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【特集】生成AI戦国時代へ突入! Amazon勝利の方程式とは? アマゾン・ドット・コム⑨ Buy&Hold STORIES-4-
アマゾン・ドット・コム<AMZN>
第3章Part9
- 第1章 アマゾン始動‥ネット書店開店、そしてドット・コム・バブルへ
- 第2章 株価低迷期にアマゾン躍進を担う2大プロジェクトが始動!
- 第3章 膨張するアマゾン帝国、「4本目の柱」は何か?
第3章 膨張するアマゾン帝国、「4本目の柱」は何か?
9.生成AI戦国時代へ突入! Amazon勝利の方程式とは?
※株価単位はドル。株式分割を考慮後の修正値
「生成AI」ブームが到来、開発競争でしのぎを削るビッグ・テックそれぞれの道
2022年11月30日、大規模言語モデル(LLM)を採り入れた生成AI(人工知能)チャットボット「Chat(チャット)GPT」が公開された。開発したオープンAIは、いまではエヌビディア<NVDA>とともにAIイノベーションのアイコンと呼べる存在となっているが、この時点での日本での知名度はそれほど高くなく、公開前後は一般メディアによる報道も多くはなかった。
オープンAIの設立は2015年。AI開発で先行していたグーグル(現アルファベット<GOOG>)の対抗勢力として、テスラ<TSLA>CEO(最高経営責任者)のイーロン・マスクなどの支援を受けて非営利事業としてスタートした。『ニューヨーク・タイムズ』誌によると24年2月時点で、非上場のユニコーン企業としては、「TikTok(ティックトック)」親会社のバイトダンス、マスク率いる宇宙ベンチャー、スペースXに次ぐ世界第3位の市場価値を有していたというが、24年9月に同社は9600億ドルの資金を調達したと発表し、市場価値は1570億ドルまで増大したため、順位はさらに上がっているかもしれない。
そもそも、AIの開発は、ビッグ・テック各社がIT革命の未来像として、2000年代から取り組んできた"夢の技術"だった。アップル<AAPL>の「Siri(シリ)」やアマゾン・ドット・コム<AMZN>の「Alexa(アレクサ)」、グーグルの「グーグルアシスタント」など、日本でもなじみ深い音声AIはその具体例と言えるだろう。だが、各社各様に進められてきたAI技術の開発競争は、「チャットGPT」の誕生によって一変した。収集した膨大なデータをもとに、より人間に近い形で答えを導くことができる生成AI技術が実用化されたことによって、AI開発の潮流はこの技術を中心に動くようになったのだ。
まず、「チャットGPT」の出現に真っ先に反応したのはグーグルだった。オープンAIの「チャットGPT」から遅れること2カ月、2023年2月6日に独自開発したLLM搭載のAIチャットボット、「Bard(バード)」(現「Gemini(ジェミニ)」)を発表したのだ。しかし、これが大失態を招いた。多くの観衆を前に行われたデモンストレーションで、「バード」は明らかな誤答をしてしまったのだ。
生成AIが現時点で完璧な知能を持っていないことは、日常で生成AIを利用するようになってきた多くのユーザーにとっては周知のことかもしれない。でたらめな情報を生成AIがあたかも真実のように答えてしまう現象、「ハルシネーション」という言葉も一般化しつつある。だが世間が、そして株式マーケットが一躍、次世代最大のイノベーションとして生成AIに注目し始めた時期に、衆人環視のもとで行われたイベントで、最先端のテクノロジーを持っているはずの同社がこうした失態を犯すとは誰も思っていなかった。このデモを受け、翌日の同社の株価は一時、9%も下落したほどだ。
生成AIムーブメントを、有力プレーヤーたちの動向にフォーカスして検証した、『生成AI真の勝者 5つの覇権争いの行方』(島津翔著:日経BP刊)によると、グーグルがこうした失態を演じたのは「我々が生成AI技術開発の先頭を走っていたはずだ」という自負が背景にあったからだという。
さかのぼること10年前の2014年1月、グーグルは当時、AI研究の最先端組織と目されていた英国のディープマインド・テクノロジーズ(現グーグル・ディープマインド)をイーロン・マスクらとの買収合戦に勝ち抜き手中に収めた。同社は収集した膨大なデータをコンピュータが自動解析する「ディープラーニング(深層学習)」技術の最先端企業だった。以来、最先端のAI開発を進めていたつもりだったグーグルが、突如現れた「チャットGPT」に焦りを感じたことがこの失態に繋がった、という分析だ。
一方、グーグルと明暗を分けたのはビッグ・テックのライバル、マイクロソフト<MSFT>だ。2010年代までのAI開発競争では存在感が薄かった同社だが、それまで純粋な非営利法人として研究・開発を進めていたオープンAIが営利部門を設立した2019年にいち早く10億ドルを出資し、AI開発競争に本格参入。23年1月にはさらに100億ドル超と推定される追加出資を発表し、オープンAIの技術を独占的に利用できる唯一のクラウド事業者となり、生成AI初動期のアドバンテージを獲得した。
そして迎えた2024年、世界の株式マーケットはまさに、生成AI一色と言っていい相場に突入した。まず注目されたのは、生成AIに不可欠の半導体、GPU(画像処理半導体)で圧倒的なシェアを持つエヌビディアだ。同社はゲーミングに特化した半導体メーカーとしてトップの地位を築いていたが、23年年初の時点では、株価は14ドル台(24年6月の1:10の株式分割を反映)に過ぎなかった。現在の100ドル超の株価を見慣れた目には、不思議な安さとすら映ってしまう。
