【特集】清水満昭(東洋証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―
堅調に推移してきた日米の株式相場が不安定さを増している。9月末には自民党の総裁選で石破茂氏が勝利し、政策の不透明感から日経平均株価が急落する場面があった。米国では景気後退への懸念が強まり始めており、買い進める動きは少ない。11月には米大統領選が控えており、その行方は混迷を深めている。ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエル軍とイスラム組織ヒズボラ、ハマスなどとの衝突も収束のメドがつかない。アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第30回は、東洋証券の清水満昭・投資情報部長に話を聞いた。
●清水満昭(しみず みつあき)
―― 日経平均株価が乱高下するなど株式市場の先行きに不透明感が漂っています。半年後(2025年3月末)の日米の株価をどう予想しますか。
清水:私は半年後の日経平均株価は3万7000~3万9000円程度だと予測しています。半年後のS&P500種株価指数は5900ポイント程度だと予測しています。日米の株式相場はともに年末は上昇基調にありますが、来年以降は利食い目的の売りが出るでしょう。この半年間の日経平均株価の高値は4万1000円程度だとみています。
―― 半年後の米株価はやや上昇するという予想かと思います。米国では11月に大統領選を控えています。株価予想の背景を教えてください。
清水:米連邦準備理事会(FRB)が9月に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で、短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.5%引き下げました。労働市場の悪化に先手を打ち、設備投資や住宅投資、個人消費の活性化も期待できます。FRBが適切に金融政策を実施していけば、米景気はソフトランディング(軟着陸)またはノーランディングのシナリオになりやすくなります。米株式相場はインフレの動きを注視しながらも堅調に推移するとみられます。
また、短期的には10~12月の株式相場は高パフォーマンスです。「セル・イン・メイ(5月に株を売れ)」は欧米の相場格言ですが、これには「バット・バイ・バック・イン・セントレジャーズデー」という続きがあります。セントレジャーとは秋に実施される英国の競馬レースです。調べたところ、2000~23年のS&P500の月別平均パフォーマンスは、10月が前年同月比1.4%、11月は2.05%、12月は0.74%の上昇と堅調に推移していることがわかりました(図1)。ヘッジファンドが11月に買いを入れるのに加え、10月には夏休みだった市場参加者が戻ってくることなどが背景にあります。
図1 2000~2023年のS&P500の月別平均落率(前月末比)
―― 11月には大統領選が実施されます。株式相場との関係が深い金融政策にも影響があるのではないですか。
清水:どちらが大統領になっても金融緩和の方向性は変わらず、米景気を下支えするでしょう。ただ、トランプ氏が大統領になれば、より緩和色が強まるとみられます。
―― FRBが過度な利下げを実施した場合、再び米物価が大幅に上昇する可能性はありませんか。
清水:11月のFOMCで政策金利を0.5%下げれば、市場関係者は「それほど米景気は良くないのか」「不況と高インフレが共存するスタグフレーションのリスクが出てきた」という印象を持つでしょう。金利の急激な引き下げはドル安や輸入物価の急騰を受けた物価高につながるためです。つまり、大幅に利下げしたことがかえって株式相場にはマイナスになってしまいます。
―― 日本では1日に石破内閣が発足しました。石破首相は1日の記者会見では「岸田政権で進めてきた成長戦略を着実に引き継いでいく」「資産運用立国の政策を発展させる」と表明しました。
清水:市場関係者は石破氏が自民党総裁に選出された当初は動揺し、日本の株式相場も急落しました。自民党総裁選での高市早苗氏の勝利を見込んだ「円安・株高トレード」の持ち高を巻き戻す動きが強まったためです。しかし、石破氏がその後、早期利上げに慎重な姿勢を示したことから落ち着きを取り戻しつつあります。石破氏は「岸田政権の踏襲」を標ぼうしているため、当面は経済政策に大きな変化はないでしょう。今後の株式市場では解散・総選挙絡みの買いが入ると予想しています。
