日本ヒューム Research Memo(7):技術開発の推進により、企業価値向上を目指す(2)
■技術開発戦略
(b)「e-CON(R)」
「e-CON(R)」は、脱炭素社会へのソリューションの1つである。日本ヒューム<5262>と東京都下水道サービスが共同で開発したもので、セメントの代わりに産業副産物(高炉スラグ微粉末、フライアッシュ)を用いたコンクリート材料である。具体的には、高炉スラグ微粉末の潜在水硬性、フライアッシュのポゾラン反応により、セメントと同様に安定した水和物(C-S-H)を生成することで固まる仕組みになっている。
「e-CON(R)」の特長は3点ある。1) CO2排出量を80%削減。セメントレス化によるエコロジカルな製品であるため、CO2等の温室効果ガスの排出量を抑制し、地球環境の保全に貢献できる。2) 普通コンクリートと比べた場合10倍の耐硫酸性。耐用年数が100年を有する高耐久性の下水道管などが要望されるなかで、優れた耐硫酸性によってコンクリート構造物の長寿命化を実現しており、ライフサイクルコストの低減に応えることができる。3) 同5倍の耐塩害性。塩分が浸透しにくい緻密な硬化体組織のため耐塩害性が高く、海洋構造物などに適している。
「e-CON(R)」の対応可能製品は、ヒューム管、RCセグメント、ボックスカルバート、マンホール、壁高欄等である。同社では、CO2排出量の大幅削減と産業副産物の活用によるゼロエミッションに貢献するカーボンニュートラル時代の新しいコンクリート材料として需要拡大を期待している。2022年度の技術審査証明の取得に向けて審査申請済みであり、早ければ2023年の後半から業績に寄与することが期待されている。
(c) 再生可能エネルギーへの取り組み
同社は長崎県五島市沖に設置された浮体式洋上風力発電設備「はえんかぜ」の浮体部にリング状のプレキャスト部材を提供した。洋上風力発電の方式は、海底に風車を固定する「着床式」と、洋上に浮かんだ浮体構造物を利用する「浮体式」に分けられる。現在、世界で運用されている洋上風力発電の99%以上が着床式と言われている。しかし、着床式のほとんどは水深50m以下の海域に設置されていることや、地震多発地帯で海底地形が複雑である日本では、設置場所ごとに個別設計が必要となる着床式より、個別設計が不要な浮体式の方が有利とされている。弊社では、日本において再生可能エネルギーをさらに増やすための国の資金援助や支援策等から、浮体式洋上風力発電設備は増えていくと見ており、同社のコンクリート製品の新たな需要先となることを期待している。
(d) 合弁会社コンフロンティア(株)の設立
2022年2月15日、同社及びNJSは合弁会社コンフロンティアを設立した(出資割合:同社50%、NJS50%)。「社会基盤の整備に参加し豊かな人間環境づくりに貢献する」メーカーとしての同社と「水と環境のサービスを通じて、豊かで安全な社会を創造する」技術コンサルタントとしてのNJSの知見を融合し、インフラの課題解決に取り組む考えである。
コンフロンティアの主な事業内容は、以下のとおりである。
(i) 脱炭素マテリアル事業
脱炭素社会を推進する資材の開発と関連するサービスを提供する。特に低炭素コンクリート、CO2吸収建設資材及びCO2分離利用技術の開発と事業化を推進する。
(ii) 再生可能エネルギー事業
再生可能エネルギーの導入促進、地域のエネルギー自給率の向上、災害時のエネルギー供給等を目的とし、エネルギー関連のサービスを提供する。特に、公共施設やインフラに関連した再生可能エネルギーの導入を推進する。
(iii) インフラソリューション事業
インフラのライフサイクルを通したトータルソリューションを提供する。特にインフラの長寿命化対策、循環型社会に対応した資源再利用及びスマートインフラによる情報活用を推進する。
(e) 合成鋼管1・2・5・6種の追加
合成鋼管とは、外側部分の鋼管と内側部分のコンクリートが一体化したものであり、同社が提供する合成鋼管には次の特徴がある。1) 外圧に対するひび割れ荷重が大きく大深度での施工が可能、2) 外圧管に対するひび割れ耐力が大きいため、曲線部を含む長距離推進が可能、3) 有効長を短くできるため、小立坑発進やシールド坑内からの発進が可能、4) 本体強度及び止水性能が高いため、シールドへの直接接続管及び雨水貯留管として使用が可能、5) 高い内圧強度(0.6MPa又は1.2MPa)を有しており、内圧管として使用可能、6) 管本体は高耐荷力を有するため、大きな開口加工が可能、7) 大深度施工、高水圧推進施工の際に用いるバッキングインサートの取り付け加工が可能、8) 高い外圧強度を有し、空伏せ部への使用が可能などである。これらの特徴を有することにより、開発が進んだ都市部においても必要最低限の工事で効率的に浸水対策を実施することを可能にしている。政府が国土強靭化、防災・減災を推進するなかでニーズは旺盛であり、今後も同社の業績に寄与していくことが期待できる。
既に昨年開発し、ラインナップを拡充した合成鋼管が業績に寄与し始めている。新たに1・2・5・6種のタイプを追加したことにより、より施主のニーズに細かく対応することを可能にした。これにより、オーバースペック製品の使用を避けることができるようになる。加えて、工事費用の最適化にもつながる。また、6種の強度を持つ製品はほかの企業は開発していないため、積極的に営業活動を行う方針だ。また、電力工事などの際に有効利用できるため、今後は下水道以外にも民間分野に用途を拡大するとしている。
(f) ICT施工管理システム Pile-ViMSys(パイルヴィムシス)
同社は、杭施工管理のDXにも積極的に取り組んでいる。具体的には、ICT施工管理システム「Pile-ViMSys(R)」を開発した。同システムでは、杭施工管理装置で取得したすべての計測データをクラウドにオンタイムで自動アップロードする機能を搭載しており、インターネットに接続することで、杭工事管理者、設計者・工事監理者・監理技術者、工事発注者も含めたすべての工事関係者が、パソコンやタブレット等で現場から離れた場所にいても杭の施工状況を確認することができる。これにより、現場作業の軽減による安全性の向上や原価低減等が期待できる。システムに対する顧客からの評価は好評だと言う。現在は2023年3月期中の全国展開を目指して、導入を推進中である。今後は既成杭施工管理システムのデファクトスタンダードになることを目標に展開を加速する計画である。現在、工事現場の生産性向上の観点から政府がi-Constructionを推進している。こういった外部環境のなかで、顧客が杭工事を選定する際に大きな訴求力を持つと弊社は考える。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
《SI》
提供:フィスコ