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【特集】国内金は最高値を更新、欧米の金融不安が支援材料に <コモディティ特集>

MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行
 国内金は3月、欧米の金融システム不安を受けて急伸し、現物(店頭小売価格、税込)が9303円、先物(JPX金先限)が8436円と、ともに最高値を更新した。

 米シリコンバレー銀行(SVB)は高金利で預金を集め、債券に投資していた。しかし、米連邦準備理事会(FRB)の急速な利上げを受けて債券が含み損を抱えるなか預金が流出、資金がショートし10日に閉鎖。リーマンショック以降で最大の米銀破綻となった。12日にはニューヨークのシグネチャー銀行も破綻。米当局が預金の全額保護措置を発表したが、15日にはスイスの金融大手クレディスイスの信用不安が広がり、更なるリスク回避の動きとなった。スイス中銀の流動性供給を受けて先行き懸念は一旦後退したが、米ファースト・リパブリック銀行(FRC)の経営不安が伝えられると、再びリスク回避の動きが強まった。複数の大手銀行が支援することで合意したが、株安が止まらなかった。

 週末をはさんでUBSがクレディスイスを買収することで合意し、株高に振れる場面も見られたが、自己資本拡充のため「その他ティア1債」(AT1債)の価値がゼロに切り下げられると、一部のアジアの金融機関が売られた。その後は米ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)傘下のフラッグスター・バンクがシグネチャー銀行を買収することで合意したことなどを受けて株安が一服した。

 SVBは買い手がみつからず、解体して売却される見通しとなった。米FRBの連銀窓口貸出制度を通じた借り入れは15日までの1週間で1528億5000万ドルと前週の45億8000万ドルから急増し、過去最高を記録した。これはリーマンショック時に記録した1110億ドルを上回り、金融機関が債券の含み損に対応する格好となった。

 当面はSVBとFRCの行方が焦点であるが、金融首脳がFRCを巡って協議しており、金融システム不安は一服している。

 ただ、現物相場は2008ドル台で上げ一服となり、大台を維持できなかった。月足で見ると、2020年8月に2072ドル、2022年3月に2067ドルまで上昇したが、長い上ヒゲが出て上げ一服となった。新型コロナウイルスの感染拡大による景気減速懸念、ロシアのウクライナ侵攻が買い材料となったが、逃避買いが買い戻しを促し、急伸すると、換金売りに上値を抑えられた。今回は金融システム不安が支援要因になったが、機関投資家は債券に含み損を抱えており、ポートフォリオに金があれば高値で売って相殺するとみられる。国内で最高値を更新し、海外で更新できなかったことは日本銀行と欧米の金融政策の違いで円安に振れやすいことが背景にある。

●欧米の利上げ見通しと中露の行方も確認

 欧州中央銀行(ECB)は16日の理事会で0.50%ポイントの大幅利上げを決定した。クレディスイスの信用不安が高まったが、ラガルドECB総裁は理事会後の記者会見で高水準のインフレが続くとの見通しを示し、インフレ対応を優先したことを明らかにした。2月のユーロ圏の消費者物価指数(HICP)改定値は前年比8.5%上昇と前月の8.6%上昇から鈍化したが、2%の中期的なインフレ目標を達成するにはまだ時間がかかる。

 一方、今夜は米連邦公開市場委員会(FOMC)が焦点である。金融システム不安を受けて利上げの一時停止を見込む向きも多いが、CMEのフェドウォッチでは、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標水準は4.75~5.00%の確率が86.4%と0.25%利上げを織り込んでいる。2月の米消費者物価指数(CPI)は前年比6.0%上昇と前月の6.4%から減速し、2021年9月以来の伸びになったが、ECB同様、インフレ目標達成には時間がかかる。金融システム不安でどの程度、景気が減速するかが当面の焦点である。

 中国の習国家主席がロシアを訪問し、プーチン大統領と会談した。習国家主席は露政府紙「ロシア新聞」に「中国は常に客観公正の立場で和平交渉を促す」、プーチン大統領は中国共産党機関紙「人民日報」に「中国のウクライナ問題に対するバランスの取れた態度に感謝する」と寄稿し、中露関係の重要性を示した。会談ではウクライナ停戦で中国の仲介案について協議し、プーチン大統領は対話解決の基礎とすることができるとの見方を示した。ただ、国際刑事裁判所(ICC)がプーチン大統領に戦争犯罪の疑いで逮捕状を出すなかでのロシア訪問であり、ブリンケン米国務長官は、中国がロシアの責任を問うべきと考えていないとの見方を示している。欧米企業がロシアから撤退したところに中国の企業が進出しており、今後の中露関係の行方を確認したい。

●金ETFに逃避買い

 世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は、3月20日に924.55トン(1月末917.06トン)に増加した。米FRBの利上げ長期化見通しを受けて投資資金が流出したが、SVBが閉鎖された10日以降は23.13トン増加し、逃避買いが入った。

 一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは3月7日時点で9万8474枚(前週10万8593枚)に縮小し、昨年11月8日以来の低水準となった。米FRBの利上げ長期化見通しを受けて手じまい売り、新規売りが出た。なお14日時点では14万0331枚まで急増している。

(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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