タキロンCI Research Memo(8):事業構造改革や生産能力増強などの施策を講じた
■業績見通し
5. 次期中計に向けた布石
2024年3月期下期は、2025年3月期に始まる次期中期経営計画に向けて布石も打つ。既に布石として、事業構造改革の推進、成長分野への生産能力増強、研究開発の抜本的見直し、事業本部の再編・強化、生産本部の機能強化、持続的成長に向けた人事制度の深化、といった面で施策を講じているところである。以下詳述している布石をテコに、タキロンシーアイ<4215>としても、次期中期経営計画で営業利益100億円の大台に再挑戦したいところだろう。
事業構造改革の推進では、まず事業構造改革会議を新設した。そこで、事業部ごとに営業利益達成のための施策及び中期的に営業利益を倍増させるための施策を設定し、進捗をモニタリングして計画達成に向けた課題などを議論する方針だが、既に建装事業の構造改革や高機能材事業における半導体需要回復を見据えたプレート増産などを決定している。また、事業拡大に資するM&A投資や事業構造改革を加速するための投資など、投資方針の設定を進めている。成長分野への生産能力増強では、半導体製造設備向けプレート生産のマザー工場である網干工場への積極投資を進めて生産能力の増強を図るほか、他工場にも専用ラインを設けるなど、今後予想される半導体分野の需要拡大に向けて積極投資を進め、適正な生産体制を構築する。そのうえで、競争力強化に向けてグループ生産拠点の全体最適化を進め、各工場で生産効率改善や合理化、将来の需要動向を見据えた能力増強投資を着実に進め、「攻め」の体制を構築する。
詳細は後述するが、研究開発を抜本的に見直すなかで、R&D戦略として、研究ポートフォリオの見直しや新研究所構想、組織改編による新事業推進体制の強化などが構想されている。また、新たな取り組みとしては、モビリティ分野への挑戦、ナノテク技術の導入の検討、環境配慮型製品の開発といった案件が具体的に進められている。事業本部の再編・強化では、ROICを指標としたポートフォリオマネジメントにより、各事業の資本収益性を可視化することで事業の選択と集中を行うとともに、現場レベルでの資本収益性の検証・改善につなげる。生産本部の機能強化では、揖保川事業所をモデル工場としてスマートファクトリー化を推進し、効果検証を経て他工場へ順次横展開する。また、本社及び一部の製造拠点において、持続可能な製品の国際的認証制度である「ISCC PLUS 認証」を取得している。持続的成長に向けた人材の強化では、人事制度を改定し、シンプルかつパフォーマンスに基づく等級・報酬制度の導入、経営戦略を実現するための要員計画の実行、適材適所の抜擢人事の実施、将来を担う人材の育成に向けた制度の構築と挑戦する風土の醸成、抜擢を含む若手人材育成の早期化などの推進を図る。
次期中期経営計画では注力テーマを絞る
6. 研究開発
研究開発の抜本的見直しをする際に行われる研究ポートフォリオの見直しでは、研究テーマを棚卸しし、次期中期経営計画での注力テーマを選択と集中により選定する。新研究所構想は、網干、滋賀、岡山に分散している研究機能を、2年後を目途に兵庫県三田市を候補とする新総合研究所に集約することを検討しており、集約によりシナジー効果を高めることで、新事業・新製品の創出を迅速化し、既存製品の高機能化や高付加価値化を進め、半導体など成長市場やモビリティなど新市場でのシェア確保及び持続的成長を支える事業の創出を図る。また、組織改編による新事業推進体制の強化では、新分野を開拓し、新製品や素材のプレマーケティングを行う組織の立ち上げを検討する。
新たな取り組みの具体的事例として挙げられたモビリティ分野への挑戦では、これまでもガラス代替樹脂の研究・開発に取り組んできたが、足元で、製造時に発生する熱収縮性による歪みを極限まで低減し、フロントウインドウとしての視認性を確保したポリカーボネートシートを開発することができた。この結果、大手自動車部品メーカーや素材メーカーと組んで製品化した「ポリカーボネート製低炭素型フロント樹脂ウインドウ」が、水素エンジンを初めて搭載したレクサスの顧客体験プログラム用ビークルに採用されることになった。自動車は、地球温暖化対策として軽量化が求められているが、ポリカーボネート樹脂のウインドウ化によりガラス比約50%(前出のビークルでは約5kg)の軽量化を実現することができた。このほか、ナノテク技術の導入の検討ではM&Aなどによって海外の新技術を導入する方針だが、既に具体的な検討案件も抱えているようだ。環境配慮型製品の開発は、リサイクル材を99%使用したポリカーボネートプレートやリサイクル可能なペットボトルラベル、リサイクルしやすいモノマテリアル包装用ポリエチレンジッパーなどの開発を進めている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
《SI》
提供:フィスコ