明日の株式相場に向けて=円安モラトリアム助長したYCC修正
名実ともに8月相場入りとなった1日の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比304円高の3万3476円と続伸。後場取引時間中に発表されたトヨタ自動車<7203>の決算が事前予想を上回り株高を後押ししたことで、全体の地合いも良くなった。また、半導体関連はソシオネクスト<6526>の大復活が目を引く。株価上昇もさることながら、商いの活況ぶりはまさに全員参加型。トップ常連のレーザーテック<6920>をはるか後方に押しやり、時価総額わずか6000億円にしてプライム市場で断トツの売買代金をこなした。
外国為替市場では円安が進行している。足もとであれよという間に1ドル=142円台後半までドル買い・円売りの動きが加速した。これは株式市場にとって素直にプラス方向のベクトルとして作用しており、実際にこれから3月期決算企業の第1四半期発表が本格化するなか、収益見通しにも追い風材料となっている。前週末7月28日の日銀金融政策決定会合ではイールドカーブ・コントロール(YCC)の柔軟化という表現で、事実上のYCCの許容変動幅拡大を決めた。思い起こせば昨年12月、黒田日銀総裁時代に長期金利0.25%から0.5%程度への許容上限の引き上げを決めた時は銀行株が急騰し、日経平均は大幅下落するという絵に書いたようなインパクトをマーケットに与えた。その時の変動幅は差し引き0.25%の拡大を許容するものだったが、今回はそれよりも大きい。日銀は「目標はゼロ%程度で推移し変動幅は上下0.5%程度をメドとするが、指し値オペは1%で行う」という面妖な言いまわしで市場の顔色をうかがったが、端的に言えば何のことはない、長期金利は1.0%前後まで許容するということだ。
0.5%から1.0%へ差し引き0.5%の拡大で「YCCのゾーンを広げるにしても0.5%幅は思ったより大きいという印象を受けた」(生保系エコノミスト)という声が聞かれた。くしくも米国ではFRBによる利上げ打ち止めの可能性が意識されており、このタイミングで日銀がこれまでの超緩和路線から離脱することは、為替市場でドル売り・円買いの動きを加速させるというのが常識的に考えられるシナリオだった。
ところが、実際は真逆の展開となっている。この理由について前出のエコノミストは「YCC政策の変更があるとすれば、いきなり解除という選択肢もあったはずだが、今回の曖昧な変動幅の拡大は、あくまで政策変更ではないという日銀の意思を示した」とする。実際、週明け31日の午前10時過ぎに長期金利0.6%をつけたタイミングで指し値オペを通知したことは、金融緩和姿勢はこれまで通りという日銀のアピールにも見て取れる。
「今回のYCC政策の修正は、皮肉にも出口を遠くしたという感が強い」(中堅証券ストラテジスト)という声もある。日銀の大規模金融緩和の本丸は、“世界でたった一人”のマイナス金利政策である。YCCの解除はその外堀に過ぎない。しかも、今は恐る恐るYCCの許容変動幅を広げている段階で、本丸どころか外堀を埋める(YCC解除)までにも相当の時間を要する公算が大きくなった。ならば、躊躇せず円を売れるという思惑が足もとの円安を助長している。一つ言えるのは、日銀は今回の展望リポートで自らの金融政策に保険をかけているということ。25年度のインフレ予想率は依然2%を下回ったままで、このシナリオが仮に揺らげば緩和政策変更の大義名分が立つ。したがって、「政策変更は展望リポートの見通し変更と同時に行われる公算が大きい」(同)という見方が強い。これは継続的な賃金上昇があるかどうかがカギを握る。日銀は現時点でないとみていることになる。
きょうの相場は総花的に上がっているが、業種別には海運や自動車、鉄鋼などが値上がり率上位でバリュー株優位の構図は変わらない。低PBR株の循環物色となっているが、そのなか海運ではこれまで比較的出遅れていたNSユナイテッド海運<9110>、明治海運<9115>、飯野海運<9119>などが動意をみせている。このほか、三協立山<5932>は依然としてPBR0.3倍台、カーリットホールディングス<4275>なども低PBRが光る。
