市場ニュース

戻る
 

【特集】何が起こっている? 歴史的暴落に遭遇した東京市場の着地点 <株探トップ特集>

きょう(2日)の東京株式市場は日経平均が2000円を超える暴落に見舞われた。だが、大底を叩いた感触はまだない。果たして大波乱相場の着地点はどこか。

―日銀ショックによる円高の破壊力、そしてリスクオフの正体は半導体過剰人気の剥落―

 週末2日の東京株式市場は歴史的暴落といっても過言ではない下げに見舞われた。日経平均株価の下げ幅は2000円を超え、結局2216円63銭安の3万5909円70銭とこの日の安値圏で取引を終えた。下落幅の大きさはバブル崩壊初動の1990年4月2日に記録した1978円38銭を上回り歴代2位の記録である。値下がり銘柄数は1600を上回り、プライム市場全体の99%の銘柄が下落した。

 前日に日経平均は終値ベースで975円安と1000円近い下げをみせていたのだが、そこから更に下げ足を加速させる展開にマーケットにも強い緊張が走っている。果たしてこの苛烈な下げは続くのか、それとも過度な不安心理のなせる業で、ここは強気に買い向かうべきなのか。売買代金も増勢顕著となるなか、良くも悪くも夏枯れ相場返上の鉄火場と化している。思惑が錯綜する真夏の東京市場の行き先はどこか。

●最高値から3週間で6300円超の下落

 きょうは朝方取引開始前から異様な雰囲気に包まれていた。前日の日経平均急落の余韻冷めやらぬなか、欧州時間に入っても買い手控えムードは拭えず、ドイツやフランス、英国など主要国の株価指数は軒並み軟調で、リスクオフの高波は米国株市場にも及んだ。ハイテク株への売りが目立ち、ナスダック総合株価指数は400ポイントを超える下げで大陰線を引いた。特に半導体関連はエヌビディア<NVDA>をはじめ大幅安のオンパレードとなり、フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)は7%を超える暴落となった。

 東京市場では7月11日に4万2224円の史上最高値をつけた。今からわずか3週間前のことである。テクニカル的にはこの日のローソク足が「アイランドリバーサル」という天井圏のシグナルを示現したが、まさかそこから断崖絶壁並みの下り坂が待っているとは誰も想定し得なかったはずである。下げ足の速さはまさに異常で、踊り場を形成しながらも下げ止まらず、マドを複数回開けて売り叩かれる動きが続いた。きょうまでの下げ幅は実に6300円を超え、率にして15%に及んでいる。

●日銀ショックの前に生成AIショック!?

 今回の暴落は直接的には「日銀ショック」とされ、植田和男日銀総裁の想定外の“タカ派変貌”が悪役視されてはいるが、基本的に7月中旬以降の一連の下げはそれとは別の背景がある。7月11日以降、日経平均とSOX指数、つまり米国株市場における半導体銘柄で構成された指数は非常に似通ったトレンドを形成している。ザラ場ベースではSOX指数も同じく7月11日に史上最高値をつけたが、その日のうちに急落モードに転じ、これが海を渡って12日以降の東京市場のリスクオフ相場を先導する格好となっていた。

 これは、「生成AIバブル崩壊ショック」といえば現時点では言い過ぎとなるが、 生成AIで囃(はや)された半導体特需(設備投資特需)が足もとでそれほど期待できないという見方が米国で広がってきたことは確かで、半導体セクターへの利益確定売りを誘導している。当然ながら東京市場にも伝播し、東京エレクトロン <8035> [東証P]を筆頭に半導体関連の主力株が一様に軟化、これらはこれまでの上昇相場の牽引役であるとともに、日経平均の構成比率上位に組み込まれていることもあって、指数押し下げ効果は大きなものとなった。

●「サプライズ利上げ」以前に円高の洗礼

 もう一つは外国為替市場での円高進行である。7月11日を頂点に日経平均が崩れる過程で、ドル・円相場は急速にドル売り・円買いの動きが強まった。日米の中央銀行の政策スタンスが真逆の方向を向いていることから、日米金利差の縮小が改めて意識されたものだ。政府・日銀がいかに円安に対し警戒感を強めていたにせよ、株式市場にとっては「円安=株高」が不文律であり、そのセオリーが崩れたことが地合いを軟化させた。

