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安田秀樹【2024年ゲーム業界投資の展望─任天堂の投資妙味は?】 <名物アナリストの“無忖度”銘柄診断>

●生成AIを活用した超解像技術に期待、任天堂の次世代機について

 2024年はゲーム業界銘柄への投資は、"選別"が主眼となるだろう。ブルームバーグや日本経済新聞が、任天堂<7974>の次世代機の発売が2025年になると報道しているが、現時点では約1年後の25年3月の発売も確定できていないようである。

 世間一般では、ゲーム機の発売は年末商戦期が良いと思われているが、実は3月発売は縁起が良い面がある。1億5500万台以上の販売台数となったソニーグループ <6758> の「プレイステーション(以下PS)2」や、任天堂の「ゲームボーイアドバンス」「Switch」はどれも3月に発売されていて、いずれも成功しているからだ。

 足もとの任天堂の株価は、インデックスの調整もあり、下落傾向にある。背景には次世代ゲーム機の予定が立っていないことによる、来期業績に対する懸念もあろう。

 私は、多くのゲーム商品は、消費者の視覚情報をもとに購買されていると考えている。したがって、同社の次世代ゲーム機のデザインや遊び方が発表されれば、ある程度の方向性は読める。まだ、発売日の発表はもう少し先になると思うが、次世代機がデザインはもちろん、遊び方が一目で分かるような良さが出ていれば、累計1億3000万台以上を販売した「Switch」を上回ることも可能と考えている。
 
 実はゲーム製品では、性能は販売にはほとんど影響が無い。とは言え、任天堂の次世代機には、エヌビディア<NVDA>製のSoC(システム・オン・チップ)が搭載されている可能性が高い。「Switch」にもエヌビディアのカスタマイズされたSoC、「Tegra」プロセッサが搭載されていたが、次世代機でも同様になり、DLSS(ディープ・ラーニング・スーパー・サンプリング)という人工知能(AI)を活用した超解像技術が使われると考えている。この技術を用いれば「PS5」に近い絵が出せると見ていて、現在、資本市場でホットワードとなっている生成AIが、より現実的な姿となって表現されるのではないだろうか。

●「大作ゲームが売れない時代」の投資戦略とは
 
 一方、ゲーム・セクターに注目する投資家にとっては、当初、2024年の発売が想定されていた任天堂の次世代機が遅れることで、今年前半の投資は、難しい状況にあると言っていいだろう。17年3月発売の「Switch」の出荷台数は初年度で274万台だった。次世代機の初回出荷台数は、これよりも大幅に増えると見ているが、仮に25年3月発売だとしても、AAA(500万本以上販売される大型タイトル)クラスの開発費、数百億円を回収するのは難しい。このため、今期のゲーム業界を投資家の目線で見れば、任天堂なら「Switch」、ソニーなら「PS5」という現行機種でいかに収益を上げられるか、が大事になるだろう。
 
 また、コーエーテクモホールディングス <3635>の500万本級タイトル「ライズオブローニン」が3月に発売されたが、4月に入っても販売本数に対する発表がなく、大きく伸びている状況にはないようだ。4月15日に同社は通期の売上高と営業利益を大幅下方修正したが、「ライズオブローニン」や、昨年9月発売の「Fate」が計画を大きく下回ったことが大きかったと思われる。この下方修正は、大作ゲームがヒットしにくくなっている現在のゲーム業界の状況を表していると言えよう。

 もちろん、全てのゲームが成功しないわけではない。同じく3月に発売されたカプコン <9697>の「ドラゴンズドグマ2」は250万本の販売を達成しており、より低廉な開発費だと推測されるセガサミーホールディングス<6460>の「ペルソナ3」や「龍が如く8」がかなり速いペースでミリオン・セラーとなったことを考えると、「大作が容易に売れなくなっている」ことは今年のゲーム業界への投資戦略を考えるうえで重要であろう。

●24年はゲームの世代交代期‥選別が迫られるゲーム株投資
 
 ところで、ゲームソフトが売れる前提として大きいのは、プラットフォームの普及数である。2023年までヒットしていたゲームが多かったのは「PS4」のサポートが続いていたことが大きい。意外に思われるかもしれないが、電子部品メーカーへのヒアリングによると、年間のパソコン生産に占めるレイトレーシングサポートGPU搭載のゲーミング用パソコンの割合は数%に過ぎないそうだ。

 レイトトレーシングとは、実写に近いリアルな映像を生み出すために不可欠な光線追跡技術のことで、「PS4」はレイトレーシング非対応世代だが、後継機の「PS5」はレイトトレーシング対応パソコンを基準としたハードを持つことを"売り"にしている。レイトレ対応ゲーム機にするということは、性能は画期的に向上するだろうが、ベースになる台数は大きく減ってしまうことを意味している。

 これまで、ゲーム・セクターへの投資家の視点では、漫然とAAAが出れば過去と同じだけ売れると思われていたのだが、24年は本当の意味での世代交代期なのである。任天堂の次世代機の発売が来年以降というタイミングで、AAAクラスのゲームソフトを出すこと自体がリスクとなっているのだ。

 そのような中でも、ヒット作自体は出ていて、先ほどの2タイトルに加えて、サイバーエージェント<4751>の子会社、サイゲームスが手掛ける「グランブルファンタジー リリンク」もミリオン・セラーとなったほか、50万本クラスでは、セガサミーホールディングス <6460>の「ユニオンオーバーロード」も好調。まだ2週間の国内パッケージ・データが出てないが、任天堂の「プリンセスピーチ ショータイム」も、初動は堅調に推移している。

 これらに共通しているのは"フォトリアル(実写のようなCG表現)"ではないということである。よく日本のゲーム開発は、海外のフォトリアル・ゲームに追随できず、落ちぶれたというような誤った報道がされている。だが、24年に起こっていることは真逆で、ポケットペア社(未上場、東京都品川区)の「パルワールド」のようなアニメ調のポケモン風キャラクターが大ヒットを出しているのである。

 世界で日本のアニメが普及してきているので、今年は国内でアニメ調中堅タイトルを出せるような銘柄が、投資先として有望になるだろう。マーベラス <7844>やバンダイナムコホールディングス <7832>に注目したい。

 また、フォトリアルも全くダメと言うことではない。いろいろな面で批判がでたものの、カプコンの「ドラゴンズドグマ2」は、批判によって衆目を集めた結果、むしろユーザーから厳選して遊ばれるタイトルになっている。ゲーム業界への投資では、ゲームソフトに対する批判で株価が下落したタイミングは、投資のチャンスという考え方も持ちたいものである。

【著者】
安田秀樹(やすだ・ひでき)
東洋証券アナリスト 

1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、同社アナリストとなる。忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。



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