富士ソフト Research Memo(3):顧客の価値向上に資する多彩なICTサービス・プロダクトを提供
■事業概要
富士ソフト<9749>の報告セグメントは、SI事業、ファシリティ事業、その他の3つから成る。主力のSI事業はシステム構築とプロダクト・サービスに大別され、さらにシステム構築は組込系/制御系ソフトウェアと業務系ソフトウェア、プロダクト・サービスは狭義のプロダクト・サービスとアウトソーシングに細分化される。また、ファシリティ事業はオフィスビルの賃貸、その他はBPOサービスやコールセンター等を行っている。
2023年12月期第2四半期の各事業の構成比は、 SI 事業のシステム構築区分に属する組込系/制御系ソフトウェアは25.7%、業務系ソフトウェアは32.5%、狭義のプロダクト・サービスは31.5%、アウトソーシングは4.7%、ファシリティ事業は1.0%、その他は4.5%である。組込系/制御系ソフトウェアが同社の屋台骨であるが、業務系ソフトウェアが最も売り上げ規模が大きい。狭義のプロダクト・サービスは業務系ソフトウェアに次ぐ売上高規模となっている。2019年12月期からの構成比の推移については、2019年12月期から2023年上期まで、業務系ソフトウェアが28.8%(2019年12月期)から伸長した一方、組込系/制御系ソフトウェアが28.0%(2019年12月期)から減少傾向を辿っている。それ以外には大きな変化はない。
1. SI事業
(1) システム構築
1) 組込系/制御系ソフトウェア
同社の主力はSI システムインテグレーション(異なるコンピュータやソフトウェアなどの部品を組み合わせて、1つの大きなシステムを作る)事業である。イメージとしては、いろいろなパズルのピースを組み合わせて、大きな絵を完成させることと似ている。各パズルのピースはコンピュータやソフトウェアの部品で、それらを組み合わせて新しいシステムを作るのがシステムインテグレーションである。
この事業の核を成すのが、組込系/制御系ソフトウェアである。同事業は最先端の組込製品・開発力があり、ロボット・自動車・医療機器・産業機器などの幅広い分野での開発経験を保有している。基板・ボード設計、FPGA・LSI設計といったハードウェア開発から、OS・デバイスドライバー・ミドルウェア・アプリケーションといったソフトウェア開発まで様々な組込システムに対応したサービスを提供している。また自動車制御 ADAS(先進運転支援)・自動運転・EV・車外との情報通信などの先進技術分野での開発経験も豊富だ。エンジンなどのパワートレイン・シャシー・ボディ・IVIなど従来分野に加え、車載ソフトウェアの幅広い制御技術のほか、AUTOSARなどのプラットフォーム・モデルベース開発・シミュレーション環境・Automotive SPICE・機能安全など数々の開発技術の提供もしている。社会インフラを対象とした研究開発も積極的で、携帯電話用無線基地局、ネットワーク通信機器、IP電話/FAX・通信インフラ制御、基地局開発評価のほか、鉄道・航空・宇宙・防衛そしてプラント制御などにより社会インフラを支えている。
工場の生産部門における制御関連事業も行っており、FA(Factory Automation)を行うPLC(Programmable Logic Controller)や表示・操作ターミナルとなるHMI(Human Machine Interface)などコントローラーの開発をはじめ、コントローラー機器のプログラミングと運用・保守ツールの開発なども手掛けている。このほか、OA機器である複合機・プリンター分野の組込制御・認識技術・アプリ開発・外部機器制御技術やデジタルリビング(家電)の核となるデジタルテレビの商品開発あるいはモバイル(スマートフォン)4G/LTEに対応したデータ通信端末やスマートフォンの通信制御、Androidアプリケーション開発やプロトコル開発/評価、マルチメディア放送やFelicaサポートなど、モバイルに関する最新の組込/制御技術の開発も行っている。
なかでも、同領域で国内トップクラスの実績を蓄積しているFA(Factory Automation)等の機械制御系や自動車関連に強みを有する。車載向けに限定すれば実質的にすべての国内完成車メーカーに納入しており、国内トップシェアを誇っている。AIやロボットによる生産性革命や自動車産業におけるCASE(Connected:コネクテッド化、Autonomous:自動運転化、Shared/Service:シェア/サービス化、Electric:電動化)の推進、社会インフラ系でのIoT活用、といった大きな潮流に対応する同社の「AIS-CRM」戦略は中長期的な収益機会の獲得につながる公算が大きいと考える。
2) 業務系ソフトウェア
現在は、流通業、金融業、サービス業、製造業、ネットビジネス、社会インフラ、教育、文教、医療、公共機関など幅広い業種に対し、店舗・受発注システムや生産・販売・在庫管理などの基幹システム、勘定系システム、情報システム、ネットサービスといった様々なソリューションを、コンサルティングから開発、システム構築、サポートまでワンストップで提供できる体制を確立している。ソリューション別の事業内容の詳細については次のとおりである。
基幹システムソリューションとしての生産、販売、在庫管理など幅広い基幹システムに関して、各種パッケージ、ERPの導入、個別SI、さらに、コンサルティング・インテグレーションの各サービスからデータセンター運用まで網羅している。
情報システムソリューションは、自社データセンターを主軸にプライベートなクラウド基盤でIaaS及びSaaSを提供している。また、4大パブリッククラウド(AWS、Google、Salesforce、Microsoft)をパートナーとし、包括的なクラウドサービスも提供している。オンプレミス(「On-Premises」とは、特定の場所や施設内にコンピュータサーバーやソフトウェアを設置し、管理・運用することを指す。主に使用者の施設内に設置し、運用すること)においても、多様な情報システムソリューションをインテグレーションから運用サービスまでトータルなサポートを行っている。
