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【特集】エンジェルか、事業会社か スタートアップ分析に必要な「財務戦略」という視点 ロジカ・エデュケーションの事例

村上茂久のスタートアップ投資術-新世代アップルの見つけ方-(4)

【タイトル】村上茂久
株式会社ファインディールズ代表取締役、GOB Incubation Partners株式会社フェロー、iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。大学院の経済学研究科を修了後、新生銀行で証券化、不良債権投資、不動産投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事。2018年より、GOB Incubation Partners株式会社のCFOとして新規事業開発、起業支援、スタートアップファイナンス支援業務等を手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズを創業。著書に「決算書ナゾトキトレーニング 7つのストーリーで学ぶファイナンス入門」「一歩先の企業・株価分析ができる マンガでわかる 決算書ナゾトキトレーニング」(PHP研究所)がある。

 スタートアップ企業(ベンチャー企業)の市場は年々成長し、2021年に資金調達額が7801億円(1919社)を記録するなど、近年、日本でも盛り上がりを見せています。

 本連載では、株式投資型クラウドファンディングのプラットフォームである「FUNDINNO」を通じて資金調達を行った企業を毎回取り上げ、スタートアップ企業のビジネスモデルや成長戦略について、これまで、数多くのスタートアップ企業の資金調達支援を行ってきた株式会社ファインディールズ代表取締役の村上茂久さんが考察します。

 村上さんは「スタートアップ企業は情報が少ないものの、調達にあたり、投資家に刺さるポイントがある程度、形式知化されていることも分かってきた」と話します。

 事業が成熟している上場企業とは異なるスタートアップ企業を分析する際、どのような視点が必要とされるのでしょうか。

 第4回は、プログラミング教材の開発・販売及び、プログラミング教室のフランチャイズ事業を行っている教育系ベンチャー企業、株式会社ロジカ・エデュケーションを取り上げるとともに、事業戦略と財務戦略がどのように関係してくるかについて解説します。

プログラミング教材とフランチャイズ事業の2本柱

 ロジカ・エデュケーションが提供するプログラミング教育カリキュラム「ロジカ式」の事業は2つあります。1つ目は、プログラミング教材(図表1)であり、すでに60を超える市町村の教育委員会に教材として採用され、対象児童数は約46万人に上っています。

図表1
【タイトル】

出所:〈60地域以上の教育委員会が採用〉プログラミング教育と社会人教育の融合により、IT言語力と社会人基礎力を育む独自開発の教育カリキュラム「ロジカ式」


 もう1つは、「ロジカ式」プログラミング教室のフランチャイズ展開です(図表2)。全国に約35教室以上を展開しています。

図表2
【タイトル】

出所:〈60地域以上の教育委員会が採用〉プログラミング教育と社会人教育の融合により、IT言語力と社会人基礎力を育む独自開発の教育カリキュラム「ロジカ式」


 このロジカ式は、15年以上に及ぶプログラミング教育と社会人教育の経験を生かして開発されたものです。ロジカ式では、プログラミング学習を通して、点数化できない「非認知能力」と呼ばれる「夢見る力」「耐え抜く力」「考え抜く力」「伝える力」など、働く上で必要な力を身につけることをコンセプトとしています(図表3)。

図表3
【タイトル】

出所:〈60地域以上の教育委員会が採用〉プログラミング教育と社会人教育の融合により、IT言語力と社会人基礎力を育む独自開発の教育カリキュラム「ロジカ式」


事業戦略によって財務戦略は変わってくる

 これまで見てきたように、ロジカ・エデュケーションの事業戦略は教材とフランチャイズの2本柱になっています。では、財務戦略はどうでしょうか。実は多くの場合、スタートアップ企業においては、事業戦略と財務戦略は表裏一体になっています。

 財務戦略としては、借入、エンジェルからの出資の受け入れ、ベンチャーキャピタル(VC)からの調達、事業会社からの調達等さまざまなものがあります。「スタートアップ」と聞くと、すべてVCからの調達というイメージを抱くかもしれませんが、決してそうではありません。

 例えば、昨年上場した「北欧暮らしの道具店」のEコマース(EC)事業を運営するクラシコム <7110> [東証G]は、資本金は当初の800万円のままで、一度も増資をせずに上場までこぎつけました。

 他方、完全栄養主食を販売するベースフード <2936> [東証G]は、わずか設立5年で上場をしています。また、クラシコムとは異なり、VCからの調達も多く行っています。クラシコムもベースフードもともにDtoC(Direct to Consumer)と呼ばれるECを事業のコアにしていますが、ビジネスモデルも成長戦略も異なっています。そのこととも関連し、財務戦略も違ってきているのです。

