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【特集】原油市場は混乱へ?! コロナ・ウクライナ危機に続きNOPEC法案が新たな火種に <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 今月5日に開催された石油輸出国機構(OPEC)プラスの閣僚会合は過去最短記録と並ぶ15分程度で終わったと伝わっている。6月に日量43万2000バレル増産すると表明する文章を読み上げただけで会合は終了したようだ。ロシアがウクライナに侵攻した後、ニューヨーク市場でウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物は3月に一時1バレル=130ドルまで上昇し、その後も100ドル付近で推移していることからすれば相場は引き続き神経質で、追加増産を望む声は多いがOPECプラスは従来の増産方針を変えていない。

●産油国はロシアとの協調も重視

 ロシアとの石油取引を停止する西側の国は増加しており、欧州連合(EU)や日本も含めて今後さらに禁輸が広がっていくだろう。消費国としてはロシア産以外の原油の調達を拡大しなければならないが、ロシアとサウジアラビアが舵取り役であるOPECプラスは追加増産に否定的である。消費国の増産要求よりも、OPECプラスの枠組みを重視していると思って差し支えないのではないか。ロシアの軍事行動を支持するとはっきり表明する国は限定的だが、産油国は西側とのつながりだけでなく、ロシアとの協調も依然として重視している。

 石油にほとんど依存しない社会経済を目指している西側が産油国に対して、回収できるか不明な資金を投じて増産態勢を整え、原油価格の上昇を抑制するよう要求するのはただの横暴である。ウクライナにおけるロシアの軍事行動が目に余り、ロシアへの戦費供与を停止するため禁輸が必須であるとしても、OPECの盟主であるサウジアラビアが消費国の言い分を聞き入れる可能性は低い。主要産油国は現状の原油高を地政学的リスクの高まりが背景であると指摘しており、需給はひっ迫していないとの認識だ。不足しているのは世界的な精製能力であり、石油製品の供給であって、原油ではない。原油と石油製品の価格差、拡大する精製マージンからすれば、エネルギー高は原油を輸入する消費国の問題である。

●圧力を強める米国、混乱が広がる可能性

 ただ、増産をためらっているOPECに対して、米国は石油生産輸出カルテル禁止(NOPEC)法案で圧力を強めようとしている。これまで同様の法案は廃案となってきたものの、先週の米上院司法委員会を通過しており、成立に向けて前進した。この法案が成立すると、米司法長官がOPECやOPEC加盟国を連邦裁判所に提訴することが可能になる。バイデン政権の発足後、ただでさえサウジアラビアと米国の溝が深まっているところに、本法案によって混乱が広がる可能性がある。

 米国でOPECやサウジアラビアが提訴されようとも、主要産油国は増産要求に応える必要はないが、米国との対立は明らかな脅威である。サウジやアラブ首長国連邦(UAE)は米国の要求に対してどのように対応するのだろうか。産油国は脱炭素社会に向けて石油産業以外への投資を急がなければならず、増産のために資金を投じている場合ではないが、米国を無視し続けることもできない。コロナショック、ウクライナ危機に続く新たな混乱の幕が開くのか、注目しなければならない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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