【緊急特集】① エヌビディア吠える! 爆騰・日経平均34年ぶり最高値の裏側 <株探トップ特集>
―驚愕の好決算で見えてきた生成AIというモンスター、半導体関連大相場への扉開く―
2024年2月22日、この瞬間がこんなに早く訪れるとは、少なくとも年初の段階では誰も予想だにしなかったはずである。この日、日経平均株価は800円高超の大立ち回りを演じ、終値で未踏の3万9000円台に突入した。思い起こせば1989年、12月29日すなわちこの年の大納会に日経平均は終値で3万8915円87銭の史上最高値をつけた。それがバブルの頂(いただき)であったことは後になって分かることだが、そこから34年2ヵ月の時を経て、一度は視界から消えたその高峰に再びたどり着いた。ここ最近の上昇ピッチの速さにバブル再来を警戒する向きもいるが、個別企業の収益力や純資産から換算した投資指標は、株価水準としての妥当性を強く示唆しており、砂上楼閣と揶揄する声を封殺している。
●総蜂起する半導体製造装置関連
歴史的な株高の原動力は半導体関連 株で、主力級の銘柄が総蜂起して全体指数を押し上げている。そして、この半導体関連に無尽蔵のごとく投資資金を呼び込む魔法の杖となっているのが、近年成長が急加速している人工知能(AI)の存在である。この日は、日本時間朝方に発表された米画像処理半導体(GPU)大手エヌビディア<NVDA>の決算が、驚くべき内容であったことが、日経平均を最高値圏へといざなう背景となった。いうまでもなく同社は生成AI 向けで爆発的需要があるGPUを独占供給するファブレス半導体の雄で、AI・半導体関連のシンボルストックとして米株市場で強烈な輝きを放っている。
世界の耳目を驚かせたエヌビディアの23年11月~24年1月期決算は、売上高が前年同期比3.7倍の221億300万ドルと目を見張る伸びを示した。事前予想は204億ドルであったから、そこから17億ドルも上乗せされた水準だった。なお、24年1月期通期ベースでは609億2200万ドルでこれは前の期比2.3倍である。米インテル<INTC>や韓国のサムスン電子を抜き、名実ともに半導体関連の世界トップに躍り出たことになる。更に市場では2~4月期の売上高見通しに関心が高まっていたが、240億ドル予想でこれも市場コンセンサスの219億ドルを21億ドルも上回る驚異的な水準を見込んでいる。非の打ちどころがないとはこのことである。これを受け、同社株は時間外で一時11%高に買われる鮮烈な人気を博した。
●東京市場を揺さぶったエヌビディア効果
今回のエヌビディア決算では、事前の期待が強過ぎて発表後は失望売りとまではいかないまでも出尽くし売りに押される可能性が高いのではないか、という市場関係者の声も多かった。ところが、実際フタを開けてみると、その高いハードルをやすやすと跳び越え、なお、そのはるか前方を見据えているような底知れない成長への可能性を漂わせている。このエヌビディアの持つダイナミズムは海を渡り、きょうの東京市場を良い意味で大きく揺さぶる格好となった。
エヌビディアのGPU向けテスターで圧倒的納入実績を誇るアドバンテスト <6857> [東証P]は関連最右翼として当然のごとく商いを膨らませ大幅高に買われ、前日までの4営業日続落で下げた分の合計を帳消しにする形で7000円大台に復帰した。このほか、売買代金首位の座がお馴染みとなっているレーザーテック <6920> [東証P]は一時2000円超の上昇で4万1000円台へと歩を進めたほか、半導体製造装置 の国内トップメーカーで世界でも屈指の実力を有する東京エレクトロン <8035> [東証P]も終値で2000円あまりの上昇をキープし物色人気が鮮明となった。更に生成AI市場に経営戦略の照準を合わせる精密加工装置世界首位のディスコ <6146> [東証P]は4000円強の上げ足を披露、半導体ウエハー洗浄装置で世界でも群を抜く商品競争力を誇るSCREENホールディングス <7735> [東証P]も、上昇率にして10%を超える異彩高を演じた。東京市場では半導体製造装置セクターの代表格ともいえる顔ぶれが総花的に値を飛ばす繚乱の様相を呈し、日経平均の史上最高値更新という歴史的な1日を彩った。
●生成AIの成長に漂う危険な香り
米国では「アマゾンエフェクト」による小売セクター淘汰の流れが大きな話題となったのは記憶に新しい。だが、足もとで進む「エヌビディアエフェクト」は生成AIという人類にとって未知なるジャンルの急成長が礎となっており、今後のエヌビディアの業績成長に向けた伸びしろは、今以上に想定を超えている可能性もある。市場関係者に今回のエヌビディア決算を受けての感想・意見を求めると、成長性の高さを肯定する一方で、生成AIがもたらすネガティブシナリオに言及する声も聞かれた。
第一生命経済研究所・主任エコノミストの桂畑誠治氏は「(エヌビディアの)ファンCEOのコメントを見る限り極めて強気で、これは豊富な受注残と多方面からの引き合いの強さが背景にあることは確かだろう。問題は生成AIが悪用された場合、政治的に介入するよりない場面がいずれ訪れる。生成AI市場の急成長が続くことは疑いなく、先端半導体需要も強く喚起され続けるが、法的にルール作りが全く間に合っていない現状は(生成AI市場の成長を)そのまま放置することも考えにくい」という。
また、松井証券・シニアマーケットアナリストの窪田朋一郎氏もエヌビディアの決算内容は驚きに値する内容であったとしながら、生成AIの恩恵を圧倒的に享受する存在であるだけに、今後政治的な圧力を抜きにしても軋轢が予想されるという見方だ。いわく「マイクロソフト<MSFT>がエヌビディアに半導体を依存し過ぎる関係となることに危機感を持っており、内部で生成AI用半導体を調達できるような青写真を描いている。実際、(コンピューターに接続して通信機能を追加する)ネットワークカードを自社で開発するなど、その布石を既に打ち始めている」とする。マイクロソフトにとって、エヌビディアが時価総額で同社を脅かす存在になることを回避したいという思惑が働くのは当然で、そのためにもエヌビディアに主導権を握られるようなビジネス関係は望まないということのようだ。
いずれにしても今回の東京市場の歴史的一瞬、日経平均3万8915円という過去最高値を打ち抜く場面では「エヌビディア決算」がトリガーを引いたことは事実である。そして、早晩日経平均が4万円台を走るプロセスにおいて、生成AIというモンスターが株式市場の底流で常にうごめいていることが意識される時代となっていく。あえて警鐘を鳴らすとすれば、AIバブル崩壊ではなく、“AIリアル”に人類の秩序が崩壊させられるシナリオと株高が併走する構図、これを念頭に置く必要があるかもしれない。
株探ニュース