ところが生成AIの誕生によって株式市場の様相は一変した。これまでのCPU(中央演算装置)に代わって、GPUこそがAI時代の半導体のコアになることを多くの人が認識するとともに、同社が続々と発表する最先端AI半導体を巡って争奪戦が展開されていることが明らかになったのだ。
結果として24年1月期の同社は、売上高が前年同期比で2.3倍、最終利益は同6.8倍と、株式マーケットが想定する以上の業績の飛躍を見せ、年間売上高で長年にわたり半導体産業のトップを競ってきたインテル<INTC>やサムスン電子の半導体部門を抜き去り、自社製品を開発する半導体メーカーのトップへと躍り出た。23年の1年間で株価も14ドル前後から50ドル前後の水準へと急上昇。さらに24年に入ってからも四半期決算ごとに市場の期待を上回る成長を見せ、アップル、マイクロソフトと並ぶ時価総額3兆ドル企業へと躍進を遂げたことは今さら詳しく説明するまでもないだろう。
生成AIの名のもとに、株式マーケットが次にクローズアップしたのは、サーバーやメモリー半導体の分野だ。エヌビディアとの強力なパートナーシップによって生成AI向けサーバーで先行したスーパー・マイクロ・コンピューター<SMCI>や、GPUとともに生成AIに欠かせない半導体であることが判明したHBM(広帯域メモリー)で優位に立つ韓国のSKハイニックス、マイクロン・テクノロジー<MU>などのメモリー半導体メーカーが、新たに生成AIムーブメントで重要な役割を担う存在として、にわかに株式市場の評価を高めていった。
一方、世界のハイテク産業の中心、GAFAM各社の間では、生成AIをキーワードとして、これまで以上に熾烈な覇権争いが始まっていた。オープンAIへの資本参加によって、いち早く同社の生成AIを自社サービスに組み込んだマイクロソフトが先行し、それを各社が追いかけるという構図だ。24年1月から2月にかけての株式市場は、各社が決算発表で生成AIへの投資と今後の事業計画を競うように打ち出し、それに応じて株価が上下するという、まさに「AI相場」の様相を呈していた。
例えばこの数年、「iPhone」の性能向上で世界のスマホ市場をリードし、時価総額トップが定位置となっていたアップルは、スマホにこだわるあまりか、他社に比べて生成AIへの取り組みが遅れているとマーケットに懸念され、24年に入っての「AI相場」の中でただ1社、株価が低迷。2020年7月から23年12月まで維持していた時価総額首位の座をマイクロソフトに譲り、一時はエヌビディアにも抜かれて3位にまで沈んだ。
だがアップルは、2024年5月の24年9月期第2四半期決算発表で巨額の自社株買いを発表するとともに、6月の年次開発者イベントで生成AIを組み込んだ「アップルインテリジェンス」を発表すると、株価は瞬く間に復調し、7月には時価総額首位の座を取り戻した。「生成AIへの取り組みイコール企業の成長性を示すバロメーター」というのが24年前半を通しての株式マーケットのセオリーとなった。
そして、生成AIムーブメントの初動期と言われる現時点での生成AI開発競争の主戦場は、大手3社を中心としたクラウド・コンピューティングの世界へと移行していった。近年、クラウド・コンピューティングの世界では、「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」を擁するアマゾンが圧倒的な市場シェアを獲得し、マイクロソフトの「Azure(アジュール)」とグーグルの「グーグル・クラウド」がそれに続くという構図が定着していた。
だが、「チャットGPT」を自社のクラウド・サービスに組み込んだアジュールがこの2年で急速にシェアを伸ばし、最大手のAWSを猛追。2018年までは倍以上のシェアの開きがあった両者だが、24年第1四半期はAWSの31%に対してアジュールは25%にまで迫った。
逃げるAWSと追うアジュール。これが現在のクラウド・コンピューティングの大勢となった。とは言え、ライバル2社の生成AI戦略は対照的だ。生成AI開発競争で先行したマイクロソフトは、アジュールを通して独占提供しているオープンAIの「チャットGPT」を生成AIサービスの中心に置いている。そして言わずもがなだが、同社が圧倒的な世界シェアを誇るOS「ウィンドウズ」と、ビジネスソフト「オフィス」のアプリケーション群に「チャットGPT」を搭載し、多くのクライアント企業に生成AIサービスを提供しようとしている。
「社名は『オープン』なのに『クローズド』な企業」(『生成AI真の勝者 5つの覇権争いの行方』)。SNS上でこんな揶揄も飛び交うほど、生成AIの開発はあくまで閉鎖的な環境で進め、それをマイクロソフトの販売リソースを生かして外部に販売する、という手法だ。一方、迎え撃つアマゾンのAWSはどのような生成AI戦略を進めているのだろうか。
「ジャシーズ・レター」で語られたアマゾンの生成AI戦略とは?
マイクロソフトの手法とは一線を画すアマゾン独自の生成AI戦略は、毎年恒例の「株主への手紙(ジャシーズ・レター)」に見ることができる。24年春のレターで、アンディ・ジャシーは多くの投資家が期待していたであろう生成AI戦略について、こんな言葉を記している。
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