とはいえ、就任前、石破首相は日銀の政策正常化に一定の理解を示してきただけに、中期的には日米金利差の縮小を受けた円高・ドル安になる可能性があります。円高を受けた輸出関連株への売りが再燃しやすくなります。
―― 石破首相は就任前に金融所得課税の強化を唱えていたとされ、市場関係者の一部が懸念しています。
清水:石破首相がすぐに課税強化に動くとは思えませんが、仮に実施するとしても株式市場に大きな悪影響を及ばさないよう配慮するでしょう。例えば、新NISA(少額投資非課税制度)はそのままにして、その他の株式投資の一部について課税を強化することは考えられます。マーケットに配慮したとしても、金融所得課税の強化は「貯蓄から投資」を進める従来の政策と異なる動きとなります。永田町・霞が関や世論から強い反対を受ける可能性があり、実現するかどうかもわかりません。
―― 石破首相は法人税増税も検討しているとも言われます。
清水:日本では賃金上昇がインフレに追いついておらず、実質賃金が下がり続けるとみています。法人税が増税されれば、賃上げのペースはさらに落ちるでしょう。株価は円安に伴って上がりますが、個人消費が盛り上がらない「実感なき株高」になると考えられます。個人が個人消費のレベルをダウングレードさせるために、安売りを強みとする小売りチェーンなどの業績が拡大するでしょう。
―― 株式相場は波乱含みの展開ですが、個人投資家へのメッセージは。
清水:外部環境に振り回されず、地道に積み立て投資を続けていくことが重要です。投資初心者であれば、S&P500などのインデックス投資が良いでしょう。金額は少額でも良いと思います。積み立て続ければ、十数年後に価値が数倍になっている可能性が高いと思います。株価が下落したからといって、投資をやめなければ中期的には上昇局面がきます。
―― 日本の株式市場で注目するセクターは。
清水:石破内閣は地方創生、弱者救済、防災関連の公共事業の活発化などを標ぼうしています。地方の中堅以下の建設業、旅行、宿泊、百貨店、ドラッグストアなどインバウンド関連、防衛関連銘柄などに注目しています。
(※聞き手は日高広太郎)
株探ニュース
●清水満昭(しみず みつあき)
東洋証券株式会社 投資情報部 部長
1980年5月神奈川県生まれ。2005年4月東洋証券入社。同社広島支店をはじめ、国内の営業店にて、顧客ニーズをヒアリングし、最適な提案を行うソリューション営業に従事。2023年より現職。
1980年5月神奈川県生まれ。2005年4月東洋証券入社。同社広島支店をはじめ、国内の営業店にて、顧客ニーズをヒアリングし、最適な提案を行うソリューション営業に従事。2023年より現職。
清水満昭氏の予測 4つのポイント | |
(1) | 半年後の日経平均株価は3万7000~3万9000円程度 |
(2) | 半年後のS&P500種株価指数は5900ポイント程度、10~12月は例年上昇傾向 |
(3) | 石破首相は岸田前首相の経済政策を踏襲。中期的にはリスクも残る |
(4) | 地方創生、防災関連の銘柄などに注目 |
―― 日経平均株価が乱高下するなど株式市場の先行きに不透明感が漂っています。半年後(2025年3月末)の日米の株価をどう予想しますか。
清水:私は半年後の日経平均株価は3万7000~3万9000円程度だと予測しています。半年後のS&P500種株価指数は5900ポイント程度だと予測しています。日米の株式相場はともに年末は上昇基調にありますが、来年以降は利食い目的の売りが出るでしょう。この半年間の日経平均株価の高値は4万1000円程度だとみています。
―― 半年後の米株価はやや上昇するという予想かと思います。米国では11月に大統領選を控えています。株価予想の背景を教えてください。
清水:米連邦準備理事会(FRB)が9月に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で、短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.5%引き下げました。労働市場の悪化に先手を打ち、設備投資や住宅投資、個人消費の活性化も期待できます。FRBが適切に金融政策を実施していけば、米景気はソフトランディング(軟着陸)またはノーランディングのシナリオになりやすくなります。米株式相場はインフレの動きを注視しながらも堅調に推移するとみられます。
