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5021 コスモHD

東証P
6,579円
前日比
-149
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PTS
-円
業績
単位
100株
PER PBR 利回り 信用倍率
7.1 0.94 4.56 41.31
時価総額 5,813億円
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戸田工業 Research Memo(7):中期成長事業に加え次世代事業の拡大で新たな成長を目指す(2)


■中長期の成長戦略

MLCCの内部構造はチタン酸バリウム(BaTiO3:TB)からなる誘電体層とニッケルからなる電極層が積層された構造となっている。この中で高性能化要求を実現するためには電極層、誘電体層の薄層化・多層化が求められ、構成材料のナノ粒子化が必須となる。この内部電極では内部電極層(金属)と誘電体層との機械的接合強度を高めるためにTBナノ粒子が共材として必要となる。電極層の機械的強度を上げるのは、MLCCを製造する際に電極層が割れたり、欠けたりしないようにするためで、MLCCの電気特性の低下や故障を防ぐ効果がある。また共材は電極と誘電体層の間に電界を均一化することで、誘電体層の電気分極を高めるためにも重要な役割を持つ。戸田工業<4100>は特に他社にない均質で高分散性の超微粒ナノ粒子(30~100nm)を製造しており、生産額は大きくないものの、共材の付加価値は非常に高いとみられる。さらに今後は高容量化で電極層の薄層化も求められ、電極材料として100nm以下のNi粒子に20nm以下の共材が必要と言われており、さらなる微細化が進むとみられる。なお今回、同社は共材として供給に加え、誘電体層への分散体供給も始める。特に車載用では高温下での性能に優れ、静電容量アップも求められる中で超微粒、均一、高誘電率などを兼ね備える同社の材料は、内製化しているMLCCメーカー向けにも、従来の電極層向け共材利用に加え、誘電体層向けに採用が広がる可能性が出ている。誘電率向上について誘電体層に利用する分散体とは、誘電体粒子を分散させて、粒子同士の凝集を防ぎ、均一な誘電体層を形成するために使用される。また誘電体層の流動性を向上させ、均一な膜厚を形成する役割も果たす。この分散体は、誘電体粒子よりも分子量が小さい物質が必要で、ここでも同社の超微粒子が不可欠になる。このため、電極の共材に加え分散体の誘電体での採用が拡大されれば、日本メーカーが大きなMLCCシェアを有するだけに、MLCC市場の成長を上回る売上の拡大が期待される。

c) LIB用材料
同事業の主体はBTBMであるが、EV普及加速の動きの中で収益の刈り取り期に入り、今後は売上拡大の加速が期待される。現在、BTBMの提供する正極材料は主に欧米系に採用されており、高級車は航続距離などの点でハイニッケルのニッケルコバルトアルミン酸リチウム(Hi-Nickel NCA)の採用が継続するとみられ、電池各社の相次ぐ増産計画から、売上拡大が続くと期待される。なお日系メーカーに対しては2022年12月19日にはドイツBASF本社がニッケルコバルトマンガン(NCM)系正極材料(CAM)を、BTBMからPPESへ納入を開始するとの開示があった。これは数年前からBASFがPPESと協業することで、高出力、長寿命、効率向上の要件を満たすテーラーメード製品となっており、今後のトヨタ自動車のEV戦略とともに大きく伸長すると見られる。BTBMは小野田事業所のCAM増設を実効中で2024年後半に生産開始、CAMとして年産6万トン、バッテリーセルとして年間45GWh分まで増加させる計画で、大きな寄与が見込める。また、前駆体を供給するカナダの戸田アドバンストマテリアルズ、岐阜の(株)セントラル・バッテリーマテリアルズを含めて成長が見込まれる。

