ワコム Research Memo(8):「テクノロジーソリューション事業」がここ数年の業績の伸びをけん引
■ワコム<6727>のこれまでの業績推移
コロナ禍以前の2020 年3 月期までの売上高推移を見ると、2017 年3 月期にいったん大きく落ち込んだのは、円高に加え、過度な社内IT インフラ投資、製品サイクルの移行等の影響が重なったことが理由である。その後は、「テクノロジーソリューション事業」の伸びとともに回復したものの、「ブランド製品事業」については縮小傾向をたどり、「ブランド製品事業」のマイナスを「テクノロジーソリューション事業」のプラスでカバーする構造が続いてきた。もっとも、2021 年3 月期はコロナ禍をきっかけとしてオンライン教育向けなどを中心に「ブランド製品事業」が急拡大すると、巣ごもり需要が一巡した2022 年3 月期もプロ向けディスプレイ製品や「テクノロジーソリューション事業」の伸びにより、2 期連続で過去最高売上高を更新した。
なお、「ブランド製品事業」が2020 年3 月期まで縮小傾向にあったのは、主力となってきた「ペンタブレット製品」における中低価格帯での競争激化に対して、「ディスプレイ製品」への戦略的な需要シフトで十分に埋め合わせできなかったことが理由である。ただ、「ディスプレイ製品」は、利益率の高いエントリーモデルも新たな市場を開拓しつつあり、さらにプロ向けも新たな需要を取り込みながら伸びてきたことから、売上高の中身(構成比) が変化しつつあることには注意が必要である。
一方、「テクノロジーソリューション事業」におけるここ数年の伸びは、タブレット・ノートPC 向けペン・センサーシステムの市場拡大に加え、スマートフォン向け(特に、サムスン電子のGalaxy シリーズ向け)も機能強化等の効果により、好調に推移していることが理由である。
損益面では、営業赤字となった2017 年3 月期を除くと、積極的な研究開発や新製品開発をこなしながら営業利益率は4% 台から6% 台で徐々に改善してきた。2021 年3 月期以降は、増収に伴う収益の押し上げや製品ミックスの改善、販管費の最適化等により2 期連続で高い利益率を確保している。
財務面では、減損損失の計上により大幅な最終損失となった2017 年3 月期の自己資本比率はいったん低下したが、その後は内部留保の積み増しにより改善傾向にあり、当面の財務健全化の目安である60% に近づいてきた。また資本効率を示すROE やROIC も高水準で推移しており、同社の財務内容は非常に優れていると評価できる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
《NS》
提供:フィスコ