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【特集】止まらぬ石油市場の地殻変動、サウジ・イラン国交再開は分断拡大を示唆 <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

●サウジとイランの国交再開を中国が取り持つ衝撃

 中国の仲介によって、サウジアラビアとイランが外交関係を再開することで合意した。2ヵ月以内に双方が大使館を再開させる。2016年の大使館襲撃事件を受けて、サウジはイランと断交していたほか、2019年にはサウジの石油関連施設に対して無人機による大規模な攻撃があり、サウジはイランの企てであると非難していた。

 中東の覇権を争うイスラム教シーア派とスンニ派の両国が、宗教的対立やイエメンなどで続く代理戦争を越えて和解しようとしていることには驚くしかない。原油相場に織り込まれているリスク・プレミアムは低減しそうだ。すでに一部の報道で伝えられているように、これを機にイエメン紛争が終結するようであれば、イエメンからサウジに向けたミサイル攻撃は完全に停止するだろう。中国は歴史的に最も凄惨な紛争の終結を主導したことになる。ウクライナ紛争について中国が示した和平案が欧米諸国に相手にもされなかったこととは対照的である。

 この件についてインドは関与していないが、世界有数の石油消費国である中国やインドとロシアを含めた石油輸出国機構(OPEC)プラスは外交的な距離を着実に縮めている。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、中国やインドはロシア産原油の最大の取引先となったほか、イランが兵器級のウラン濃縮に成功しようとしているなかで、中国の仲介のもとサウジとイランが外交再開にこぎつけたことは欧米主導の世界地図が否応なく塗り替えられていることを意識させる。先週、1月にイランがロシアに大量の弾薬を供給したとも伝わっており、イランに対する不穏な動きが発生する前にサウジや中国が西側を外交再開でけん制した構図となっていることは、ただの偶然とは思えない。

●西側の石油統計が存在感を失う恐れ

 中東やロシアなど世界有数の産油国が世界有数の石油消費国であるインドや中国と結びつきを強化すると何が起こるのか。指標原油の値動きは経済協力開発機構(OECD)加盟国の商業在庫の動きにほぼ依存していると言っても過言ではないが、中国やインドはOECDには加盟しておらず、両国に中東やロシアの石油供給が増えれば増えるほど、OECDの商業在庫は原油相場の値動きに関与する力を失っていく可能性がある。石油の市場参加者はこの商業在庫のトレンドを予想することで相場を見通そうと努力しているものの、世界的な石油在庫の指針は代表的な指針ではなくなりつつある。

 ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに欧米主導の世界秩序は間違いなく変わりつつあり、西側と非西側の分断は鮮明となってきている。脱炭素社会への移行もあって、石油取引の中心がインドや中国に更に移っていくと、石油市場の市場参加者に頼りにされてきた西側の石油統計の存在感は薄れる一方だろう。石油統計の西側離れである。

 もっと幅広く言えば、コモディティ市場の西側離れである。コモディティの価格を決定する取引の中心が非西側に移り、売買の手がかりとなる統計も非西側が中心となっていくのではないか。世界的な石油在庫統計は共同石油統計イニシアチブ(JODI)も公表しており、OECDの商業在庫に対する関心が離れても市場参加者が拠り所をなくすような事態とはならないだろうが、石油市場の地殻変動は止まりそうにない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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