シンバイオ製薬 Research Memo(6):BCVは開発の可能性が広がり、成長ポテンシャルが大きく拡大(2)
■シンバイオ製薬<4582>の開発パイプラインの動向
(2) 開発計画
a) 造血幹細胞移植後のアデノウイルス感染症
BCV(注射剤)の最初の開発ターゲットとして、小児(成人含む)を対象とした造血幹細胞移植後のアデノウイルス感染症に対する国際共同第2相臨床試験を2021年8月から米国で開始している(予定症例数24例)。アデノウイルスは自然界に存在するウイルスで、呼吸器、目、腸、泌尿器などに感染することによって、咽頭炎、扁桃炎、結膜炎、胃腸炎、出血性膀胱炎等の感染症を引き起こす。健常人が感染しても重篤になるケースは稀だが、造血幹細胞移植後の免疫力が低下した患者が感染すると重篤化するリスクが高く、未だ治療薬もないことから治療薬や予防薬の開発が強く望まれている。世界における造血幹細胞移植の件数は年間3.5万件で、このうちアデノウイルス感染症の患者数は約2千人(出所:Bone Marrow Transplantation 2016,Bone Marrow Transplantation 2019)となっている。
第2相臨床試験は薬剤の投与量で4グループに分けて安全性、忍容性及び有効性を評価し、次試験のための推奨用量を決定する試験となる。2022年11月時点で第3グループまで進んでおり、2023年春頃までには試験が完了する見込みとなっている。順調に進めば2023年後半にFDAと協議を開始し、2024年にも第3相臨床試験入りする可能性がある。また、第2相臨床試験の結果により高い有効性が確認できれば、パートナー契約を締結して第3相臨床試験に進む可能性もある。
b) 腎臓移植後のBKV感染症
2つ目のパイプラインとして、腎臓移植後のBKV※感染症を対象とした国際共同第2相臨床試験を開始している。2022年12月13日にオーストラリアにて第1例目の投与を開始しており、今後オーストラリア、日本、韓国で進めていく予定となっている。予定症例数は36名で、安全性、忍容性及び有効性(投与後の血漿中のBKV量の変化)も確認し、次試験のための推奨用量を決定する試験となる。試験期間としては2年程度を予定している。
※BKVはポリオーマウイルス科に属するDNAウイルスで、健常人でも小児期に100%近くが自然感染しており、健康状態であれば目立った症状は出ないが、臓器移植や骨髄移植後の免疫力が低下している状況ではウイルスが活性化し、出血性膀胱炎や間質性腎炎などを発症する。また、症状が悪化すると移植後の腎臓も機能不全となり喪失するケースがある。
腎臓移植は末期腎不全の唯一の根治療法となっており、移植手術が必要な患者数は世界で約10万人規模と同社では見ている。腎臓移植後は免疫力が低下しているためウイルス感染症を発症するケースが多く、発症確率としてはBKVが15%以下、CMVが20%以下、水疱・帯状疱疹ウイルスが10%以下となっている。BKV感染症の患者数は年間約8千人(出所:International report on Organ Donation and transplantation Activities executive summary 2019, April 2021及びTransplantation 2012)で、現在は免疫抑制剤やCMV感染症治療薬等が対処療法的に処方されているが効果は限定的で、未だ確立された治療法のないアンメット・メディカルニーズの高い疾患となり、有効な治療薬の早期開発が望まれている。
c) EBV陽性リンパ腫
BCVの3つ目のパイプラインとして、EBV陽性リンパ腫の臨床試験が2023年にも開始される可能性が高まっている。2021年9月に共同研究契約を締結したシンガポール国立がんセンターで実施していた動物実験において、EBV陽性のNK/T細胞リンパ腫※1に対する明確な抗腫瘍活性を示すことが確認されたためだ。2022年12月に開催された米国血液学会年次総会において担当医師からその内容が発表された。現在有効な治療法が確立していない進行の早いEBV陽性のNK/T細胞リンパ腫において、BCVが腫瘍悪性化を促進するがん遺伝子であるMYC※2の発現と支配遺伝子群の発現を抑制し、さらにはがん免疫を活性化することで知られる免疫原性細胞死を誘導することが新たに確認され、同腫瘍を移植したマウスモデルにおいて明確な増殖抑制効果を示す結果が得られたと言うもので、担当医師からは「本共同研究においてBCVのNK/T細胞リンパ腫に対する抗腫瘍活性が新たに確認され、BCVがリンパ腫を含むがん領域の新たな治療薬になりうる可能性を持つ」との発言も得られている。今回の共同研究によって、BCVの開発対象領域の広がりが示唆されたことになる。悪性リンパ腫は「トレアキシン(R)」の対象疾患でもあることから、開発に成功すればシナジーが期待できるだけに今後の開発動向が注目される。
※1 NK/T細胞リンパ腫は、悪性リンパ腫の1つでNK細胞あるいはT細胞由来のリンパ腫。進行の速さによって「低悪性度(進行が年単位)」「中悪性度(進行が月単位)」「高悪性度(進行が週単位)」に分類される。主に鼻腔周囲や皮膚に発生し、中国を含めた東南アジアで比較的多く見られるのが特徴となっている。
※2 MYCとは、c-Mycとして古くから知られるがん遺伝子の一つで、造血器腫瘍における転座、変異、増幅をはじめ、広範ながん種において同ファミリー遺伝子の異常が見いだされている。核内転写調節因子として機能し、支配遺伝子の発現を調節することで造血器細胞の増殖・分化バランスを制御する重要因子として知られている。
d) CMV感染の脳腫瘍(GBM)
2021年9月より、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校脳神経外科脳腫瘍センターで、脳腫瘍に対する抗腫瘍効果を検討する非臨床試験が進められているほか、2022年3月には米国ブラウン大学ともCMV感染症の脳腫瘍に対する抗腫瘍効果を検討する非臨床試験を共同研究にて開始したことを発表している。
特に脳腫瘍のうち悪性度の高いGBM(神経膠芽腫)は約3万人※が発症し、そのうち約半分がCMVに感染していることが明らかとなっている。CMVの再活性化によって細胞に炎症を起こし、低酸素状態を作ることで新生血管形成に係る増殖因子であるVEGFを増加させ、がん細胞の増殖を促進している可能性が指摘されている。GBMの標準的治療法は外科手術、放射線治療及び化学療法となるが、平均生存期間が15~20ヶ月で5年生存率は5%以下と極めて低く、有効な治療薬の開発が強く望まれている領域となっている。開発中のGBM治療薬候補品は多いものの、CMVと脳腫瘍の両方をターゲットにしたものはなく、BCVの有効性が確認されれば市場価値は一段と拡大するものと予想される。同社は、米国の大学で進めている2件の非臨床試験の結果を見て、臨床試験に進むかどうか判断していくことにしている。
※GlobalData:Forecast of Incident cases of GBM in US,5EU,China and Japan (2027)より同社推定。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《SI》
提供:フィスコ