 このように多くの企業では、事業内容、ビジネスモデル、そして、成長戦略に応じて、財務戦略は変わってきます。では、ロジカ・エデュケーションの財務戦略はどうなっているのでしょうか。ロジカ・エデュケーションは以下の会社やエンジェル投資家から出資を受けています。

株式会社M'sインターナショナル
株式会社夢現
株式会社日教販
小西光治

 これら株主において、M'sインターナショナルと夢現はロジカ式の教室運営をしています。また、日教販はプログラミング教材「ロジカ式 for SCHOOL」の学習コンテンツの提供を行っています。すなわち、ロジカ・エデュケーションでは、事業を進めるにあたってパートナーとなるような企業から出資を受け入れているということです。

 ここで、スタートアップ企業における資金の出し手について改めて整理してみましょう。先述したように、スタートアップ企業が調達をする場合、従来はエンジェル投資家(以下、エンジェル)、ベンチャーキャピタル、そして、事業会社の3つに大別されます(図表4)(※1)。

図表4
【タイトル】

出所:「23社に投資したエンジェル自らが語る、エンジェル投資家の活用法 2020年版」を参考に作成


 図表4にあるように、エンジェルやベンチャーキャピタルは主にキャピタルゲイン等を理由にスタートアップ企業に出資をすることが多いです。

 エンジェルとベンチャーキャピタルの大きな違いは資金の元手になります。エンジェルの場合は、多くが事業のM&AやIPO等によって得た資金を元手にして、自己勘定で投資をしています。

 かたや、ベンチャーキャピタルは、投資事業有限責任組合において、LP投資家(※2)と言われる機関投資家、事業会社、そしてプロの個人投資家等から資金を集めて、スタートアップ企業に投資をしています。つまり、VCは投資家から資金を預かった上で、投資をしているのです。

 事業会社によるスタートアップ企業への投資は、これらエンジェルやVCとは異なります。事業会社の場合、必ずしもキャピタルゲインを目的にするのではなく、戦略的投資や事業提携を通じて投資をすることが多いのです。

 ロジカ・エデュケーションの株主で言えば、M'sインターナショナル、夢現、日教販等はまさに、事業提携や新規事業における戦略的投資の位置づけとして、出資をしていると予想されます。

 具体的には、M'sインターナショナルと夢現は、ロジカ・エデュケーションにおけるフランチャイズ事業での事業提携、日教販はプログラミング教材での事業提携といった点で出資をしているのです。

 ロジカ・エデュケーションは、フランチャイズと教材の2つを事業の中心にしていますが、これら事業には、上記株主からの出資を通じた戦略的事業提携も事業の成長戦略に貢献していると考えられます。このように、企業から出資を受け入れることで、資金を得るだけでなく、事業戦略面でもプラスになることがあります。

 さらに、事業提携といった観点では興味深い動きもあります。ロジカ・エデュケーションは2022年1月、公教育における探究学習の推進に向けて、NEC <6701> [東証P]とも協業を開始しています(※3)。

 もともと、ロジカ・エデュケーションはNECとは、NECの教育クラウドプラットフォーム「Open Platform for Education」のプログラミング教材サービス分野で協業をしていましたが、今般、さらに協業を進めています。

 今後、これら協業がうまくいくと、場合によってはNECが出資をするということが視野に入ってくることもありそうです。

 実際、スタートアップ企業が成長する過程で大手企業から出資を受けることはよくあります。例えば、昨年上場をしたファッションレンタ事業を行うエアークローゼット <9557> [東証G]は創業初期において、洋服の管理・配送を担っていた寺田倉庫から出資を受けました(※4)。

 このように、スタートアップを分析する際には、事業戦略を踏まえた上で、どういった投資家や企業から出資を受けているかを押さえることで、企業の事業戦略と財務戦略の関係性を把握できるようになります。

 また、現在、事業提携等を行っている企業やステークホルダーは将来の株主候補になることもあります。このように事業戦略と財務戦略の両面から企業を理解することで、企業の経営戦略をより立体的に把握できるようになります。ぜひ、こういった視点も活用してみてください。

(※1)ここで「従来は」としているのは、近年、ベンチャーデットや、FUNDDINOのような株式投資型クラウドファンディングなどさまざまな調達手法が増えているからです。ただ、ここではいったん単純化して、上記3つの調達方法についてまとめます。

(※2)投資事業有限責任組合における有限責任組合員(Limited Partner)をLP投資家といいます。

(※3)NECとロジカ式が探究学習の分野で協業
https://jpn.nec.com/press/202201/20220111_02.html

(※4)話題のファッションレンタルサービス「airCloset」を運営するノイエジークに寺田倉庫らが出資。経営基盤の強化、中核人材の採用を促進。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000011623.html



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