あすのスケジュールでは、日銀金融政策決定会合の議事要旨(6月15~16日開催分)、7月のマネタリーベース、7月の財政資金対民間収支など。海外ではタイ中銀の政策金利発表、ブラジル中銀の政策金利発表、7月のADP全米雇用リポートなど。国内主要企業の決算発表では住友化学<4005>、イビデン<4062>、エーザイ<4523>、TDK<6762>、川崎汽船<9107>、東京電力ホールディングス<9501>などが予定されている。(銀)
出所:MINKABU PRESS
外国為替市場では円安が進行している。足もとであれよという間に1ドル=142円台後半までドル買い・円売りの動きが加速した。これは株式市場にとって素直にプラス方向のベクトルとして作用しており、実際にこれから3月期決算企業の第1四半期発表が本格化するなか、収益見通しにも追い風材料となっている。前週末7月28日の日銀金融政策決定会合ではイールドカーブ・コントロール(YCC)の柔軟化という表現で、事実上のYCCの許容変動幅拡大を決めた。思い起こせば昨年12月、黒田日銀総裁時代に長期金利0.25%から0.5%程度への許容上限の引き上げを決めた時は銀行株が急騰し、日経平均は大幅下落するという絵に書いたようなインパクトをマーケットに与えた。その時の変動幅は差し引き0.25%の拡大を許容するものだったが、今回はそれよりも大きい。日銀は「目標はゼロ%程度で推移し変動幅は上下0.5%程度をメドとするが、指し値オペは1%で行う」という面妖な言いまわしで市場の顔色をうかがったが、端的に言えば何のことはない、長期金利は1.0%前後まで許容するということだ。
0.5%から1.0%へ差し引き0.5%の拡大で「YCCのゾーンを広げるにしても0.5%幅は思ったより大きいという印象を受けた」(生保系エコノミスト)という声が聞かれた。くしくも米国ではFRBによる利上げ打ち止めの可能性が意識されており、このタイミングで日銀がこれまでの超緩和路線から離脱することは、為替市場でドル売り・円買いの動きを加速させるというのが常識的に考えられるシナリオだった。
ところが、実際は真逆の展開となっている。この理由について前出のエコノミストは「YCC政策の変更があるとすれば、いきなり解除という選択肢もあったはずだが、今回の曖昧な変動幅の拡大は、あくまで政策変更ではないという日銀の意思を示した」とする。実際、週明け31日の午前10時過ぎに長期金利0.6%をつけたタイミングで指し値オペを通知したことは、金融緩和姿勢はこれまで通りという日銀のアピールにも見て取れる。
「今回のYCC政策の修正は、皮肉にも出口を遠くしたという感が強い」(中堅証券ストラテジスト)という声もある。日銀の大規模金融緩和の本丸は、“世界でたった一人”のマイナス金利政策である。YCCの解除はその外堀に過ぎない。しかも、今は恐る恐るYCCの許容変動幅を広げている段階で、本丸どころか外堀を埋める(YCC解除)までにも相当の時間を要する公算が大きくなった。ならば、躊躇せず円を売れるという思惑が足もとの円安を助長している。一つ言えるのは、日銀は今回の展望リポートで自らの金融政策に保険をかけているということ。25年度のインフレ予想率は依然2%を下回ったままで、このシナリオが仮に揺らげば緩和政策変更の大義名分が立つ。したがって、「政策変更は展望リポートの見通し変更と同時に行われる公算が大きい」(同)という見方が強い。これは継続的な賃金上昇があるかどうかがカギを握る。日銀は現時点でないとみていることになる。
きょうの相場は総花的に上がっているが、業種別には海運や自動車、鉄鋼などが値上がり率上位でバリュー株優位の構図は変わらない。低PBR株の循環物色となっているが、そのなか海運ではこれまで比較的出遅れていたNSユナイテッド海運<9110>、明治海運<9115>、飯野海運<9119>などが動意をみせている。このほか、三協立山<5932>は依然としてPBR0.3倍台、カーリットホールディングス<4275>なども低PBRが光る。
あすのスケジュールでは、日銀金融政策決定会合の議事要旨(6月15~16日開催分)、7月のマネタリーベース、7月の財政資金対民間収支など。海外ではタイ中銀の政策金利発表、ブラジル中銀の政策金利発表、7月のADP全米雇用リポートなど。国内主要企業の決算発表では住友化学<4005>、イビデン<4062>、エーザイ<4523>、TDK<6762>、川崎汽船<9107>、東京電力ホールディングス<9501>などが予定されている。(銀)
出所:MINKABU PRESS