同社はこれまでLIB用材料については車載用、とりわけハイパワーEV向けのビジネスを展開しており、これからもこの方向性に変化はない。しかしリチウム資源の調達とコスト問題の懸念から、新たな取り組みとして安価で資源成約のない定置用電源に相応しいといわれるナトリウムイオン電池の開発も具体化した。具体的には鳥取大学と同社が共同研究を行い、同社が独自開発した酸化鉄(Fe2O3)微粒子に対して様々な物質を添加する研究を繰り返し、この中でアンチモン(Sb)を添加するとナトリウムイオン電池の負極として優れた特性を得ることを発見した。同社は元々、酸化鉄では200年の歴史を有する企業であり、「酸化鉄とある種の金属との複合化」が様々な課題を解決する鍵となる成果を生かしていく方向で、固体電解質を用いた電池においても応用可能とのことで、長期的には同社の電池材料事業に大きなインパクトを与える可能性がある。

d) 顔料・環境関連事業
同事業については市場が成熟化している状況にあるが、戸田聯合の出資持分を同社持分法適用関連会社である浙江華源へ移管したことにより、新たな展開が期待される。2011年に出資した戸田聯合は黄色の酸化鉄顔料を中心に製造販売を行い、2001年に出資した浙江華源は赤色の酸化鉄顔料を中心に事業展開してきた。近年、中国では酸化鉄顔料企業の統廃合・提携が活発で、今回の統合で浙江華源は赤色、黄色、黒色の全ての酸化鉄顔料事業を手掛け、世界第2位の酸化鉄顔料メーカーとなった。

(2) 次世代事業
a) 環境関連新材料
同社はこれまで循環型社会の形成に対し、製品として燃焼時に有害物質発生を抑制する触媒活性を持つ酸化鉄や土壌・地下水を浄化する機能を持った酸化鉄などを提供してきたが、さらなる取り組みが進行している。具体的にはカーボンニュートラル実現のため、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)の委託事業を通じてエア・ウォーター<4088>と共同でメタン直接改質法によるCO2フリー水素の研究開発を推進してきた。

またカーボンリサイクルの実現のため、埼玉大学の柳瀬准教授が研究しているナトリウムフェライトを用いたCO2固体回収材の工業生産化なども開発している。燃焼排ガス中に含まれるCO2を吸収し、100℃程度の加熱でCO2を放出、固体で繰り返し利用できることからカーボンニュートラルに貢献する素材として注目される。そしてこの取り組みに対し、NEDOが公募した「グリーンイノベーション基金事業/CO2の分離回収等技術開発プロジェクト」において、「Na-Fe系酸化物による革新的CO2分離回収技術の開発」を同社、エア・ウォーター、埼玉大学が共同提案し、2022年7月に採択された。分離回収されたCO2の活用についてはメタノールやエタノールの合成、燃料、コンクリート配合剤などが考えられている。

また2023年1月にはコスモエネルギーホールディングス<5021>と環境対応技術の実用化のため、共同開発についての基本合意書も締結した。検討事項として5項目を挙げ、同社が保有するメタン直接改質法による低炭素水素製造技術を活用し、コスモエネルギーグループから発生する留分を元に次世代エネルギーである水素や炭素材料に用いられる炭素への変換を検討している。全体として収益に寄与するには時間を要するとみられるが、同社の脱炭素社会、循環型社会の実現に向けた取り組みにも大いに期待がかかる。

b) 軟磁性材料
磁力を保持する力が小さく、磁石にはくっつくが外部の磁界を取り除くと速やかに磁性がなくなる軟磁性材料について、改めて車載用中心に開発を行う。具体的には、電子化の進展により電子制御化が加速し、電子部品搭載数の増加によるノイズ問題が大きな課題となっていることから、ノイズ対策材料やEV用非接触給電向け厚膜大判フレキシブルフェライトプレート、ノイズ抑制用フレキシブルフェライトシートやテープ等の販売を加速している。

c) そのほかの開発品
同社はこのほかにも電磁波対策部品としてミリ波電磁波吸収シートや5G対応の電磁吸収用フェライト粉、薄型電波吸収シート、新機能材料として多層カーボンナノチューブ、様々な新製品群を投入意向で、先端素材開発企業としての企業変革を実行していく。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)

《SI》

 提供:フィスコ

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