 こうなると、7月末に発表が予定されていた日銀の金融政策決定会合の結果におのずとマーケットの視線が集中することになる。7月の決定会合では、既に国債の買い入れ減額、いわゆる量的引き締め政策が既に決まっていたが、追加利上げについて市場関係者は見送るであろうという見方が大勢であった。前述のように直近は懸案の円安進行に歯止めがかかっているほか、「住宅ローン金利の上昇などにつながる利上げを急ぐことで消費者マインドを冷やすことの方が懸念される」(中堅証券アナリスト)というのがその理由だ。

●記者会見での植田総裁の変節に仰天

 ところが、日銀は予想を覆し、量的引き締めと0.15%の利上げ(政策金利水準は0.25%)を同時に決定した。極めてハト派寄りのイメージが強かった植田日銀総裁の“英断”は驚きを持って受け止められたが、「なぜここで利上げを急いだのか」について首をかしげる市場関係者は今現在も多い。アベノミクス体制下で確立されたアコード(政府と日銀の政策協定)の流れで、円安是正に対する政治的な圧力がかかったのではないかという穿(うが)った見方もあるが、その真相は明らかではない。ひとつ確かなことは、日銀決定会合の結果を経て円高が一気に加速したことである。

 会合後の記者会見で植田日銀総裁は、経済データ次第で引き続き政策金利を引き上げることに前向きなコメントを示した。「今回追加利上げを決定したこともサプライズだが、それ以上にこの記者会見の受け答えに仰天した」(ネット証券アナリスト)という声も聞かれる。完全なるタカ派マインドへの変化がみられたからにほかならない。

●にわかに浮上してきた米リセッション懸念

 一方、日銀に半日遅れで結果が判明した米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を据え置いたが、パウエルFRB議長は9月の利下げについて珍しくその可能性を示唆した。米経済の減速が鮮明となりつつあることが背景にあるという見方も市場には根強い。そうした折、前日の米国株市場ではNYダウやナスダック総合株価指数など軒並み大きく値を下げたが、これは7月の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数が市場コンセンサスを下回ったことや、週間の新規失業保険申請件数が事前予想を上回り1年ぶりの高水準に膨らんだことなどが嫌気された。

 これまで「バッドニュースはグッドニュース」というのが米国株市場を取り巻くコンセンサスだった。弱い経済指標が明らかになれば、金融緩和的な動きが期待できる、つまり金融相場の観点からポジティブ視されるというものだ。だが、ここに来て風向きは変わった。バッドニュースは、足腰の強い経済を謳歌してきた米国にリセッションの足音を想起させるものとして、マーケットは純粋に怯えている。ともすれば、パウエルFRB議長による慌て気味の“利下げゴーサイン”は証文の出し遅れということにもなりかねない。

●米株高でも円高が止まらなければ買いは尚早

 もっとも米国株市場は、利下げというカードをたくさん懐に忍ばせているFRBが株安ストッパーになってくれるという安心感があるが、東京市場にそれは期待できない。それどころか、植田日銀総裁の記者会見を受け「データ次第とはいえ、12月にもう1回利上げを行うことを青写真に描いているフシがある」(生保系エコノミスト)という指摘もあり、これは、いうまでもなく更なる円高を誘発する構図である。ドル・円相場は足もと1ドル=149円近辺でもみ合うが、これについては「昨年末の円安に反転する直前の水準、141円前後まで円高が進む余地がある」(同)とする。

 米株高でも東京市場は円高という重荷を背負ってそれに追随できないとすれば、前方にはまだ嵐をはらんだ黒雲が漂う。何よりも頼みの綱の企業業績見通しに大幅な修正圧力が働いてしまう。結論としてまだ株価が底値圏に来た感触はなく、ここで安易に買い向かわないことであろう。「日経平均は今年1月中旬から2月上旬のもみ合い水準である3万6000円近辺を下抜けると、年初の3万3000円台前半まで下値を試す可能性がある」(国内投資顧問系ストラテジスト)という見方もある。買うにしても、今はまだ短期リバウンド狙いで打診買いにとどめておくのが賢明といえそうだ。

株探ニュース

株探からのお知らせ

    日経平均