セレンディップ Research Memo(4):2023年3月期は先行投資期中も、大幅営業増益を達成
■業績動向
1. 2023年3月期の業績概要
セレンディップ・ホールディングス<7318>の2023年3月期の業績は、売上高15,195百万円(前期比10.1%増)、営業利益325百万円(同66.8%増)、経常利益347百万円(同93.6%増)、親会社株主に帰属する当期純利益312百万円(同56.3%増)と大幅営業増益となった。なお、営業外収益に受取補償金などを計上したため経常利益は営業利益の伸びを上回った。
日本経済は、コロナ禍に伴う行動制限が緩和され、ウィズコロナのフェーズへと移行するなか、個人消費や企業の設備投資に持ち直しの動きがみられたものの、世界的な金融資本市場の変動や、資源・エネルギー価格の上昇に伴う物価高騰、供給面での制約などに対する懸念から、先行き不透明な環境が続いた。同社の事業領域である中堅・中小企業の「事業承継(投資)」に関しては、事業承継問題が深刻化するなか、コロナ禍の影響により経済・社会活動が停滞したこともあり、事業承継手段としてM&Aニーズが一段と増加した。同社のもう1つの事業領域である「モノづくり(経営)」においては、期初から継続してコロナ禍や半導体を中心としたサプライチェーンの混乱から、自動車メーカーの国内生産による生産計画の見直しの影響を受けたものの、期末にかけてウィズコロナへの移行が始まり大きく挽回することができた。
同社においては従来どおり、経営執行にコミットしたプロ経営者を顧客企業へチームで派遣し、現場・財務・経営の見える化を徹底するとともに、バックオフィスの生産性向上や製造現場での幅広いITの活用に取り組み、ムダ・ムリ・ムラの排除などを実施してきた。なお、2023年1月に試作品製作のアペックスを連結子会社化し、アペックスの技術力・デザイン力をテコにグループの成長を加速する環境を整えた。この結果、自動車業界の回復とともにモノづくり事業の業績が期中に大きく改善し、プロフェッショナル・ソリューション事業とインベストメント事業は、依然先行投資期でセグメント損失を計上しているものの、黒字化へ向かって着実に事業規模の拡大を進めることができた。なお、2023年3月発表の修正計画に対して売上高で365百万円、営業利益で78百万円の超過達成となったのは、自動車向けの比率が大きいモノづくり事業は通期でサプライチェーンの混乱を織り込んでいたこと、M&Aに関しては当初から織り込んでいないことが要因である。
期待のプロフェッショナル・ソリューションとインベストメントは
先行投資期
2. セグメントの状況
セグメント別の業績は、プロフェッショナル・ソリューション事業が売上高1,274百万円(前期比7.9%増)、セグメント損失53百万円(前期は8百万円のセグメント利益)、インベストメント事業が売上高113百万円(前期比65.2%増)、セグメント損失10百万円(前期は24百万円のセグメント損失)、モノづくり事業が売上高14,230百万円(前期比9.6%増)、セグメント利益389百万円(同84.4%増)となった。
モノづくり事業においては、自動車内外装部品製造の三井屋工業、自動車精密部品製造の佐藤工業ともに、期初から半導体供給不足やサプライチェーン混乱に伴う自動車メーカーの生産計画見直しによる影響を受けた。しかし、期末にかけて自動車メーカーの国内生産が大きく挽回したことを背景に増収を確保した。利益面では、増収効果に加え、製造スタッフの多能工化による生産性向上を背景に固定費が削減したため増益となった。FA装置製造の天竜精機も供給面での制約は残るものの、新規顧客の獲得や主要顧客の設備投資の再開により受注が回復し、増収増益となった。加えて、2023年1月に全株式を取得したアペックスが、第4四半期より連結業績への貢献を開始した。
プロフェッショナル・ソリューション事業のプロ経営者派遣では、中堅・中小企業からの事業承継や事業再生の案件持ち込みが増加した。エンジニア派遣においては、経営基盤の強化、エンジニアのリスキリング強化、経営効率の合理化を徹底するとともに、新しいIoTソリューションの開発とDXに注力した。なかでも経営コンサルティングで、コロナ禍により中堅・中小企業の業績が悪化したことを受け、企業自身や金融機関からの経営改善支援に関するニーズが拡大した。加えてDXを本格的に取り込もうとする動きから、ITコンサルティングに対するニーズも増加した。このため同社は、経営コンサルティングの人材採用を進め営業を積極化した。この結果、経営コンサルティングの売上高は2ケタ増となったが、経営コンサルティングへの先行投資や事業拡大に伴う本社移転費用によりセグメント損失を計上することとなった。
インベストメント事業では、事業承継問題に機動的に対応するため、モノづくり企業を中心とした再生型事業承継支援サービスや、フィナンシャル・アドバイザリーなどの企業経営サポートを積極的に進めた。この結果、特にフィナンシャル・アドバイザリー案件の成約数が増加した。また、従来から進めてきた金融機関などとの業務提携のなかで、初の共同投資の実行やフィナンシャル・アドバイザリーの売上計上、ものづくりファンド組成に伴う管理業務報酬の発生もあり、大幅な増収となった。利益面では、事業強化に向けて人材採用を強化したことで人件費や採用費などが増加し、セグメント損益は改善したものの黒字化には至らなかった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
《YI》
提供:フィスコ