対する関心が強いであろう。会社側から発表されたことは、「Switch」の後継機種を今期(2025年3月まで)に発表する予定である、というX(旧Twitter)での投稿のみである。「Switch」の後継機種という表現だったため、「Switch」と変わらないものが出てくると捉えられているが、おそらく古川社長が後継機としたのは、据え置き、携帯の遊び方が変わらない、ということを示唆していると考えている。

 メディアやネットでは、価格や互換性、そして独占ソフトが大事とされており、投資家も同じ見方をしているので、価格が高く、互換性がなく、ソフトも少ないとなると株価が下落する可能性がある。ところが「Switch」は発表された時は、高くて、互換性もなくて、ソフトが少ないと言われていたのである。今や「Switch」は、安くてソフトも豊富な素晴らしいゲーム機という扱いだが、販売の成否とは因果性がない。このような見方から株価が下落したときは、むしろ投資タイミングを考える必要があろう。

【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋証券アナリスト 

1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。24年5月に東洋証券に移籍し、同社アナリストとなる。忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。

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