RIZAP-G Research Memo(6):コンビニジム「chocoZAP」が快進撃(3)
■chocoZAPの事業モデ
5. RIZAPグループ<2928>の急成長の要因
レッドオーシャンと言われていたトレーニングジム業界で、なぜchocoZAP事業が短期間で会員数トップに躍り出たのか。その要因は、1) コンビニ型店舗の高速大量出店、2) 膨大なデータ分析による科学的マーケティング、3) 顧客の声を反映するサービスの民主化、4) 「リアル」×「DX」の融合、5) DX部門の大幅内製化による開発速度の向上、の5点を挙げることができる。
1) コンビニ型店舗の高速大量出店
chocoZAPは無人店舗であり、通常のトレーニングジムに不可欠のトレーナーや接客の人材が常駐していない。この点は、人材の採用や育成状況が出店のスピードに影響せず、再現性の高い店舗が量産できるメリットとなる。月間約90店舗という驚異的な出店スピードが達成できた理由の1つと言える。
2) 膨大なデータ分析による科学的マーケティング
同社はボディメイクのRIZAPの鮮烈な印象を残すCMで有名だが、chocoZAPの展開に関しては、費用対効果を考慮したコストを抑えた科学的な広告宣伝手法を採用している。チラシ、バナー広告、LP(ランディングページ)、交通広告、TVCMなどを活用しているが、いずれもA/Bテスト(複数のデザインや内容のコンテンツを試し効果を検証する手法)を活用して費用対効果の高いやり方を絶えず模索してきた。チラシでは、店舗ごとの特徴にあわせ、ダイエット訴求、価格訴求、多様なサービス訴求などキャッチコピーを変えたものを約500種類作って効果を検証した。バナー広告についてもデザインを4,000種類以上、契約に向けて最後の一押しをする場であるLPを200種類以上ラインナップし検証を行った。消費者の認知から入会までの流れを、データを活用しながら最適な手法を見出せることが、消費者の心をつかむ原動力となっている。
3) 顧客の声を反映するサービスの民主化
chocoZAPは通常の“トレーニングジム”ではなく、“コンビニジム”であり“健康プラットフォーム”と位置付けている。これは、本格展開当初から、セルフエステやセルフ脱毛が全店で導入され人気を博していることや、セルフネイルやセルフホワイトニングなどの新規導入が加速していることからもトレーニング以外のサービスメニューの充実度がわかる。これらのサービスは、通常は相対的に高額のサービスであり、足が遠のいていた顧客も多い。chocoZAPでは、実証実験での顧客の声を反映し、月額料金を変えることなくこれらのサービスを提供する工夫を積み重ね、“サービスの民主化”を図っている。
4)「リアル」×「DX」の融合
chocoZAPの急成長の要因としてヘルステックの活用が不可欠である。chocoZAPアプリは、入退会、日々の入退館、混雑情報入手、ライフログ・顧客特性からAIが最適な運動を提案、おすすめ動画の配信、継続を支えるゲーム性(くじ引きなど)、顧客同士のコミュニティ機能などで不可欠な存在となっている。また、各店舗に平均10台設置された監視カメラ映像をAIが解析し「不審な行為」や「転倒」を検知した場合には、適切な対処を遅延なく行うことができる体制が整っており、無人店舗のセキュリティ確保に大きく貢献している。また、体組成計、ヘルスウォッチ、様々な新規アプリによるライフログの蓄積は顧客サービスにおいて重要な役割を果たしている。
5) DX部門の大幅内製化による開発速度の向上
同社は2022年6月にDX専門子会社であるRIZAPテクノロジーズ(株)を新設した。Web・UIUXデザイナー、デジタルマーケター、データアナリスト、エンジニアなどのDX人財を積極的に採用し、育成している。筋トレやトレーニングジムの業界にはない発想と専門性でさっそくchocoZAP事業の集客や満足度向上に貢献しているという。
このような要因により急成長をしてきたが、今後はスケール効果・ブランド効果がプラスに働き、顧客満足度やコストなど様々な面に好影響を与える。chocoZAP会員は全店舗を利用できるため、店舗数が多くなればスキマ時間を有効利用する際に利便性が上がる。またTVCMのコストやマシン等の設備の仕入れなどにおいても、店舗数が多くなれば効率的に投資ができる。ブランドに関しては、RIZAPのブランドを生かして事業を軌道に乗せ、早期に「ちょいトレ市場」においてデファクトスタンダードを確立したことで、参入障壁を確立したと言える。今後は、事業モデルを模倣するプレーヤーも現れると予想されるが、様々な観点から集客力や収益性の点でchocoZAPに追い付くことは至難の業だと弊社は考えている。
6. これまでの成果と店舗の損益モデル
同社では、chocoZAP事業の進捗を随時開示している。店舗数においては、2022年3月期末に16店舗(テスト店)、chocoZAPブランドを本格展開し始めた2022年7月に77店舗、2023年3月期末に479店舗と順調に店舗数を伸ばしてきた。2024年3月期上半期は月間約90店舗増のペースであり2023年11月には1,160店舗に達した。下半期はややペースダウンしたとして2024年3月期末には1,400店舗前後が視野に入る。会員数の伸びも加速している。2022年11月には10万人を突破し、2023年3月末に34万人、2023年5月に55万人、2023年8月15日には80万人をクリアし、エニタイムフィットネス(78万人、2023年6月末)、カーブス(77.2万人、2023年5月末)を抜いて会員数で日本一を達成した。2023年11月時点では101万人に達している。会員数の順調な成長は、入会数の伸びとともに退会数の抑制が順調に推移していることも寄与している。chocoZAPの退会率は、ブランドを開始した2022年7月を1.00とした時の指数で2023年9月に0.62まで低下しており、顧客満足度が高く、顧客がトレーニングを継続していることが窺い知れる。
同社では、1店舗を出店してからの平均的な収支を開示している。2022年9月に開示した平均モデルでは、出店から約3ヶ月で単月黒字化し、約18ヶ月で累積投資を回収するというものだった。一般的な店舗ビジネスでは累積投資の回収期間は3年から5年を目安にする場合が多く、それと比較すれば、非常に早期回収ができる優れた事業モデルであると言える。2023年5月に開示された平均モデルでは、出店直後の投資(広告、スターターキットなど)を強化することで、累積投資の回収期間が2022年9月の平均モデルよりも短くなり、投資回収後の収益性もさらに上がることがわかった。
chocoZAP事業全体の収益性を単純化して考えれば、出店後4ヶ月までの店舗は単月赤字であるが、それより長い店舗は単月黒字であると想定できる。月間80店舗の出店ペースを想定すれば、絶えず320店舗(80店×4ヶ月分)は赤字、残りは黒字となり、出店歴の長い店舗が増えるほど全体の収益性が高くなる。弊社予想では2024年3月期末には店舗数は1,400店に達し、仮にその時点で320店(80店×4ヶ月分)が単月赤字であっても、残りの1,080店の黒字総額が上回っていれば、単月収支は全体で黒字化する。弊社試算では、2023年7月~8月時点では黒字店舗数が赤字店舗数を上回る状況となっており、現状(2023年12月時点)ではchocoZAP事業全体の期間損益が黒字化する転換点を迎えたと考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
《SO》
提供:フィスコ