アンジェス Research Memo(9):開発対象となる遺伝性疾患治療薬の市場規模は1兆円を超える
■EmendoBioの開発状況
1. ゲノム編集とOMNIプラットフォームの特徴
アンジェス<4563>のゲノム編集とは、特定の塩基配列(ターゲット配列)のみを切断するDNA切断酵素(ヌクレアーゼ)を利用して、狙った遺伝子を改変する技術を指す。以前からゲノム編集技術はあったが、2012年にこれまでの技術よりも短時間で簡単に標的とするDNA配列を切断できるCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)と呼ばれる革新的な技術が登場したことで、製薬業界においてもゲノム編集技術を用いて新薬の開発を行う動きが活発化した。ただ、これらの技術は狙った遺伝子とは異なる箇所(標的DNA配列と似た配列)を切断してしまう「オフターゲット効果」があり、安全性という面で課題となっていた。
これに対して、Emendoが独自開発したOMNIプラットフォーム技術では、標的のDNA配列を高精度に切り取る独自のヌクレアーゼ(OMNIヌクレアーゼ)をAI技術によって効率的に探索し、最適化することで「オフターゲット効果」のない安全性の高いゲノム編集が可能となる。自社開発したヌクレアーゼのうち250超については特許も申請している。ゲノム編集による医薬品の開発を進める場合には、効率性だけでなく安全性も強く求められるため、OMNIプラットフォームの持つ特徴は優位性があると弊社では評価している。
また、もう1つの特徴としてはアレル特異的遺伝子編集が可能である点が挙げられる。アレル特異的遺伝子編集とは、対をなすアレル(対立遺伝子)の一方を傷つけることなく、異常のある遺伝子のみをターゲットにして編集することを言う。ヒトは父型と母型の2つのアレル(対立遺伝子)を一対として持っており、片方のアレルが異常配列となることで発症する遺伝病を優性遺伝(機能獲得型変異/ハプロ不全)、両方のアレルに必要な遺伝子が欠損することで発症する遺伝病を劣性遺伝(複合型ヘテロ接合体/ホモ接合体)、または伴性遺伝(性別によって発症の仕方が異なる遺伝病)と呼ぶ。遺伝性疾患のうち、アレル特異的遺伝子編集の対象となるのは優性遺伝と劣性遺伝のうちの一部で、遺伝性疾患の過半を占めることになる。これはOMNIプラットフォームを活用したゲノム編集による治療薬の開発領域が幅広いことを意味している。Emendoの調べによれば、遺伝性疾患の治療薬の市場規模は全体で約2兆円の規模があり、このうち1.1兆円がOMNIプラットフォームの対象領域になりうると見ており、潜在的な成長ポテンシャルは大きい。
なお、Emendoについては独自のOMNIプラットフォーム技術が評価され、製薬分野のノーベル賞とも言われている「2023 Prix Garian(プリ・ガリアン)USA Award」のBest Startup部門にノミネートされたことを2023年8月に発表している(同部門のノミネート社数は66社)。Awardの発表は10月下旬に予定されており、受賞すればさらに注目度は高まるものと思われる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《SO》
提供:フィスコ