【特集】相場観特集スペシャル版・2022年後半相場の展望 松井証券 窪田朋一郎氏に聞く <GW特集>
窪田朋一郎氏(松井証券 投資メディア部長 シニアマーケットアナリスト)
―止まらないインフレと豹変するFRB、勝ち残るためにとるべき投資戦略は?―
今年は日米株式市場ともに試練の年となっている。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、経済対策として打ち出されたなりふり構わぬ財政投入と超緩和的な金融政策。これが未曽有の過剰流動性を創出し、2020年の春先以降、株式市場は強力な上げ潮に乗った。しかし、現在はその反動で、米国をはじめ世界的にインフレの高進が強く懸念される状況に陥っている。筋金入りのタカ派に変貌したFRBを筆頭に各国中銀の金融引き締めの動きが強まるなか、足もとでは先行き不透明な中国経済も不安を助長している。株式市場はここから年末に向けどういうトレンドを描くのか。マーケットの分析・考察に定評があり、個人投資家動向にも詳しい松井証券の窪田朋一郎氏に年後半の相場展望を聞いた。
●「日経平均2万円大台近辺への急落もあり得る」
窪田朋一郎氏(松井証券 投資メディア部長 シニアマーケットアナリスト)
全体相場は、ここ米国株主導で波乱含みの展開を強いられているが、ゴールデンウイークが明けてからも不安定な展開が続きそうだ。今年の年末まで中長期的な時間軸でみた場合、日経平均株価はかなり深い押し目を形成する可能性があるとみている。
5月3~4日に行われる米連邦公開市場委員会(FOMC)では0.5%の政策金利引き上げと量的引き締め(QT)の開始を決定する公算が大きいが、6月以降のFOMCで、こうした金融引き締め策が大方の想定以上に強まっていくケースも考えられる。従来の見方では政策金利の引き上げは2.5%程度を着地点とするコンセンサスがあったが、更に高い水準を示唆するFRB高官の発言も増えてきた。今後、消費者物価指数(CPI)の伸び率が今より鈍化傾向をみせたとしても、少なくとも3~4%程度まで引き上げないと中立金利の水準には到達しないという考え方だ。
また、足もとの米国におけるインフレ高進は深刻であり、これに対応するためスピードも早める(1回当たりの政策金利引き上げ幅やQTの金額を上乗せする)必要に迫られそうだ。つまり、FRBの金融政策は、金融引き締めを「より早く、より高く」という状況を余儀なくされる可能性が高い。株式市場にとっては、厳しい環境を覚悟せざるを得ないと思われる。
欧州中央銀行(ECB)も早晩、FRBの政策に追随して金融引き締めの動きを強化する方向となるだろう。ウクライナ問題に絡む商品市況高の影響が及んでおり、年後半はむしろ欧州の方が米国よりもインフレの度合いが強まることが見込まれ、これに対応した政策スタンスをとるよりない状況が予想される。ロシアのウクライナ侵攻は長期化する様相で、可能性としては5月9日のロシア戦勝記念日に合わせて、プーチン露大統領が勝利宣言もどきのアナウンスを行うかもしれないが、おそらくウクライナは抵抗を続け、そう簡単に停戦が実現するとは思えない。
また、中国のゼロコロナ政策の副作用も大きく、実体経済への下押し圧力が顕著になってきた。預金準備率の引き下げなど、中国人民銀行は金融緩和策をとるが、更なる金融緩和余地は少ないほか、そもそも行動制限が課されては景気が浮揚するはずもない。
こういう状況下では、株式市場は当面下値リスクを意識せざるを得ない。米国株主導のリスクオフ相場が秋ごろまで続きそうだ。本格的な下げ局面は、FRBによるQTがスタートしてしばらく経った後、実際に市場から資金が吸収され、マーケットの流動性が低下してからとなるだろうが、その際には米国株の崩れと並行して、日本株も下値を探る展開が避けられないだろう。オーバーシュートすれば、日経平均2万円大台攻防が意識されるような水準まで暴落するようなケースが生じて不思議はない。一方で急落後は、FRBの金融引き締め方針が頓挫し、年末にかけて空売りの買い戻しを絡め大きくリバウンドに転じる可能性はあるが、2万5000~2万6000円程度が、戻りの上限とみている。
こうしたなか、個別株戦略はどうすればいいのか。まず、高PERのグロース株は短期のリバウンド狙い以外は基本的に触らないこと。PERやPBRが低く配当利回りが高いバリュー株が投資対象として相対的に有利となる。もっとも、全体相場が下落基調を強めれば、バリュー株に照準を合わせてもキャピタルゲインはなかなか期待しにくい。したがって、バリュー買いのグロース売り(空売り)といったロング・ショート戦略が有効であると考えている。
また期間限定ではあるが、銀行株に投資資金が流れ込む場面はありそうだ。それは、急速な円安進行に耐え切れず、日銀がこれまでの金融政策のスタンスを変え、ゼロ金利解除もしくはそれに準ずるような動き(イールドカーブ・コントロールの許容幅を広げたり、購入する債券の年限を短くするといった動き)を明示した場合に、銀行株は有力な投資対象となる。ただし、この場合も深追いせず、噴き値があれば利益確定を優先しておく方が無難だ。
(聞き手・中村潤一)
<プロフィール>(くぼた・ともいちろう)
松井証券に入社後、WEBサイトの構築や自己売買担当、顧客対応マーケティング業務などを経て現職。ネット証券草創期から株式を中心に相場をウォッチし続け、個人投資家の売買動向にも詳しい。日々のマーケットの解説に加えて、「マザーズ信用評価損益率」や「デイトレ適性ランキング」「アクティビスト追跡ツール」など、これまでにない独自の投資指標を開発。
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