【特集】プラチナは安値もみ合い、供給過剰見通しも売られ過ぎの見方 <コモディティ特集>
MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行
その後は売られ過ぎ感から買い戻されて下げ一服となったが、米FRBの大幅利上げ見通しを受けて各市場から投資資金が流出すると、1000ドル前後で戻りを売られた。株安が続くと支持線となる900ドルを割り込み、一段安となる可能性がある。
ただ、ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(WPIC)は今年の供給過剰見通しを示したが、過剰幅は昨年から縮小すると予想しており、安値で買い戻されると下支えになるとみられる。ロシアとウクライナの戦闘の行方も焦点であり、当面は利上げに対する各市場の反応を確認しながら安値圏でのもみ合いが続くとみられる。
●米FRBの大幅利上げ見通しで各市場から資金引き揚げの動き
5月3~4日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を0.50%ポイント引き上げ0.75~1.00%とすることや、資産売却に着手することが決定された。これまで緩やかな利上げが続くことが見込まれていたが、経済指標でインフレ高進が示されたことから大幅利上げの見方が強まった。
6月に0.75%ポイント利上げを織り込む場面も見られたが、行き過ぎ感もあり、市場は6~7月に0.50%ポイントずつ利上げするとの見方で落ち着いた。ただ、それでも政策金利は1.75~2.00%と中立金利とされる2.00~2.50%のレンジ下限である。高インフレが続けば更に利上げする必要があるとみられている。米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、FRBが物価の目安としているコア個人消費支出(PCE)価格指数について、現在の5.2%から年末時点に約4%、2023年には2.5%近辺まで低下するという見通しを示しており、インフレが落ち着くかどうかが当面の焦点である。
米金融大手バンク・オブ・アメリカ(BofA)によると、投資家は極端なリスク回避のなかで株式、債券、マネー・マーケット・ファンド(MMF)、金などあらゆる資産クラスから資金を引き揚げた。11日までの週に株式から62億ドル、債券は114億ドル、MMFは197億ドル、金は18億ドルが流出した。仮想通貨やテクノロジー株の下落はインターネットバブル崩壊(2000年)や世界金融危機(2008年)に匹敵すると指摘された。FRBの大幅利上げが続くと、各市場から投資資金が流出しプラチナの圧迫要因になるとみられる。
●プラチナは供給過剰見通しも過剰幅は縮小
WPICの四半期報告によると、2022年第1四半期のプラチナは5トン供給過剰となり、前四半期の13トンから過剰幅を縮小した。需要(48トン)と供給(53トン)ともに前四半期から減少した。また、2022年は19トン供給過剰(前回見通し20トン供給過剰)と前年の35トンから過剰幅を縮小する見通しとなった。供給は前年比5%減の242トン、需要は同2%増の223トンと予想された。今年は南アフリカで3年ごとの賃金交渉があり、ストライキが実施される可能性があるという。また、西側諸国の対ロ制裁でロシアの出荷が減少するとみられている。
一方、自動車触媒需要は13トン増加する見通しである。小型車の生産増加や排気ガス規制強化によるプラチナ使用量の増加に加え、ガソリン車でパラジウムの一部を代替する動きが続いていることが背景にある。宝飾需要は中国で減少するが、他の地域では婚礼増加や高騰した金からの代替需要、高級ブランドの成長を受けて増加し、合計で1トン増加すると予想された。ポール・ウィルソンCEOは、「第1四半期の期首には、コロナ禍からの経済回復において、大半の地域の状況は様々だった。しかし、2月末にロシアがウクライナに侵攻すると、市場に衝撃が走り、この影響はこの先何か月、何年と感じるものになった。既にコロナ関連の要因や事業環境の困難が存在していたところに、この新たな複雑性が加わったため、市場全体の変動が大きくなるとみられる」と述べた。
プラチナETF(上場投信)残高は5月16日の米国で36.53トン(2月末35.72トン)、英国で16.36トン(同16.82トン)、南アで10.74トン(同12.91トン)となった。合計で1.82トン減少した。米国で増加したが、FRBの大幅利上げ見通しや景気減速懸念、ロシアとウクライナの戦闘長期化による先行き不透明感を受けて投資資金が流出した。
一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、5月10日時点のニューヨーク・プラチナの大口投機家の取組は1363枚買い越し(前週1541枚売り越し)に転じた。景気減速懸念の高まりを受けて4月26日時点で2357枚売り越しと2018年9月以来の売り越し水準となったが、900ドル台を維持したことで買い戻された。ニューヨークの指定倉庫在庫の減少で実需筋の買い戻しも入りやすく、売られ過ぎとの見方が強い。
(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)
株探ニュース