貸借
証券取引所が指定する制度信用銘柄のうち、買建(信用買い)と売建(信用売り)の両方ができる銘柄
日経平均株価の構成銘柄。同指数に連動するETFなどファンドの売買から影響を受ける側面がある
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8697 日本取引所グループ

東証P
1,793.0円
前日比
-16.5
-0.91%
PTS
-円
業績
単位
100株
PER PBR 利回り 信用倍率
32.2 5.67 1.87 0.70
時価総額 18,729億円

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デリバティブを奏でる男たち【44】 タネンバウムのファー・ツリー(後編)


◆ESG投資の先駆け

 今回はビットコインに投資する投資信託、グレースケール・ビットコイン・トラストの運営会社を訴えたヘッジファンド、ファー・ツリー・キャピタル・マネジメントを取り上げています。創業者のジェフリー・デイビッド・タネンバウムは2000年に、テュレーン大学の同級生であり、新興国市場投資で有名だったエベレスト・キャピタルに勤めているアンドリュー・フレッドマンを招聘しました。
 
 その後にタネンバウムは投資権限の委譲を進め、2010年半ばまでには日常のポートフォリオ管理に関与しなくなります。そして、社会に持続可能な利益をもたらす産業とビジネスの成長を加速させるため、タイタン・グローブを設立しました。同社では米国最大の太陽光発電施設の建設に貢献するエス・パワーや、建物のエネルギー改修に資金を提供するペースネイションなどといった企業に投資する活動を展開していきます。その意味ではESG投資の先駆けと言えるでしょう。
 
 ESG投資とは、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)に配慮している企業を重視・選別して行う投資のことです。従来のキャッシュフローや利益率などの財務情報などで評価する投資手法に、これら非財務情報を考慮することで、国連が提唱するSDG's(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)達成に大きく貢献するものです。

 東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループ <8697> [東証P]でもESG投資促進の取り組みを進めるべく2017年12月、SSEイニシアティブ(Sustainable Stock Exchanges Initiative)に参加しました。SSEイニシアティブは、証券取引所がサステナブル(持続可能)な社会の構築に向けて、投資家や上場会社などのステークホルダーと協働しながら、主体的にその取り組みを検討していく活動で、国連貿易開発会議(UNCTAD)、国連グローバル・コンパクト、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)、責任投資原則(PRI)により運営されています。
 
 また、世界のESG投資額はGSIA(世界持続的投資連合:Global Sustainable Investment Alliance)によると、2020年に35.3兆ドルに達し、調査対象となった機関投資家の全運用資産98.4兆ドルの35.9%にあたるとのこと。もっとも、同投資の運用成績はコロナ禍後が芳しくなく、投資を今後さらに拡大させていくための課題になっているようです。

 タネンバウムがこうした活動に専念できたのも、フレッドマンの活躍があってこそのことでしたが、そのフレッドマンは2015年に退任。イングルシー・キャピタルというファミリー・オフィスの運用に転じますが、2020年に亡くなっています。フレッドマン退任後のファー・ツリーは、1999年に投資銀行ウェルフェンソン・アンド・カンパニーから転職してきたデビッド・スルタンが引き継いだものの、サポートする役員の半分が数年以内に辞めてしまい、現在はブライアン・マイヤーが最高執行責任者(CEO)についています。彼は2005年から同社で働く前は、メディアに特化したプライベートエクイティ会社および投資銀行であるヴェロニス・スーラー・スティーブンソンのマネージングディレクターを務めていました。

◆JR九州に投資

 ファー・ツリーが日本で知られるようになったのは、同社が2018年にJR九州 <9142> [東証P]の発行済み株式数の5.1%を取得した、との大量保有報告書を提出してからです。ファー・ツリーはJR九州の株式を上場した2016年から保有していたものの、株価が過小評価されているとして、自社株買いなどを求めるアクティビスト活動を始めます。2019年の株主総会では、発行済み株式10%の自社株買い(上限720億円)や指名委員会等設置会社への移行、3人の社外取締役の選任などを提案。これに対してインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)やグラスルイスといった米議決権行使助言会社は、賛成を推奨します。

JR九州 <9142> [東証P] 月足
【タイトル】

 しかし、JR九州側は徹底抗戦の構えを見せ、ことごとく株主提案に反対したほか、ファー・ツリーが株主名簿に記載のない「実質株主」であることを根拠に、株主総会での発言を認めない方針を打ち出します。加えて、JR各社との株式持ち合いを強化するなど、2015年に金融庁が策定したコーポレートガバナンス・コードに反旗を翻してまで対抗したのです。同株主総会では、株主提案の賛成率が最高41.7%まで高まりましたが、必死の抗戦の甲斐があって何とか抑え込むことに成功します。ただ、株主提案が一定の支持を集めたことを受けてか、JR九州は2019年11月に、100億円を上限とする自社株買いを2020年3月末までに実施する方針を発表しました。

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◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):
証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。



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