貸借
証券取引所が指定する制度信用銘柄のうち、買建(信用買い)と売建(信用売り)の両方ができる銘柄
日経平均株価の構成銘柄。同指数に連動するETFなどファンドの売買から影響を受ける側面がある
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9984 ソフトバンクグループ

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大山季之【米国株マーケット・ビュー】―新たな投資サイクルのはじまり、ビック・テックは「ファンタスティック・フォー」の時代へ <AIの衝撃①>

驚愕のエヌビディア決算以降、完全に上昇気流に乗った米国株市場。年初まで囁かれていたいくつかのネガティブ材料は隅に追いやられ、主要指数は高値更新の青空圏を飛翔、マーケットはいまや"伝家の宝刀"と化した「AI」に関する次の好材料を、手ぐすねを引いて待つ状況となっている。何がこの変化を生んだのか。今後、どのような投資戦略をとるべきなのか。米国マーケットアナリストが2回にわたって解説する。まずは、米国株式マーケットが一連の決算でどのように変わっていったのかを、ビック・テック各社の決算内容と照らしながら伝える。

◆「ティッピング・ポイント」を超えたエヌビディアの好決算

 2月21日に発表されたエヌビディア<NVDA>の2024年1月期決算を受けて、世界の主要株式市場の指数が大幅に上昇している。改めて2月までの一連の米国企業の決算をざっと振り返ってみると、昨年末からハイテク企業各社で「生成AI」関連のポジティブな決算が発表されており、2月7日のアーム・ホールディングス<ARM>の決算で、「本当に凄いことになっているんだ」と皆が再認識した。そして、最後に "総本尊"のお出まし、となったわけだが、「やっぱり想像以上に凄かった」と。
 
 アームの値動きを見て感じるのは、今回の決算発表までは、孫正義さん(ソフトバンクグループ <9984> 会長兼社長)があれだけ生成AIの可能性とアーム事業の重要性を訴え続けていながらも、マーケットはそれを素直に受け取っていなかったのではないか、ということだ。決算結果とガイダンス(業績予測)が出て初めて、AI(人工知能)が同社の業績にこれほど寄与しているということを、皆が理解したのだ。
 
 エヌビディア決算について当初、2024年1月期第4四半期の売上高は会社予測が200億ドルでコンセンサスが204億ドル、もし220億ドル以上を上げたら、マーケットにも驚きが広がるだろう、などと言われていた。結果、221億ドルの売上高で、続く24年2月-5月期も240億ドルの売上高見通しを示すなど、マーケットの期待以上のガイダンスが発表された。
 
 もちろん、昨年以来、生成AIが次のイノベーションの中心になるということは、誰もが考えていた。だが、昨年までは言葉だけが先行していて、具体的にどれだけ利益を生むのかは織り込めていなかった。それが、今回の一連の決算で一気に証明されたわけだ。エヌビディアのCEO、ジェンスン・フアンが言う通り、完全に「ティッピング・ポイント(急激に事象が変化する転換点)」を超えたと言えるのではないか。
 
◆「あの企業も"AI銘柄"だった」‥決算で見えてきた各社のAI戦略
 
 さらに今回の決算で特徴的だったのは、想定より広い範囲のハイテク企業に、生成AIの恩恵が生じていたことが分かったことだ。例えばIBM<IBM>は、1月24日に発表された23年12月期決算以前は、特にAI銘柄という見方はされていなかった。ところが想定を上回る好決算を出し、CEOのアービンド・クリシュナが「第3四半期から第4四半期に生成AI事業が2倍に増加した」とコメントすると、株価は急騰した。「あのIBMも生成AI銘柄だったのか」と評価が一変したのだ。
 
 2月29日に決算発表したデル・テクノロジーズ<DELL>も同様で、生成AI向けサーバーの受注急増が業績を押し上げたと伝わると、一気に株価は急騰し、あっという間に上場来高値を更新した。一方、同日に発表されたヒューレット・パッカード・エンタープライズ<HPE>の決算は振るわなかった。だが、アントニオ・ネリCEOが、不振の一因はGPUが不足しているためとコメントすると、翌日にエヌビディアの株価が跳ね上がった。「やはりAI向け半導体需要は旺盛だ」という事実が、同社の不振によって反対に証明されたわけだ。
 