インターネットサービスソリューションは、インターネット上で様々なサービスを行っている顧客に、最適なソリューションを一括で提供している。特にECサイト構築は提案力と高い技術力から、好評である。銀行、証券、保険、クレジットカードなど各金融機関の勘定系業務システムや情報系業務システム、インフラなどを行う金融ソリューションに加え、クラウドサービスとタブレット端末を融合した文教・公共分野の効率化、高度化を、最先端の技術で推進している文教・公共ソリューションのほか、流通ソリューションとして店舗システム、POS、MD管理から受発注システム・eコマース・会計に至る流通に関する各種パッケージと最適ソリューションの提供も行っている。製造ソリューションは、生産、販売管理、物流、会計から、化学物質情報収集ソリューション(リーチ法対策)、電力の見える化(HEMS、BEMS)など、製造に関する各種パッケージと最適ソリューションを手掛ける。サービスソリューションはモバイル端末を利用した「販売促進支援」、広報向け「テレビ番組ログデータ提供」、製造向け「各種マニュアル制作」など、業務の効率化を推進するソリューションを提供している。
(2) プロダクト・サービス
SI事業のプロダクト・サービスは、狭義のプロダクト・サービスとアウトソーシングに区分される。
1) プロダクト・サービス
狭義のプロダクト・サービスは、1)自社プロダクト(ペーパーレスシステムの「moreNOTE」、情報化社会における総合教育ソリューションの「みらいスクールステーション」、個人所有のスマートフォンなどを会社の業務で活用するためのツールである「smartBYOD」、コミュニケーションロボットの「PALRO」、SIMフリー向けモバイルルータ「FS040W、FS050W」、仮想空間活用ツールである「FAMシリーズ」等)、2)ライセンスビジネス(マイクロソフト<MSFT>製品、AWS、VMware<VMW>等)、3)物販等(PC、サーバー等)から成る。
特需一巡的な要因により、自社プロダクトと物販等は減速気味ながら、ライセンスビジネスについてはWindows7のサポート終了(2020年1月14日)特需のピークアウト後も成長が継続している。この点、ライセンスビジネスのメインプロダクトに育ったMicrosoft365(旧Office)や各種クラウドサービスがサブスクリプションモデル(売り切り商売ではなく、利用期間に応じて料金を徴収するビジネスモデル)を採用していることが、事業の安定性向上につながっているように見える。なお、同社の場合、ライセンス製品の導入サポートも行っており、単なるライセンス販売だけでなく、エンジニアリングサービスを付帯させることで利幅を確保しているようである。
2021年8月、同社はPCのライフサイクル管理に関するすべての作業(PCの選定・レンタル、キッティング、管理・サポート、更新プログラム適用等)をワンストップで対応する「デスクトップフルサービス」の提供をスタートした。この自社サービスではMicrosoft365の導入/利活用を推奨しており、狭義のプロダクト・サービス全般をグロースし収益性を高める力を持つ。マイクロソフトがサブスクリプションモデルであるWindows365(企業向け仮想デスクトップ=クラウドPC)のサービス提供を2021年8月から、次期OSであるWindows11の提供も同年10月から開始していることもあり、同社の「デスクトップフルサービス」は安定しつつある。
同社は、2022年4月にバーチャル教育空間である「FAMcampus(ファムキャンパス)」、オンライン商談ルームである「MEMTOM(メントム)」、バーチャルイベント空間である「FAMevent(ファムイベント)」の提供・販売を相次いで開始した。
「FAMcampus」と「FAMevent」は、その名のとおり「FAMoffice」で培われた技術やコンセプトをベースにしており、前者は学研ホールディングス<9470>のグループ会社である(株)学研塾ホールディングス及び(株)学研メソッドとの共同実証を経て、後者は「厚生労働省 予防・健康づくりインセンティブ推進事業」として医療保険者、企業健康増進担当者、自治体、事業主を対象に開催された「データヘルス・予防サービス見本市2021」での先行導入を経て、商業サービスへと磨き上げられている。また、「MEMTOM」は、従来のビデオ会議システムでは難しかった双方向での資料の共有や操作、申込書記入等の契約締結までに至る一連の手続きを可能としたサービスである。
2) アウトソーシング
アウトソーシングは、データセンターやシステム運用・保守等のサービスを提供している。データセンターは全国(東京2ヶ所、横浜、九州)に4ヶ所の拠点を保有し、サービスを提供している。ITシステムは、重要なライフラインとなっているものの、維持・運営は利用者の多額のコスト負担が生じ、容易ではない。そこで、利用者負担を軽減するべくデータセンターサービスを提供している。
2. ファシリティ事業
保有するオフィスビルの賃貸を収入とする同社は基本的に自社活用目的で不動産を保有しており、ファシリティ事業は空きスペースが有効活用された結果と位置付けて良い。
3. その他
主軸は子会社の富士ソフトサービスビューロ<6188>が手掛けるBPOサービス事業やコールセンター事業である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清野克純)
《SO》
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