また、短期的には10~12月の株式相場は高パフォーマンスです。「セル・イン・メイ(5月に株を売れ)」は欧米の相場格言ですが、これには「バット・バイ・バック・イン・セントレジャーズデー」という続きがあります。セントレジャーとは秋に実施される英国の競馬レースです。調べたところ、2000~23年のS&P500の月別平均パフォーマンスは、10月が前年同月比1.4%、11月は2.05%、12月は0.74%の上昇と堅調に推移していることがわかりました(図1)。ヘッジファンドが11月に買いを入れるのに加え、10月には夏休みだった市場参加者が戻ってくることなどが背景にあります。
図1 2000~2023年のS&P500の月別平均落率(前月末比)
―― 11月には大統領選が実施されます。株式相場との関係が深い金融政策にも影響があるのではないですか。
清水:どちらが大統領になっても金融緩和の方向性は変わらず、米景気を下支えするでしょう。ただ、トランプ氏が大統領になれば、より緩和色が強まるとみられます。
―― FRBが過度な利下げを実施した場合、再び米物価が大幅に上昇する可能性はありませんか。
清水:11月のFOMCで政策金利を0.5%下げれば、市場関係者は「それほど米景気は良くないのか」「不況と高インフレが共存するスタグフレーションのリスクが出てきた」という印象を持つでしょう。金利の急激な引き下げはドル安や輸入物価の急騰を受けた物価高につながるためです。つまり、大幅に利下げしたことがかえって株式相場にはマイナスになってしまいます。
―― 日本では1日に石破内閣が発足しました。石破首相は1日の記者会見では「岸田政権で進めてきた成長戦略を着実に引き継いでいく」「資産運用立国の政策を発展させる」と表明しました。
清水:市場関係者は石破氏が自民党総裁に選出された当初は動揺し、日本の株式相場も急落しました。自民党総裁選での高市早苗氏の勝利を見込んだ「円安・株高トレード」の持ち高を巻き戻す動きが強まったためです。しかし、石破氏がその後、早期利上げに慎重な姿勢を示したことから落ち着きを取り戻しつつあります。石破氏は「岸田政権の踏襲」を標ぼうしているため、当面は経済政策に大きな変化はないでしょう。今後の株式市場では解散・総選挙絡みの買いが入ると予想しています。
とはいえ、就任前、石破首相は日銀の政策正常化に一定の理解を示してきただけに、中期的には日米金利差の縮小を受けた円高・ドル安になる可能性があります。円高を受けた輸出関連株への売りが再燃しやすくなります。
―― 石破首相は就任前に金融所得課税の強化を唱えていたとされ、市場関係者の一部が懸念しています。
清水:石破首相がすぐに課税強化に動くとは思えませんが、仮に実施するとしても株式市場に大きな悪影響を及ばさないよう配慮するでしょう。例えば、新NISA(少額投資非課税制度)はそのままにして、その他の株式投資の一部について課税を強化することは考えられます。マーケットに配慮したとしても、金融所得課税の強化は「貯蓄から投資」を進める従来の政策と異なる動きとなります。永田町・霞が関や世論から強い反対を受ける可能性があり、実現するかどうかもわかりません。
―― 石破首相は法人税増税も検討しているとも言われます。
清水:日本では賃金上昇がインフレに追いついておらず、実質賃金が下がり続けるとみています。法人税が増税されれば、賃上げのペースはさらに落ちるでしょう。株価は円安に伴って上がりますが、個人消費が盛り上がらない「実感なき株高」になると考えられます。個人が個人消費のレベルをダウングレードさせるために、安売りを強みとする小売りチェーンなどの業績が拡大するでしょう。
―― 株式相場は波乱含みの展開ですが、個人投資家へのメッセージは。
清水:外部環境に振り回されず、地道に積み立て投資を続けていくことが重要です。投資初心者であれば、S&P500などのインデックス投資が良いでしょう。金額は少額でも良いと思います。積み立て続ければ、十数年後に価値が数倍になっている可能性が高いと思います。株価が下落したからといって、投資をやめなければ中期的には上昇局面がきます。
―― 日本の株式市場で注目するセクターは。
清水:石破内閣は地方創生、弱者救済、防災関連の公共事業の活発化などを標ぼうしています。地方の中堅以下の建設業、旅行、宿泊、百貨店、ドラッグストアなどインバウンド関連、防衛関連銘柄などに注目しています。
(※聞き手は日高広太郎)
◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。
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