 さらにAIサーバー関連では、1月29日に24年6月期第2四半期の決算を発表し、ガイダンスを上方修正したスーパー・マイクロ・コンピューター<SMCI>が出色だろう。同社は台湾出身のチャールズ・リャンが創業したサーバー・ソリューション企業で、年初来、株価が約4.01倍(3月6日終値ベース)まで上昇している。
 
 いま、エヌビディアのAI半導体 の"唯一の弱点"として挙げられているのは、大量のデータを処理するために、通常の半導体より熱を持ってしまうことだ。その点、同社のサーバーは冷却装置に定評があり、競合のデル・テクノロジーズやHPエンタープライズ等の大手企業が見向きもしなかった頃から、いち早く、エヌビディアのチップを搭載したサーバーを世界中に販売してきた。ドライと言われるアメリカ企業でも、こうした関係性は大きな意味を持ち、ジェンスン・フアンも同社には恩義を感じていると言われる。
 
 結果として、GPU不足に喘ぐ大手企業を尻目に、同社では優先的にエヌビディア製のチップを調達することができ、生成AIブームを担う"陰の主役"と目されるまで評価が高まっている。リスクを取ってAIに賭けた企業とリスクを取らなかった企業で、明暗が分かれているのだ。

◆EVが後退し、ビック・テックは「ファンタスティック・フォー」の時代へ

 いずれにせよ、今回の決算結果によって、アメリカの株式マーケットでは、「生成AI」を中心とした全く新しい投資サイクルの時代が幕を開けた、と言っていいのではないか。一方、対照的なのは、「EV(電気自動車)」に対するマーケットの関心だ。

 先日、アップル<AAPL>がEVから撤退すると報じられ話題を呼んだが、意外にも、株式市場ではネガティブな反応は示されなかった。EV撤退によってAIへの投資を本格化するとの期待から、むしろ株価は好感したぐらいだ。同社CEOのティム・クックは決算発表時に、「年内に具体的な生成AI戦略について発表する」とコメントしていたが、「ようやくAIに向けて本腰を入れ始めた」ということだろう。それでも私の個人的な意見では、よほど世界を驚かせるようなイノベーションが発表されるならともかく、アップルの生成AIへの対応は、「遅すぎる」と感じるのだが。

 ところで、前回の記事で、マグニフィセント・セブンの構成企業について、市場関係者の中では様々な意見が出ていることを伝えたが、ここにきて目立ってきたのは、マーベル・コミックの主人公たちになぞらえて「ファンタスティック・フォー」にすべきではないかという意見だ。エヌビディア、マイクロソフト<MSFT>、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、メタ・プラットフォームズ<META>の4社にすべきだというのだ。
 
 アマゾンは今年に入ってから生成AIではいまのところ、目立った発表はないが、何と言ってもAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)という世界最大のネットワーク・インフラ網を持つ企業だ。データセンターが不可欠な生成AIのサービスでも優位なポジションにいることは間違いない。
 
 メタは昨年、GAFAMの中では一人負けのような状態だったが、大リストラを経て、急速に業績を立て直している。決算発表によると、広告事業が好調で、その要因が生成AIの活用にあるという。エヌビディア製のAI半導体の大量購入も伝えられ、昨年まで取り組んでいたメタバースから生成AIへと事業を一気にシフトしたことで、俄然、市場の評価が高まっているのだ。
 
 一方、EVに事業が偏っているテスラ<TSLA>は、アップル同様、しばらく厳しいのではないかというのが大方の見方だ。先日もメルセデスが2030年に全車種をEVにするという目標を撤回した。何よりも米中分断によって原材料のレアメタルの調達が困難になってきている。中国EVメーカーの世界進出も懸念事項だ。政府の補助金なしで利益を生むのは簡単ではないと見られるようになってきたことに加え、さらにEVの先にある自動運転についても、当初想定されていた以上に「安全」にコストがかかることが分かってきた。
 
 そうしたマーケットの意識の変化を表しているのが、トヨタ自動車 <7203> の再評価ではないか。皆さんご存じのように、トヨタは一時期、EVブームに乗り遅れていると批判され続けてきた。だが豊田章男会長は、一貫して「EVへの移行には時間がかかる」と語り、PHV(プラグイン・ハイブリッド車)の開発を重視してきた。それが間違いではなかったと、ここにきて、マーケットが理解するようになってきたのだ。


▼大山季之【米国株マーケット・ビュー】<AIの衝撃②>はこちら↓(本日11時30分配信)
「生成AI相場」で押さえておきたい3つのリスクと1つの投資戦略


【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト 

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。

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